「膠原病のホントのところ」から学ぶ臨床の神髄

その他ドクター

 

膠原病診療の考え方が書かれた対談本「膠原病のホントのところ」。

 

この本が大変面白かったので紹介したい。

膠原病診療のポイントは大きく2つあるようだ。

 

  1. 膠原病は臨床診断
  2. 膠原病は原因不明

 

1. 膠原病は臨床診断

 

膠原病は「臨床症状と抗体検査から確定診断して治療開始…」というイメージがある。

しかし実際は違っているのだという。

 

診断と治療は一体

まず検査が陽性であってもその疾患であるとは限らない。

糖尿病なら血液検査をしてHbA1cが9%で血糖が300mg/dlだったら糖尿病って言います。でもリウマトイド因子が500IU/mLでも関節リウマチとは限らないです。

 

さらに分類基準を満たしていてもその疾患であるとは限らない。

分類基準を満たしていてもその病気だと思えないこともあるし、分類基準を満たさなくても治療をすることがあります。

 

そのため膠原病の診断は「臨床診断」の占める割合が高いそうだ。

症状の組み合わせで診断するのが臨床診断。

臨床診断と皮膚科医のヤブ医者化について

皮膚科診断は直観的になりがちである。

直観的になんとなく湿疹と診断して、とりあえずステロイド外用…という対応が多いのではないだろうか。

その理由は確定診断できる検査がなく、臨床症状のみで診断しなければならないからである。…

 

臨床診断を行う代表的な疾患はかぜである。

かぜの原因ウイルスは多岐に渡るため、原因を特定することはできない。そのため病歴や症状などから総合的に判断を行う。

そして「数日で症状が改善に向かってきて治る」という経過をもって診断が確定する。

 

このように臨床診断はあくまで推定診断であり、その後の治療経過まで含めて診断に至る。

つまり治療しながら診断する。診断と治療は明確に分かれていないのである。

あるところまでが診断その先が治療、というように診断と治療が分かれているわけではありません。診断と治療とはもっと渾然一体となったプロセスです。

 

膠原病診療の神髄

その疾患らしさを探しながら、様々な疾患を除外しつつ、治療反応性まで見て診断がつく。

SLEっぽさを探しながら、同時にそうじゃないものを除外していくプロセスがあって。

実際治療してみたら治療反応性がそうだったというところまでフォローして診断がつく。

 

膠原病の診断は「かぜ」と同じく臨床診断である。

しかし「かぜ」とは明確に違う点がある。

かぜの基本は対症療法。

しかし膠原病はステロイド内服などの副作用が大きい治療を行う必要がある。

 

つまり診断がついていない段階(感染症を除外できていない段階)から、免疫抑制療法を開始する場合がありうるのである。

感染症を除外できていない場合でも、治療を並行してやらざるをえないときはしばしばあると思うんですけど

 

診断のつかない中で悪化させるかもしれない治療を開始し、治療反応性を見ながら診断を確定していく。

そこに膠原病診療の神髄がありそうだ。

ステロイドパルスにいきたいのはやまやまですけれど、パーキロ1でぐっと我慢する

ある程度培養が陰性で返ってきて、特異抗体が陽性で返ってきた時点で、そこからステロイドパルスに入る

 

診断がついてないときに患者とモメやすい

さらに臨床診断に特有の問題点も存在する。

明確に診断がつかない。そこに不安や迷いがあると患者とトラブルになりやすいのだという。

医師の不安や迷いに患者さんが「この先生、大丈夫なのかな」って感じてしまうのだと思います。

 

そこで膠原病は分からないものだ…と割り切って、自信をもって対応することが重要となる。

そもそも膠原病は原因不明なので「そういうものだよ」ってきっちりと説明する。この「uncertainty」の部分に主治医が不安になってしまうと、患者との関係はダメですね。

 

しかし「分からない」と自信をもって言えるためには、相応の経験や知識が必要である。

「わからない」と言えることの価値【医学書評】不明熱、不明炎症レジデントマニュアル

色々な面白い教科書を出版されている国松淳和先生。

今までいくつかの本を紹介してきた。

・蹄の音を聞いてシマウマを考える方法「ニッチなディジーズ」

・不定愁訴をみるために必要なこと「仮病の見抜き方」

・…

 

そのあたりにも膠原病診療のポイントがありそうだ。

不安になるということは、僕たちの側に「何かを見逃しているかもしれない」という後ろめたさがあるからで

最低限、知識と経験が必要だけれども、膠原病の「uncertainty」の部分を理解するとうまく対応できるんじゃないかっていうふうに思います。

 

2. 膠原病は原因不明

 

膠原病のもう一つの特徴は「原因がわからない」ということ。

理由を知りたくなってしまうのは人間の本能である。

原因は何ですか?と聞きたくなる原因

診療中に聞かれることが多い質問の一つに「原因は何ですか?」がある。

しかしこれを聞かれると困ってしまう。

ほとんどの皮膚疾患が原因不明だからである。

湿疹すらも原因がはっきりするのは稀。

最も多いのは…

 

したがって原因不明の病気を受け入れてもらうのは難しい。

「なっちゃったもんはしょうがないでしょ」っていうしかないんだけれど、それはあまりにも冷徹な話なので、「それを患者さんにどういうふうな形で受け止めていただくか」という話ですね

 

この本にはその辺りの対応についても記載されている。

重要なのは原因不明を前面に出さずに未来目線でいくこと。

膠原病患者さんに対して意識しているのは、原因はあまり追求しないで未来目線でいくことです。

 

そこで重要なのは演技力。

「ケアはレトリック」という言葉は心に響く。

ただこれもいろんな演技力が必要ですよね

ケアの本質は科学的事実ではなく、レトリックですからね

 

皮膚科でもはっきりと原因がわかるケースは決して多くはないため、演技力の乏しい自分はいつも苦労している。

 

まとめ

 

今回は「膠原病のホントのところ」を紹介した。

このように一般的な教科書に書かれていない「考え方」を解説した本は貴重である。

この本に書かれている膠原病診療の考え方は、他の診療科でも通用する普遍的なものだと感じた。

皮膚科の分野でもこのような教科書が登場してほしいと思う。

 

Source: 皮膚科医の日常と趣味とキャリア

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