原因不明の中毒疹って多くないですか?【多形慢性痒疹について】

その他ドクター

 

総合病院で診療していると、こんな患者が多いのではないか。

症状は全身の紅斑と強い痒み。

 

色々な検査を行うが原因は不明。

皮膚生検を行っても、非特異的所見のみ。

 

よくわからないので、とりあえず中毒疹と診断することも多いと思う。

要するにゴミ箱診断である。

中毒疹とは

体外性あるいは体内性物質により誘発される反応性の皮疹の総称。

薬疹のほか、ウイルス、細菌、食物、その他の原因による急性発疹症のゴミ箱診断とも呼ぶべき概念。

「あたらしい皮膚科学」より

 

しかし最近は多形慢性痒疹という病名をつけている。

今回は不思議な病気「痒疹」について。

 

痒疹とは

 

多形慢性痒疹というのもよくわからない病気である。

まず痒疹の定義は孤立性で融合しない丘疹であること。

(日本皮膚科学会ホームページ)

痒疹丘疹とは強い痒みを伴う孤立性の丘疹をいう.

慢性痒疹診療ガイドライン

 

ところが例外的に、多形慢性痒疹の皮疹は融合する。

(MB derma 284: 27, 2019)

丘疹は集蔟する傾向があり,痒疹としては例外的に融合して苔癬化を呈する.

慢性痒疹診療ガイドライン

 

さらに丘疹だけでなく紅斑もできる。

周囲に膨疹ないし蕁麻疹様の紅斑を生じることがある.

慢性痒疹診療ガイドライン

 

痒疹なのに痒疹の特徴がない。

丘疹も紅斑も苔癬化も何でもありな、定義を無視した不思議な疾患が多形慢性痒疹である。

 

多形慢性痒疹とは

 

では丘疹がほとんどなくて、紅斑だけだったらどうだろうか。

症例によっては病変のほとんどが蕁麻疹様の紅斑で、痒疹丘疹がわずかしかみられないことがある。

(皮膚アレルギーフロンティア 13(2): 67, 2015)

 

痒疹と診断する以上は、痒疹丘疹の存在が必要と考えられる。

痒疹がなければ多形慢性痒疹とは言えない。北里大学名誉教授の西山茂夫先生はこの考え方。

高齢者の腰部から腹部にできて、表皮変化がなく、リンパ球と好酸球の増殖がみられるタイプは決して慢性痒疹にはなりません。

皮膚病診療 33(12): 1281, 2011

 

ところが紅斑が主体でも、多形慢性痒疹と診断する先生もいるようだ。

獨協大学の片桐一元先生はこの考え方。

私の多形慢性痒疹の定義としては、躯幹を中心として存在する不整形の浮腫性紅斑の存在を第一の基準としています。

皮膚病診療 33(12): 1275, 2011

 

痒疹がないものを多形慢性痒疹と診断するかは意見が分かれている。

【対談 痒疹はなぜ起こる?】

佐藤貴浩先生「痒疹丘疹がないと、痒疹と言いにくいということがあります。」

片桐一元先生「痒疹丘疹にこだわる必要はないのではありませんか。痒疹丘疹があるものと、浮腫性紅斑様のものがあり、ともに治療に抵抗性があるものと定義すればまとめられる気がします。」

皮膚アレルギーフロンティア 13(2): 95, 2015

 

痒疹が無い多形慢性痒疹。

もはや意味がよくわからないが、これはまさによく出会う原因不明な中毒疹そのものなのではないか。

原因がわからないし、治療も効かないことに変わりはないが、多形慢性痒疹という診断名がついたほうが診療しやすくなるイメージがある。

この概念を知って以来、痒疹がなくても多形慢性痒疹という病名をつけるようになった。

賛否両論ありそうだが、原因不明の中毒疹よりはいいかな、と。

 

海外の現状

 

一方海外では、中毒疹という病名も、多形慢性痒疹という病名も使われていないようだ。

しかし海外にはUrticarial dermatitisという疾患概念がある。

皮疹はかゆみを伴う蕁麻疹様の紅斑、丘疹。病理組織は非特異的所見。

(J Am Acad Dermatol. 62(4): 541, 2010)

 

Urticarial dermatitisが本邦での多形慢性痒疹にあたる可能性が示唆されている。

この病名は使いやすそうだ。

痒疹があるかないかという不毛な議論を避けることができる。

 

でも馴染みがなさすぎて、カルテに記載するのはためらわれる。

もう少し普及してきたら使っていきたいが。

 

多形慢性痒疹の治療

 

治療の基本はステロイド外用とされているが、まず効果がない。

ステロイド内服が効くが、長期では使いたくない。

 

紫外線治療は意外と有効だと感じている(即効性はないが副作用が少ないし)。

それでもダメならアトピー性皮膚炎に準じた低用量のシクロスポリンを使用する。

 

難しい疾患だが、診断名がつくようになっただけましかな。

賛否両論あるところだろうけど。

Source: 皮膚科医の日常と趣味とキャリア

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