本日の質問はこちらです。
1歳未満のインフルエンザウイルス感染症に対する治療で、タミフルの用法用量について、4mg/kg/日分2での使用は有効でしょうか。ご経験がある先生のご意見をお聞かせください。
1歳以上の小児に対するタミフル(オセルタミビル)の量は4mg/kg/日です。(最大150mg/日)
いっぽう、生後2週間から生後11か月までの乳児には6mg/kg/日です。
この乳児投与は、2016年11月24日から可能になりました。
どうして量が違うのか、という質問ですね。
良い質問です。
これに対して私はこう答えました。
「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬の要望募集」に日本感染症学会、日本小児感染症学会、日本未熟児新生児学会の3学会は、1歳未満に対するタミフルの適応追加を求めました。
その結果、「国内使用実態調査で情報は限られているられているものの、6mg/kg/日分2投与の有効性及び安全を否定する情報は得られていないこと等から、1歳以上児の本邦における承認用量は4mg/kg/日分2であるものの、欧米で承認されている用法・用量であるオセルタミビル6mg/kg/日分2を、本邦における1歳未満の小児における用法・用量として設定することは可能」と判断されました。
以上の経緯から、1歳未満では6mg/kg/日分2で処方されています。
日本小児感染症学会の2016年の調査では、1歳未満に対するオセルタミビル6mg/kg/日分2の有効性は82%とされます。
我ながら、答えがずれてます。
1歳未満では6mg/kg/日になった経緯と、有効だったというデータ。
これでは、4mg/kg/日ではダメなのか、6mg/kg/日でなければダメなのか、分かりません。
有効性82%も、アンケート結果ですし。
プラセボ投与でも「効いたような気がする」というのはご承知の通りです。
今回は、1歳未満のタミフルがなぜ6mg/kg/日なのか考えます。
タミフルの代謝速度は生後9か月から2歳までで高い
論文を高速3連発して、一気に結論に行きます。
1〜2歳の子どもは3〜5歳の子どもよりオセルタミビルの代謝が30~52%高く、その結果オセルタミビルの血中濃度が下がります。
代謝速度が速いということは、薬が有効血中濃度を保つために多めの薬を投与しなければなりません。
生後8カ月までは6mg/kg/dayの量で有効な血中濃度を保てます。
9~11か月では6mg/kg/dayでは少なく、7mg/kg/day必要でした。
ちなみにグラフを見ると、1~2歳では7mg/kg/dayでも有効血中濃度に届いていません。
Pharmacokinetics of oseltamivir in infants under the age of 1 year.Clin Transl Med. 2016; 5: 37.
生後3カ月、5か月、6カ月、11か月の4人の子どものデータです。
非常に小さなサンプルですが、結論としては有効血中濃度を保つためには4.7-6mg/kg/日の投与が必要でした。
結論
1歳未満にタミフル4mg/kg/日では足りません。
6mg/kg/日投与してください。
余談
この記事から派生する疑問がいくつかあるので、書いておきます。
1~2歳に4mg/kg/日は妥当?
代謝速度、血中濃度から、もう少し量がいるのではないか。
特にこの時期はインフルエンザ、けいれん、脳症というリスクが高い。
再考すべきではないか。
日本で1歳未満のタミフル適応が遅れた理由は?
ウイルス 2005 第55巻 第1号 p111-114に、こんな記載がありました。
中外製薬から、オセルタミビルを 1 歳以上の幼児にのみ使用することが要望された。これは、幼弱ラットを使用した試験により、1歳以下の乳児における副作用の可能性が示唆されたためである。オセルタミビルを生後7日齢のラットに1000mg/kg投与したところ(小児の推奨量の500 倍)、死亡例がみられ、オセルタミビルの脳中脳度が上昇した。血液脳関門が未熟であることが原因として考えられたという。
500倍投与して死んだと言われても。
私はラーメン好きですけど、500人前食べたら死んでしまいます。
これだけが理由で1歳未満投与が遅れたわけではないのでしょうけど。
小児は治験が難しいですし、適応拡大って難しいですよね。
適応拡大のために
治験が難しい小児領域で、薬の適用拡大には「医学薬学上の公知」が必要になります。
「医学薬学上の公知」とは簡単にいうと次の2つのいずれかです。
- 外国ですでに適応があり、治験データまたは信頼できる論文が存在する。
- わが国に信頼できる臨床試験が存在する。
前者は今回のタミフル適応拡大のようなものです。
後者は例えば、ステロイドが川崎病に適応拡大されたRAISE studyです。
私には「あの薬の適応を拡大してやろう」という野望はないのですが、たとえばアトピー型喘息に対してダニ舌下免疫療法が適応拡大されるためには、あと何が必要なのかなって思ったりしました。
Source: 笑顔が好き。
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