Japan as No.1
敗戦の焼け跡から高度成長が始まり,年ごとに暮らしが豊かになっていった日本にとって,マクガバン・レポートと相前後して出版された Ezra Vogelの “Japan as Number One”は,日本人の自尊心を快くくすぐるものでした.
そして,この頃からほとんどの日本人が『日本は先進国なのだ』と自負するようになってきました.
『マクガバン・レポートが日本食を絶賛した』というデマ情報も,すんなり受け入れらるのに無理はありませんでした.
かつては『日本の食事は貧相で後進的.早く欧米先進国に追いつかなくては』 という1960年代の認識から使われていた言葉;
食の近代化
という言葉はなりをひそめます.変わって使われだしたのが,
食の欧米化
でした.しかもこれはいい意味で使われるのではなく,『食の欧米化の弊害』『食の欧米化による肥満』などと,もっぱら悪い意味で使われるだけでした.当然そういった使い方をする背景には,
日本食こそ世界の理想食なのだ!
と信じるようになったからです.マクガバン・レポートの誤読から始まった勘違いは ここまで増長してしまいました.
また1970年代以降,米国のファーストフードが次々と日本に上陸して,若者はこれに飛びつきましたが,その姿を 伝統的な和食を好む人達は苦々しくみていました.
それを象徴するように,多くの健康雑誌・栄養/料理雑誌で,『日本食はバランスがとれていて医学的にも世界中で参考にされている』などという特集記事があふれるようになりました.
世界食となった日本食<特集>
この原因は食物摂取における蛋白質,脂質,炭水化物のエネルギーバランス(P,F,C比率)が日本人の場合理想に近いからであるとされて,日本型食生活が一躍世界的に注目されるようになった。
更には こんな意見まで出てきました.
そこで, 特に偏った食事の人は除いて, 平均的な日本食を食べている人達には食事療法は不要で,高脂質患者をみた場合は直ちに薬物投与で良いのではないかということになる.
日本食は,そのままで食事療法だというわけです. ただし,この後に続けて『この辺についても,さらに専門家による討議が必要であろう』と,断定までは用心深く避けています.
当時は日本食ブームはなかった
たしかに現在では 海外及びからの旅行者に,『日本食ブーム』はあります.
しかし現在の日本食ブームは見た目の美しさや面白さ・楽しさ,そしてもちろんおいしい(と思う人が多い)ことがその理由です.
決して海外で栄養学を勉強して,詳細に日本食の栄養を分析した結果『なんてすばらしい栄養バランスなんだ!! Japanese Food No.1 !!』と思って日本に来ているのではありません.
ところが当時の『日本食=世界の理想食』は,日本の一部関係者だけがそう思っていただけであり,その理由も『栄養学的に優れている=バランスがとれているから』だけでした.ちなみに『栄養学的にバランスがとれている』の根拠は『日本食だから』でした.言葉の堂々巡りです.
こういう時代に,それまでの体裁と内容をガラリと変えて登場したのが食品交換表 第5版だったのです.
ここまでの記事をずっとお読みいただけた方なら(いるのか?),食品交換表第5版が なぜこんなに自信満々だったのかがよくご理解いただけるでしょう.
そして,日本の糖尿病食事療法における,アクセルとブレーキを踏み間違えた迷走・暴走はここからいよいよ本格的になります.
[23]に続く
Source: しらねのぞるばの暴言ブログ
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