食事療法の迷走[23] 米国『炭水化物比率の指定はやめた』日本『ええっ?』

健康法

すべての日本人は炭水化物60%を守らなければならない

1986年に米国糖尿病学会(ADA)は,食事ガイドライン “Nutritional Recommendations and Principles for Individuals With Diabetes Mellitus1986″を発行しました.そこでは『炭水化物60%』を許容しました.

Diabetes Care Vol.10(1) 126-132,1987

ただしこの記事にも書いたように,『許容した』のであって,すべての糖尿病患者に一律に推奨したわけではありません.

しかし,日本では食品交換表第5版(1993年)で,『炭水化物60%が,すべての糖尿病患者が守るべき 基本原則である』,それどころか,糖尿病に限らず,健康で長生きしたいたいと思うなら, 日本人は一人残らずこれを守るべきだとまで書いてしまいました[下図 赤枠部]. この時点でやらかしてしまったのです.

食品交換表第5版 p.2

ADA 『比率は指定しない』

ところが,皮肉なことに日本糖尿病学会が第5版食品交換表で『理想の比率・世界の健康食』を高らかに宣言したその翌年,1994年にADAが出した新ガイドラインで足をすくわれます.

Diabetes Care 1994 May; 17 (5): 519-52

ADAの1994年ガイドラインでは,あっさりと『炭水化物60%』を引っ込めたのです[緑枠部]

Diabetes Care 1994 May; 17 (5): 519-52

ADAも迷っていたのでしょう.

A historical perspective of nutrition recommendations is provided in Table 1. Today there is no ONE “diabetic” or “ADA” diet. The recommended diet can only be defined as a dietary prescription based on nutrition assessment and treatment goals.

栄養に関する推奨事項のこれまでの推移をTable.1に示した. 今日では唯一の「糖尿病食」または「ADA食」などと言ったものは存在しない.推奨される食事は、(患者の)栄養評価と治療目標に基づいた食事処方としてのみ定義できるからである.

サラリと書いていますが,『糖尿病なら一律にこの食事』ということは ありえない,と言っているのです.つまり この時点で ADAは『理想の栄養比率』という考えを放棄しました.

『推奨されるべき理想の栄養比率』というものがあって,それを糖尿病患者に一切の例外を認めず一律に適用するのか,それともそんなものは存在せず,一人一人違っていて当たり前なのか,この2つの考えは正反対です.

それは炭水化物比率は40%がいいのか 60%がいいのか,という数字の大小問題レベルの話,すなわち定量的な違いではなくて,本質的に正反対の相違です.

日本糖尿病学会は,1993年に食品交換表 第5版を発行して,そこでは理想の栄養比率は 炭水化物/蛋白質/脂質=60/15/25 としました. 現在からは26年も昔の この時点で日米の糖尿病学会は 真逆の報告を向くことになりました.

この後,学会はどうしたでしょうか? どうするべきだったでしょうか?

[24]に続く

Source: しらねのぞるばの暴言ブログ

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