以前は細菌学に対して苦手意識が強かった(今もだけど)。
細菌培養を行ってみるが、結果報告用紙を見てもいまいちピンとこない。
しかし皮膚科で相手にする細菌の種類は案外少なく、グラム陽性球菌をカバーしていれば大半はなんとかなるようだ。
グラム陽性球菌は大きく2つに分けられる。
- ブドウ球菌
- 連鎖球菌
今回は皮膚科で最低限必要な細菌学の知識。
培養の結果報告画像を加えて簡単にまとめてみる。
1. ブドウ球菌
コアグラーゼという酵素の産生の有無で、ブドウ球菌は2つに分けられる。
- コアグラーゼ陽性ブドウ球菌=黄色ブドウ球菌
- コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(Coagulase negative Staphylococcus:CNS)
コアグラーゼ陽性ブドウ球菌は黄色ブドウ球菌で、皮膚感染症の原因になる。
コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)は皮膚の常在菌で、様々な菌が含まれる。
それぞれの菌についてさらに詳しく解説していく。
黄色ブドウ球菌
黄色ブドウ球菌は抗菌薬への耐性から3種類に分類される。
まずメチシリンへの耐性によってMSSAとMRSAの2つに分けられる。
MRSAは遺伝子変異によってメチシリン(ペニシリン系)の他、数多くの抗菌薬に耐性を持つ。
- メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)
- メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)
次にメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)は、ペニシリンを分解するβ-ラクタマーゼ産生の有無でさらに2種類に分類される。
- β-ラクタマーゼ陰性黄色ブドウ球菌
- β-ラクタマーゼ陽性黄色ブドウ球菌
βラクタマーゼ産生菌はペニシリンに耐性を持つ。
まとめると以下の図のようになる。
ちなみに外来患者から検出される黄色ブドウ球菌の割合は以下の通り。
β-ラクタマーゼ陰性MSSA | 21% |
β-ラクタマーゼ陽性MSSA | 45% |
MRSA | 34% |
(感染症レジデントマニュアルより)
β-ラクタマーゼ陽性菌が増えているので、黄色ブドウ球菌感染にはペニシリン系は使わないほうがいいとされている。
CNS
CNSには多彩な菌種が含まれる。
具体的には表皮ブドウ球菌、S. haemolyticus、S. saprophyticus、S. capitis、S. caprae、S. lugdunensis、S. saccharolyticus、S. warneri、S. homini、S. cohniiなど。
CNSは皮膚の常在菌で皮膚感染症の起炎菌にはなりにくい。
ただし尿路感染症や血管カテーテル関連血流感染症の原因になる可能性はあるようだ。
皮膚培養の報告書ではざっくりとCNSと表記される。CNSが検出されても感染とは考えなくてよいだろう。
一方血液培養の報告書では菌種が表記される。
1セットからのみ検出された場合はコンタミが疑わしい。2セット共に検出された場合は感染も考える。
2. 連鎖球菌
連鎖球菌は血液寒天培地上の溶血性によってα、β、γの3群に分けられる。
- α溶血性連鎖球菌
- β溶血性連鎖球菌=溶連菌
- γ溶血性連鎖球菌
αとγ溶血性は主に上気道、口腔内の常在菌で、報告書では菌種までは同定されないようだ。
β溶血性連鎖球菌は一般的に溶連菌と呼ばれ、皮膚感染症の重要な起因菌である。
報告書にはβ-Streptococcusではなく、溶連菌と表記されるのでやや分かりにくい。
β溶血性連鎖球菌
溶連菌にも3種類ある。
一般的に溶連菌と言えばA群溶連菌のこと。
- A群(Streptococcus pyogenes)
- B群(Streptococcus agalactiae)
- G群(Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis)
報告書の記載は以下の通り。
G群は菌種名ではなく「β溶血性連鎖球菌(G群溶連菌)」と記載されるため若干まぎらわしい。
A、B、G群はそれぞれ存在部位が異なっている。
- A群→鼻腔、咽頭
- B群→膣、腸管
- G群→上気道、会陰
主に皮膚感染症の原因になるのはA群溶連菌である。
しかし最近は、高齢者にB群、G群による皮膚感染症が増えているようだ。
溶連菌による壊死性筋膜炎
- A群:66%
- B群:11%
- G群:23%
皮膚病診療40(7)652, 2018
まとめ
今回は皮膚に関わるグラム陽性球菌をまとめてみた。
これだけわかっておけば、細菌培養の結果が少し理解しやすくなるかもしれない。
▼抗菌薬の使いかたはこちら▼
皮膚科医の抗菌薬の使い方シリーズ
Source: 皮膚科医の日常と趣味とキャリア
コメント