もっと危機意識を

内科医

  先日西日本を中心に数日間も降り続いた記録的な豪雨は,数十年に一度と言われる甚大な被害を各地にもたらし,200人以上もの人命が犠牲になりました.
  神戸市でも10万人近くに避難勧告がでて,中央区や灘区の山側でも土砂崩れが起きて一時避難指示が出たほどです.

  さらにその後は打って変わって連日のようにこれまた記録的な猛暑が続いており,全国で熱中症の患者が多発,死者さえ出ているといる有様で,特に豪雨災害で最も被害の大きかった広島や岡山の人たちにとっては,まさに泣きっ面に蜂という状態です.

  そんな中,豪雨の被災地では少しずつ復旧が始まり,全国から義援金やボランティアなど支援の手が差し伸べられています.私も微力ながら募金をさせていただきました.被災地の1日も早い復興と,亡くなられた方々の冥福を祈るばかりです.

  さて,地球温暖化の影響なのか,このところわが国を含め世界中で毎年のように大きな自然災害がおこり,少なからぬ犠牲者がでています.
  地震も頻繁で,この豪雨の最中にもなんと千葉県沖でマグニチュード6の地震が起こったのですが,誰しも慣れっこになってしまったのか,豪雨のニュースに完全にかき消されてしまいました.最悪の場合わが国を経済大国から最貧国に引きずり落としてしまうかもしれないという南海トラフ地震も,近い将来ほぼ確実に起こると言われています.

  こういった大災害が起こると,必ずといっていいほど政府や自治体の危機管理や対応の甘さばかりが批判されますが,我々国民の側も,もう少し常日頃から自然災害に対する意識改革が必要なのではないかと感じます.

  日本人というのは,いい意味でも悪い意味でも忘れっぽい性格なのか,大災害が起こると慌てて避難用品を揃えたりするのですが,しばらくすると危機感が去ってしまい,保存用の食品や水がとっくに期限切れになってしまったりする.今回も,自治体が作った防災マップの存在さえ知らなかったという人々が多数いるというから驚きです.

  自分はこんな災害には遭遇したくないという気持ちが,記憶の風化とともに,自分だけはまず大丈夫だろうという根拠のない自信にだんだん変貌してしまうようです.だから,テレビやスマホの緊急速報で避難指示が出ても全く従わない人も多い.自分のところはまさかと思っているのです.東日本大震災の時,津波から逃げ遅れて多数の死者が出たのもこれが一因でした.

  それから,今度はいざ災害からの復興計画という段になると,往々にして進展が遅い.
  財源の問題はともかくとしても,支援物資や義援金をどう分けるのか,避難所をいつまで設けるのか,仮設住宅をどのくらい作るのか,防波堤や堤防をどれくらいの高さでどこに作るのか,などなど,具体的なことになると縦割行政の弊害や各部署の思惑,自治体や被災者個々の要望,法律の足枷などが絡み合って,なかなか決まらない.

  何よりもそこに住む人々の要望を最優先するべきこと,そして民主主義国家たるもの何事も話し合いで決めるべきことは論を待たないでしょうが,関係者すべての意見が一致することなどあり得ないでしょうし,国家の存亡に関わるような緊急事態の時には多少の強引さや融通性も必要なのではないでしようか.

  たとえば,防潮堤一つ作るにしても,津波の恐ろしさは理解していても景観や観光への影響を心配して反対する人もいる.しかし,批判を恐れずに言えば,何よりも優先されるべきは人命であり,人々が安心して暮らせてこその地域であり景観だと思います.

  しかしこんなことは何も自然災害に限ったことではありません.

  北朝鮮問題など東アジア情勢がかつてないほど緊迫している昨今,賛否両論はあるにせよ防衛力の維持向上について真剣に考えなければならないのに,議論すること自体をタブーとしたり,自衛隊不要論など頭の中がお花畑状態の人々も多々いる.

  医療の世界もしかり,今や少子高齢化と医療費の増大で日本が世界に誇ってきた国民皆保険制度がもはや崩壊寸前となっているのに,全く他人事のように思っている人々のいかに多いことか.

  日本人は戦後の焼け跡から経済大国への奇跡的な復興と長く続く平和にすっかりあぐらをかいてしまい,誰しも,まさかこの国が大地震で国家存亡の危機に陥ったり,他国に蹂躙されたり,医療保険制度が破綻したりすることなどないだろうと,心のどこかで思っているのです.

  日本人というのは元来「和」の精神を何よりも大切にするということがDNAの奥深くに刷り込まれています.これ自体は,ややもすると自国第一主義が闊歩する現代の風潮にあって誇るべき国民性であり,その民度が世界の中でもトップクラスであると言われる所以です.
  しかし,裏を返せば,何事も根回しや話し合い,周囲への気遣いなどばかりに重きを置くがゆえに,物事が遅々として前へ進まず,目まぐるしく変わる世界情勢の流れにもついていけないわけです.

  一党独裁がゆえに何でもかんでもトップダウンで有無を言わさず決めてしまう中国や,自国の利益のためだけに他の国々を混乱に陥れてまで強引な政策をとる今の米国のやり方には大きな違和感を覚えます.

  けれども,今回のような甚大な自然災害への対策は言わずもがな,国家防衛,社会保障と,待ったなしの施策が必要なものは,強力なリーダーシップにより,とにかく何よりもスピード感を以て進めて欲しいと特に思いますし,我々国民ももっともっと危機感を持つべきでしょう.

  森友加計問題や議員のセクハラ問題が些細な問題だというつもりはありませんが,国家の根幹を揺るがしかねない大問題が山積している昨今,他人の揚げ足をとることばかりに終始している国会議員たちの姿を見ていると,本当にこの国の行く末は大丈夫なのか?と不安になるのは私だけでしょうか.


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Source: Dr.OHKADO’s Blog

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