『2型糖尿病』は存在しない[8]異議あり

健康法

医学論文に限りませんが,私は『我が意を得たり』と思うような論文であっても,必ずそれに反対意見を述べている論文を探して,両者を読み比べることにしています.どちらが正しいのか判断できることもありますし,どちらも正しく思えてわからなくなることもあります.しかし,それが科学の普通の姿でしょう.

異論はないのか

Ahlqvist博士の『2型糖尿病は存在しない. 従来2型糖尿病と呼ばれている病気には,実は4種類の異なる病気がある』という主張に対して,世界の学界からは『なるほど』という声があがりました.しかし,異論がなかったわけではありません.

たしかに博士の Data-driven Cluster Analysisという この統計手法には限界・欠点もあります.

たとえば極端に大きいクラスターと小さいクラスターとが共存していたら,小さい方のクラスターは埋もれてしまって検出できないだろう,などです.しかし,これはAhlqvist説 の全体に影響するものではありません. 仮に極端に小さいクラスターがどこかに埋もれていたとしても,それはさらに詳細な分析をすれば,より細かい小分類として検出されるであろうからです.

発表論文へのコメントを見ると

博士の論文に対して,強く異論をあげたのは 主として糖尿病臨床を専門とする人達でした.

Ahlqvist博士の発表論文に対して このようなコメントが出されています.

https://www.thelancet.com/journals/landia/article/PIIS2213-8587(18)30129-3/fulltext
https://www.thelancet.com/journals/landia/article/PIIS2213-8587(18)30130-X/fulltext
https://www.thelancet.com/journals/landia/article/PIIS2213-8587(18)30126-8/fulltext
https://www.thelancet.com/journals/landia/article/PIIS2213-8587(18)30124-4/fulltext

『この新分類では,糖尿病神経障害の発症を予想できないから役に立たない』などという意見も出されていますが,いったい『糖尿病性神経障害の発症を予測できる診断技術』というものがかつてあったのでしょうか.これからも永遠にないでしょう.ですからこの意見はほとんど言いがかりですね.

統計的な観点から,『Clustering解析を行う際に使うパラメータは,相互に独立したものでないと,存在しないClusterがあたかも存在しているかのように見えてしまう』という指摘もあります. これは 統計学的にはまったくその通りなのですが,では糖尿病(に限らず)に関連する指標で,相互に全く独立したパラメータというものがあるでしょうか? 私には年齢と性別くらいしか思いつきません.

Ahlqvist博士が新分類で『重度』『軽度』『加齢性』という言葉を用いたことを批判している人もいます.『軽度』という言葉から,患者が自分の病気を軽視して治療に専念しないのではないか.逆に『重度』や『加齢性』という言葉が,患者を不必要に悲観に追い込むのではないか,という懸念です.

そして 批判的なコメント全般に共通しているのは,『この新分類は,実際の臨床治療において,なんらガイドラインとなるものではない』,つまり具体的な治療の役に立たない,という指摘です.

これらのコメントに対して,Ahlqvist博士がまとめて回答しています.

https://www.thelancet.com/journals/landia/article/PIIS2213-8587(18)30139-6/fulltext

軽度』などという言葉遣いが不適切という指摘に対しては,腎症・網膜症の進行リスクが特に大きいグループを強調するために『重度』と命名したので,それと対比して『軽度』を用いたと説明しています. したがって『軽度』を外して,単に『肥満性糖尿病』『加齢性糖尿病』としてもよいのだが,医学用語として 既に『良性腫瘍』などという言葉が使われていることを指摘して,『軽度』という表現に問題はないとしています.

実際の治療指針を与えていなという意見に対しては,特定の(重篤な)合併症を最適に予測することと,全般的な治療ガイダンスを確立することとは,本来 別の研究課題ではないかと答えています.

このあたりの専門家どうしの丁々発止のやりとりは なかなか面白くて,結構『酒の肴』になります.

[9]に続く

Source: しらねのぞるばの暴言ブログ

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