普段の診療で水疱性類天疱瘡の患者をみることは結構多い。
水疱性類天疱瘡とは
最も頻度の高い自己免疫性水疱症で,近年の高齢化に伴い増加している.年齢的には60歳以上,特に70歳代後半以上の高齢者に多い。
高齢者に多いのが特徴で、高齢化にともない患者数が増加している。
過去10年間で2~5倍に増加したという報告もある。(日皮会誌:126(10), 1923-1927, 2016.)
特記すべきは、患者年齢の平均および中央値が80歳前後だということである。毎年85歳以上の2000人に1人が発症しているとみられる。
これだけ高齢者に偏った自己免疫性疾患は他にはない。
今後さらに増えるとみられ、皮膚科医だけでなく多くの科の先生方が類天疱瘡と遭遇するはずである。
この疾患は老年内科領域にとって、もはやcommon diseaseである。
老人福祉施設に入所中の高齢者に発症した類天疱瘡を、内科医が皮膚科医の手を借りずに治療しなければならないという状況はかなりの数に上ると推測される。
今回は類天疱瘡について書いてみる。
類天疱瘡の有病率
類天疱瘡が往診患者の1/4を占めているという報告がある。
皮膚科往診患者の内訳
褥瘡 | 40.3% |
類天疱瘡 | 25.4% |
皮膚潰瘍 | 12.1% |
白癬 | 4.9% |
(皮膚科の臨床: 60(6), 866-867, 2018.)
また高齢者施設の入所者の1%に水疱症がみられたという報告もある。
実際、老人病院へ診察に行くと類天疱瘡の患者の多さに驚かされる。
日本臨床皮膚科医会の調査によると、高齢者施設入所者の約1%に水疱症が確認され、そのほとんどは類天疱瘡と推測される。
MB derma: 161 p39-45, 2010.
高齢者施設で類天疱瘡が多いのは、高齢者ばかりだという理由のほかに、類天疱瘡が脳梗塞などの神経疾患に合併しやすいという理由もあるという。
近年水疱性類天疱瘡患者において、神経疾患(脳梗塞,認知症,パーキンソン病,てんかんなど)の合併率が一般人口比より高いことが報告されている。
類天疱瘡のハイリスク者
- 高齢
- 神経疾患(脳梗塞,認知症,パーキンソン病,てんかんなど)
施設入居者は高齢かつ神経疾患の合併率も高く、類天疱瘡のハイリスク者が集まっているということになるため、1%に類天疱瘡がみられても不思議ではない。
さらに最近は薬剤誘発性の症例も増えている。
糖尿病の治療で頻用されるDPP-4阻害薬が類天疱瘡を引き起こすことが、最近わかってきた。
フランスの研究では、DPP-4 阻害薬内服者の割合が水疱性類天疱瘡患者ではその他の疾患患者と比較して有意に高かった(Reporting odds ratio(ROR):67.5)。
DPP-4阻害薬の使用例が増えることで、さらに患者数が増えてきている印象だ。
類天疱瘡の症状
類天疱瘡は早期発見早期治療が大切である。
患者の年齢、栄養状態、意識レベル、介護度によっては受け入れを断る病院も多いため、増悪しても自宅または入所中の施設で治療せざるをえないこともある。
早期に診断し初期から積極的に治療を行い重症化させないことが肝要である。
MB derma: 161 p39-45, 2010.
しかし初期の病変を診断することは意外と難しい。
類天疱瘡は水疱ができる病気と思われがちだが、初期は紅斑が主体であり薬疹などと鑑別が難しい場合がある。
▼典型的な類天疱瘡の水疱▼
▼紅斑が主体の類天疱瘡▼
内科などから薬疹疑いで紹介された患者が、類天疱瘡だったということはよくある。
高齢者に発症した原因不明の紅斑は、水疱がなくても類天疱瘡を疑う必要がある。
類天疱瘡の検査
ガイドライン上は診断のために病理組織検査が必須となっている。
- 病理組織検査(HE)
- 病理組織検査(蛍光抗体直接法)
- 血液検査(抗BP180抗体)
診断のために必要な検査所見
- ①+②
- ①+③
- ②+③
しかし患者の状況によっては、必ずしも皮膚生検ができるとは限らない。
高齢者施設への往診の場合は生検を行うのは大変だし、寝たきり患者は病院受診するのも難しい場合も多い。
そんなときは血液検査で診断してしまうときもある(偉い先生方からは怒られるかもしれないが…)。
検査の特異度から考えると、血液検査のみで診断しても概ね問題はないはずだ(特定疾患の申請はできない)。
類天疱瘡に対する抗BP180抗体の感度・特異度
感度 | 69.9% |
特異度 | 98.8% |
(J Dermatol Sci 41: 21-30, 2006.)
ただ感度があまり高くないことが問題になる。
抗体検査が陰性になってしまう患者も結構いるということだ。
DPP-4阻害薬に関連したものでは、さらに感度が下がる。
DPP-4阻害薬関連水疱性類天疱瘡では、抗BP180抗体検査は陰性か低値になることが多い。
臨床皮膚科72(5): 72-76, 2018
そんなときに生検や蛍光抗体法を行えるかどうか…(無理なことが多い)。
どうしようもないときは臨床症状だけで治療せざるを得ないこともある。
その症状を類天疱瘡としてよいかどうかの判断には経験が必要である。
類天疱瘡の治療
診断がつけば次は治療である。
自己抗体による自己免疫疾患であるから、基本的にステロイド内服を行う必要がある。
そしてステロイドの使い方にはちょっとしたコツがある。
つづく
>>皮膚科医のステロイドの使い方 「戦力の逐次投入は愚策である」
Source: 皮膚科医の日常と趣味とキャリア
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