皮膚科医の抗ウイルス薬の使いかた②(外用薬・注射薬編)

その他ドクター

 

前回のつづき

皮膚科医の抗ウイルス薬の使いかた①(内服薬編)

以前皮膚科医の抗菌薬の使い方についてまとめた。

今回は抗ウイルス薬の使い方についてまとめてみたい。

皮膚科で使用するのは主に抗ヘルペスウイルス薬である。

ヘルペスウイルスには8種類あるが(E…

 

前回は内服抗ヘルペスウイルス薬について解説した。

抗ヘルペスウイルス薬

今回は外用薬と注射薬についてまとめてみる。

 

①外用薬

 

外用薬は市販されていて、薬局でも購入できる。

それでは外用薬の効果はどれくらいあるのだろうか。

 

ヘルペスウイルスは皮膚だけではなく神経細胞内でも増殖している。

抗ウイルス薬は表皮のウイルスに対して効果を発揮するが、神経内のウイルスには効果がない。

そのため内服薬に比べて効果が低いと考えられる。

 

さらに皮膚内(表皮基底層)の薬剤濃度を調べた研究によると、3時間くらいで有効濃度以下になってしまうため、頻回に外用する必要がある。

(J Invest Dermatol. 98(6): 856, 1992 PMID: 1593149)

 

抗ウイルス薬を2時間ごとに外用すれば有意な効果が認められているが、治癒までの期間の短縮効果は0.7日程度である。

 

【治癒までの期間】

  • 外用なし:5.5日
  • 外用あり:4.8日

(JAMA. 1997 May 7;277(17):1374-9. PMID: 9134943)

 

そのため外用薬は軽症例に限定して使用するのがいいだろう。

次にガイドラインでの外用薬の位置づけを見てみる。

 

単純ヘルペス

CDCの性感染症ガイドラインでは、性器の単純ヘルペスに対して外用薬は非推奨である。

Topical therapy with antiviral drugs offers minimal clinical benefit and is discouraged.

(MMWR Recomm Rep. 64(RR-03): 1, 2015 PMID: 26042815)

 

また日本の性感染症学会ガイドラインには、皮膚保護程度の効果しかないと記載されている。

抗ヘルペスウイルス薬含有の軟膏は、病変局所しか働かず、ウイルス排泄を完全に抑制できず、局所保護程度の効果しかないので、病期を有意に短縮することはないと言われている。

性感染症ガイドライン2011

 

帯状疱疹

当然、帯状疱疹に対しても外用薬は非推奨である。

Topical antiviral therapy lacks efficacy in patients with HZ and is not recommended. Systemic antiviral therapy is strongly recommended as first-line treatment.

(Clin Infect Dis 44(suppl 1): S1, 2007 PMID: 17143845)

 

外用薬の選択

処方できる外用薬には2種類ある。

 

  • アシクロビル:ゾビラックス軟膏
  • ビダラビン:アラセナ軟膏、カサールクリーム

 

どちらを使用すればよいだろうか。

これらの薬剤はともにリン酸化されて活性化するが、リン酸化の過程が異なっている。

 

  • アシクロビル:ウイルスの酵素で活性化
  • ビダラビン:ヒトの酵素で活性化

 

アシクロビルの場合、ウイルスの酵素が変異してしまうと耐性化の危険性がある。

一方ビダラビンはヒトの酵素でリン酸化されるので、耐性化の可能性は低いそうだ。

 

耐性化を考えると、ビダラビンを使用するほうが安全なのかもしれない。

(アシクロビル耐性ウイルスの出現はほとんどないとされているが)

 

②注射薬

 

ヘルペス治療の基本は内服薬だが、重症例では注射薬を使用する。

実際に注射薬の効果は高いのだろうか。

血中濃度を調べた研究では、内服薬は注射薬に比べて血中濃度の立ち上がりが遅く、ピークレベルが低いようだ。

しかし8時間後のACUには有意差はない。

立ち上がりの1時間位の差が、臨床効果にどれくらいの差を生むのかは不明である。

(J Antimicrob Chemother. 47(6): 855, 2001 PMID: 11389118)

 

注射薬の適応

とはいえ重症例で注射薬を使用することに異論はないだろう。

帯状疱疹では、どんな患者に注射薬を使用すべきなのかの指針が示されている。

 

【注射薬の適応】

  1. 重症(高度の痛み、皮疹)
  2. 三叉神経第1 領域
  3. 合併症のある患者(運動神経麻痺)
  4. 免疫抑制患者

(臨床医薬28(3): 161, 2012)

 

注射薬の選択

注射薬にはアシクロビルとビダラビンの2種類あるが、どちらを使えばよいだろうか。

外用薬と一緒で、これらの違いは活性化の過程である。

 

  • アシクロビル:ウイルスの酵素で活性化
  • ビダラビン:ヒトの酵素で活性化

 

アシクロビルはウイルスの酵素で活性化するので、ウイルス感染細胞のみに働く。

しかしビダラビンはヒトの酵素で活性化するので、感染していない正常な細胞にも作用してしまう。

そのためビダラビンには骨髄抑制などの副作用がある。

基本的にはアシクロビルを使用すべきである。

(耐性化のリスクはアシクロビルの方が高いが、アシクロビル耐性ウイルスはほとんど出現しないとされている)

 

ヘルペス脳炎では第一選択薬はアシクロビル。ビダラビンはアシクロビルが無効な場合の第二選択薬という位置づけである。

・単純ヘルペス脳炎に対し、最も安全で有効性の高い抗ウイルス薬はアシクロビルである。

・アシクロビルが2〜3週間投与されてもウイルス量が減少しない場合には、ビダラビン併用が推奨される。

(単純ヘルペス脳炎診療ガイドライン)

 

まとめ

 

今回は抗ヘルペスウイルス薬の外用薬と注射薬についてまとめた。

エビデンスを意識しながら使うことは少ないので、一度整理しておくと役に立つかもしれない。

 

▼前編(内服薬編)はこちら▼

皮膚科医の抗ウイルス薬の使いかた①(内服薬編)

以前皮膚科医の抗菌薬の使い方についてまとめた。

今回は抗ウイルス薬の使い方についてまとめてみたい。

皮膚科で使用するのは主に抗ヘルペスウイルス薬である。

ヘルペスウイルスには8種類あるが(E…

 

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Source: 皮膚科医の日常と趣味とキャリア

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