皮膚科医の抗真菌薬の使い方(開発史・設計思想)

その他ドクター

 

皮膚科では外用抗真菌薬を頻繁に使用する。

しかしたくさんの種類があって、どのように使い分けたらはいいかはわかりにくい。

そこで今回、外用抗真菌薬のランク表を作成してみた。

抗真菌薬の図

(モルホリン系のペキロンは除く)

この表の詳細について解説していく。

 

抗真菌薬のランクづけ

 

ガイドラインによると、それぞれの外用抗真菌薬に臨床効果の違いはないとされている。

しかし処方には何かデータの裏付けが欲しいところである。

そこで参考にするのがMICのデータである。

in vitroのデータが必ずしも臨床効果に反映されるわけではないが、参考にはなるだろう。

 

MICは菌の増殖を阻止するのに必要な最小の薬剤濃度。つまりMICが小さいほうが抗菌活性が高いことを意味する。

論文では、それぞれの薬剤のMICが白癬菌とカンジダに分けて調べられている。

日皮会誌117(2): 149, 2007

 

■白癬菌のMIC

抗真菌薬のMICの図

■カンジダのMIC

カンジダのMICの図

 

このままでは分かりにくいのでランクを作成した。

 

ランク

  • A:平均MIC < 0.01
  • B:0.01 < 平均MIC < 0.1
  • C:0.1 < 平均MIC < 1
  • D:平均MIC > 1

 

このランクに基づいて表を作ってみると以下のようになる。

抗真菌薬の選び方の図

この表をもとにして詳しく解説していく。

 

抗真菌薬の2つの系統

 

外用抗真菌薬は大きく2つの系統に分けられる。

 

  • イミダゾール系
  • 非イミダゾール系(ベンジルアミン、アリルアミン、チオカルバミン酸)

 

これらの薬剤はともに真菌の細胞膜合成を阻害する。

しかし作用部位が異なっている。

イミダゾール系の図

(モルホリン系のペキロンの作用部位はイミダゾールと同じなのでランク表からは除いた)

 

基本的に非イミダゾールは白癬菌に強くイミダゾールはカンジダに強いと考えてよいだろう。

抗菌力の図

 

「ん?でもイミダゾールで白癬菌に強いやつもあるぞ」と思う人もいるだろう。

イミダゾール系の抗菌力の図

ここで少し外用抗真菌薬開発の歴史をまとめてみたい。

 

外用抗真菌薬の歴史

 

最初に開発された外用薬はイミダゾール系のエンペシドである(発売年1975年)。

1980年代はもっと皮膚への浸透と貯留性が高い薬剤を求めて、様々なイミダゾール系の薬剤が開発された。

そしてその目的は、1986年に1日1回の外用で有効なマイコスポールが発売されたことで達成される。

 

  • 1980年ミコナゾール →1日2回
  • 1981年エコナゾール →1日2回
  • 1982年イソコナゾール →1日2回
  • 1985年スルコナゾール →1日2回
  • 1985年オキシコナゾール →1日2回
  • 1986年ビホナゾール(マイコスポール)→1日1回

 

その後(1990年代以降)の設計思想は、白癬菌に対する抗菌力を高めることになった。

そこで開発の流れは大きく2つに分かれる。

1つは白癬菌に対してもっと効果が高いイミダゾール系の開発。

もう1つはイミダゾール系以外の薬剤の開発である。

抗真菌薬の開発の図

 

発売年を見ると、1990年代以降の後期イミダゾール系は白癬菌に対する抗菌力が上がっているのがわかる。

(ニゾラールも90年代発売だが、海外では80年代に発売されている)

 

非イミダゾール系の発売も90年代で、白癬菌に対する抗菌力が高い。

ただしカンジダへの抗菌力が犠牲になってしまっている。

 

それではどのようにこれらの薬剤を使い分ければいいだろうか。

 

抗真菌薬の使い分け

 

ここまでのデータでは、白癬にもカンジダにも効果が高い後期イミダゾール系の薬剤が一番良いように見える。

しかしイミダゾール系にはひとつ重大な問題がある。

 

それは交差反応である。

イミダゾール系に接触皮膚炎を起こした患者の60%が、他のイミダゾール系薬剤にも反応したと報告されている(日本医科大学雑誌 63(5): 356, 1996)。

 

イミダゾール系の薬剤はたくさん発売されていて、市販薬にも配合されているため、すでに感作されている人がたくさんいるはずだ。

つまり初めて使う薬であっても、交差反応で接触皮膚炎を起こしてしまう可能性があるのだ。

 

処方する際は、抗菌力だけではなく系統も意識しておいた方がよいだろう。

もしイミダゾール系で接触皮膚炎を起こした場合は、イミダゾール系以外の薬剤に変更する必要がある。

 

内服抗真菌薬

 

最後におまけで内服抗真菌薬についても書いておきたい。

実は内服薬ではイミダゾール系は使われていない。

 

深在性真菌症に対して有効な最も古い抗真菌薬は1962年に発売されたアムホテリシンBである。

しかし注射でしか使えないことと、副作用が多いという欠点があり、それに代わる薬剤として開発が進められたのがイミダゾール系抗真菌薬。

 

しかイミダゾール系の内服薬は発売できず、実用化されたのは注射薬と外用薬のみだった。

(内服薬のケトコナゾールが承認までされたが、副作用が問題で発売にはいたらなかった)

 

そこでイミダゾールに代わり、イミダゾールを改良したトリアゾールの開発が進められる。

(イミダゾールとトリアゾールを併せてアゾール系抗真菌薬と呼ぶ)

 

そしてついに念願の内服抗真菌薬フルコナゾール(ジフルカン)が完成。

ジフルカンはその使いやすさから爆発的にヒットし、今でも現役で使用されている。

 

 

しかしジフルカンはアスペルギルスに無効なことと、使用されすぎて耐性菌が問題になってきた。

そのためトリアゾールを改良した第2世代のトリアゾール系ボリコナゾール(ブイフェンド)も開発されている。

 

というわけで内服薬は、イミダゾールの開発が継続された外用薬とは全く違った進化を遂げているのである。

 

まとめ

 

今回は抗真菌薬についてまとめてみた。

歴史を知ることで、少し理解が深まったのではないかと思う。

この内容を知ると、クレナフィンが初めての外用トリアゾール系抗真菌薬であることや、ネイリンがブイフェンドに続く第3世代のトリアゾール内服薬であることも理解できてくるだろう。

皮膚科医の薬剤の使いかたシリーズ。次回は抗ヒスタミン薬についてまとめてみたい。

 

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Source: 皮膚科医の日常と趣味とキャリア

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