皮膚科医の切り札「プロトピック軟膏」を斬る!

その他ドクター

 

皮膚科の治療はほとんどがステロイド外用である。

そしてステロイドがあまり効かなかったときは、すぐに手詰まりになってしまうという脆さがある。

 

そんなとき皮膚科医の強力な武器になるのがタクロリムス軟膏(プロトピック軟膏)。

…というか現状でプロトピック以外の手はない。

今回はプロトピックについて「アトピー性皮膚炎ガイドライン」を中心にまとめてみる。

概要

  • 強さはリンデロンVと同等
  • 初期の副作用はステロイドより多い
  • 長期使用の副作用はステロイドより少ない
  • 初期治療はステロイド、維持治療はプロトピックが望ましい
  • アトピー以外の病変にも効果がある

プロトピックの強さ

 

プロトピックの効果はstrongクラスのステロイドとほぼ同等だという。

体幹,四肢を対象とした0.1%タクロリムス軟膏の有効性はストロングクラスのステロイド外用薬とほぼ同等であると考えられる。

アトピー性皮膚炎ガイドライン

 

プロトピック軟膏vsリンデロンV軟膏

アトピー性皮膚炎の中等度改善率(3週間)

  • プロトピック:93.6%
  • リンデロンV:90.5%

有意差なし

西日本皮膚科 59(6) p870, 1997.

 

ということでリンデロンVと同じくらいの強さと考えてよいだろう。

ステロイドの強さ比較表

「ステロイド外用薬の詳しいランク表を作った」より

 

重症の皮疹に対してはvery strongクラスが推奨されている。

自分が普段良く使うのはvery strongクラスなので、プロトピックは若干弱い。

ガイドラインでは重症の皮疹に対してはまずステロイドを使用し、その後プロトピックへ変更することが提案されている。

重症の皮疹を生じた部位に使用する場合には、まずベリーストロングクラス以上のステロイド外用薬によって皮疹の改善を図ったのちにタクロリムス軟膏に移行するとよい。

推奨度A

アトピー性皮膚炎ガイドライン

 

プロトピックの副作用(初期)

 

プロトピックで問題になるのは刺激症状。

しばしば塗布部位に一過性の灼熱感,ほてり感などの刺激症状が現れることがある

これらの症状は使用開始時に現れ,皮疹の改善に伴い消失することが多い

アトピー性皮膚炎ガイドライン

 

ステロイドにはない副作用なので、初期治療では若干使いにくさもある。

有害事象(3週間)

  • プロトピック:感染症 5.7%、刺激症状 59.1%
  • リンデロンV:感染症 6.7%、刺激症状 8.9%

西日本皮膚科 59(6) p870, 1997.

 

ただし長期で使用すると刺激感は少なくなってくる。

 

▼プロトピックの刺激感の出現率▼

1~4日目 45.3 %
5~8日目 22.8 %
23~30日目 7.9%

Arch Dermatol. 136(8): 999, 2000

 

短期の使用に限ればプロトピックの方が副作用(刺激症状)が多い。しかし長期使用となればステロイドの副作用の方が目立ってくる。

 

プロトピックの副作用(長期)

 

ステロイドは短期では問題になる副作用は少ないが、長期使用による副作用が多い。

 

  • 皮膚萎縮
  • 皮膚バリア機能低下

 

プロトピックにはこれらの副作用がないとされている。

 

1. 皮膚萎縮がない

 

ステロイド外用薬を長期使用すると皮膚が薄くなってしまう。

高齢者の湿疹などにステロイドを長期使用して、皮膚が菲薄化してしまっている人はよく見かける。

 

健常人を対象としたステロイド塗布試験(6週間)

  • フルメタ:17%のひ薄化
  • リンデロンV:24%のひ薄化

Skin Pharmacol Appl Skin Physiol. 15(2): 85, 2002

 

一方プロトピックには皮膚萎縮の副作用はないとされている。

ステロイド外用薬の長期使用による有害事象としてみられることのある皮膚萎縮はタクロリムス軟膏では確認されていない

アトピー性皮膚炎ガイドライン

 

2. バリア機能低下がない

 

ステロイドは皮膚のバリア機能を低下させる(水分蒸散量TEWLが上がる)。

一方プロトピックにはバリア機能低下の副作用はない。

 

外用による水分蒸散量の変化(4週間)

  • プロトピック:TEWL↓(1275→1211)
  • リンデロンV :TWEL↑(1260→1326)

(p=0.038)

Br J Dermatol 170(4) 914

 

これらのデータからプロトピックは長期で使用しやすい。

 

3. 酒さ様皮膚炎が少ない?

 

ステロイド外用薬のもっとも恐ろしい副作用が酒さ様皮膚炎。

顔面の皮疹に対しては、おっかなびっくり使っているというのが現状である。

 

一方、プロトピック軟膏でも酒さ様皮膚炎は起こるとされている。

>>「Rosaceiform dermatitis associated with topical tacrolimus treatment

J Am Acad Dermatol. 62(6): 1050, 2010

 

しかし一部では「プロトピックでは酒さ様皮膚炎は起こらない」という意見もあり、現時点でははっきりしない。

酒さ様皮膚炎がプロトピックによって引き起こされることには否定的であるということです。

Visual dermatology 17 増刊号 94 2018

 

油断はできないが、ステロイドほど心配する必要はないのかもしれない。

 

ステロイドとタクロリムスの使い分け

 

以上から考えると急性期の治療ではステロイドが優れており、慢性期の治療ではプロトピックの方が望ましい。

なんでもかんでもプロトピックがよい、というわけではない。

 

「プロトピック単独治療」よりも、「初期治療でステロイドを用いた後にプロトピックへ変更」した方が効果が高かったという報告もある。

アトピー性皮膚炎の改善率(16週間)

  • ステロイド/タクロリムス併用:60.2%
  • タクロリムス単独:43.9%

(P=0.01)

Pediatrics 122: e1210, 2008

 

ジェネリック

 

ジェネリック外用薬の3つの注意点」の記事で書いたように、最近はジュネリック外用薬が話題になることも多い。

プロトピックにもジェネリックが存在している。

しかしジェネリックは刺激は少ないが、あまり効かないという話もある。

プロトピックについてはジェネリックにすると、刺激がなくていいという患者さんがいますが、それは吸収されていない、効いていないからだと思います。

Visual dermatology 17 増刊号 94 2018

 

はっきりとしたデータがあるわけではないが、気になるところである。

 

その他の疾患に使えるか?

 

プロトピックがアトピー性皮膚炎以外にも効果があるという報告はたくさんある。

代表的なのは手湿疹と脂漏性皮膚炎。

また湿疹病変以外にも応用の幅が広い。

 

1. 手湿疹

 

手湿疹に対してプロトピックはフルメタと同等の効果。

手湿疹の紅斑スコアの変化(1か月)

  • プロトピック:38.0→25.5
  • フルメタ:26.0→13.0

(有意差なし:p>0.05)

Eur J Dermatol 22: 192, 2012.

 

2. 脂漏性皮膚炎

 

脂漏性皮膚炎に対してプロトピックとリンデロンVは同等の効果。

脂漏性皮膚炎の症状スコアの変化(1か月)

  • プロトピック:5.4→2.9
  • リンデロンV:5.8→4.0

(有意差なし)

J Dermatol 36(3): 131, 2009

 

3. その他

 

湿疹病変以外にも効果があるという報告はたくさんある。

 

  • 好酸球性膿疱性毛包炎(Br J Dermatol. 151(4): 949, 2004)
  • 皮膚サルコイド( Eur J Dermatol. 17(5): 454, 2007)
  • 環状肉芽腫( Visual Dermatology. 3(8): 832, 2004)
  • 皮膚エリテマトーデス(Clinical Rheumatology. 27: 391, 2013)

 

その他いろいろ。

これらの疾患はステロイド外用の効果が乏しい場合が多く、治療も長期間になるため、プロトピックが使えるとありがたい。

 

まとめ

まとめ

  • 強さはリンデロンVと同等
  • 初期の副作用はステロイドより多い
  • 長期使用の副作用はステロイドより少ない
  • 初期治療はステロイド、維持治療はプロトピックが望ましい
  • アトピー以外の病変にも効果がある

 

皮膚科医の切り札プロトピックについてまとめた。

現状ステロイドとタクロリムスの2つしか手がないというのは、なんとも心細い。

今後のPDE4阻害薬やJAK阻害薬の外用に期待したい。

 

▼外用薬についてのまとめ記事はこちら▼

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Source: 皮膚科医の日常と趣味とキャリア

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