2019年4月に篠山市薬剤師会から「小児の抗菌薬の使い方」についての講演会を依頼頂いています。
そのため、現在私は抗菌薬の勉強中です。
勉強で得た知識をここでシェアしたいと思います。
私が解決すべきテーマは3つあります。
- 抗菌薬で化膿性鼻炎(色がついた鼻水の出るかぜ)は改善するか?
- 抗菌薬で中耳炎や肺炎を予防できるか?
- 抗菌薬の副作用は何か?
今回は、テーマの第1回目です。
「抗菌薬で化膿性鼻炎(色がついた鼻水の出るかぜ)は改善するか?」についてコクランレビューを紹介します。
鼻水が黄色や緑色なら抗菌薬が効く?
かぜに抗菌薬が効かないというのは、もはや常識です。
抗菌薬は細菌を殺す薬ですが、かぜはウイルスによるものなので、抗菌薬は効きません。
ですが「鼻水の色が黄色だったり緑だったりするときは、抗菌薬が効くかも」と考えている保護者によく遭遇します。
もしかしたら医療者の中にも「鼻水が汚い、すなわち膿性鼻汁の場合は化膿性鼻炎だから、抗菌薬が効くんだ!」と考えている人がいるかもしれません。
この「かぜはかぜでも、鼻水が汚い場合は抗菌薬が効くかも?」という問題は、コクランレビューを見ても分かります。
Antibiotics for the common cold and acute purulent rhinitis(Cochrane Database. 2013, CD000247)
このタイトルの面白いところはcommon coldとpurulent rhinitisを分けて書いている点です。
つまり、common coldは普通のかぜを意味し、purulent rhinitisは鼻水が黄色や緑色に色づいているかぜを指します。
この2つを明確に分けて評価することで「かぜはかぜでも、鼻水が汚い場合は抗菌薬が効くかも?」という問題を解決しようと試みていることが伝わってきます。
一般的なかぜは抗菌薬が使われる最大の理由の1つです。
鼻水が色づいている、すなわち急性化膿性鼻炎の場合ではなおさらです。Antibiotics for the common cold and acute purulent rhinitis(Cochrane Database. 2013, CD000247)
ではさっそく、コクランレビューを読んでいきましょう。
普通のかぜに対して
コクランレビューでは6つのかぜ研究と1047人のかぜ患者を対象に、抗菌薬の効果を調査しました。
1つの論文だけ、抗菌薬によってかぜ症状が短縮したと報告しました。
(Herne 1980:キシボルノールとミノサイクリンとプラセボを比較。なお、このHerne先生の論文は急性化膿性鼻炎患者を含んでいる可能性があるとのこと)
残りの5つの研究では抗菌薬の優位性はなく、全部合わせて評価するとリスク比0.95、95%信頼区間0.59〜1.51でした。
すなわち、抗菌薬はかぜ症状を短縮しないと結論づけられています。
なお、有害作用については、リスク比1.8、95%信頼区間1.01〜3.21で、有意に有害事象が増えました。
特に成人で有害作用が強く、リスク比2.62、95%信頼区間1.32〜5.18でした。
一方、子どもではリスクはなく、リスク比0.91、95%信頼区間は0.51〜1.63でした。
鼻水が汚いかぜ(化膿性鼻炎)に対して
コクランレビューでは4つの研究と723名の鼻水が汚いかぜ(化膿性鼻炎)患者を対象としました。
これは発症10日未満の患者だけに限定しています。
急性化膿性鼻炎に対しても抗菌薬は有意性がなく、リスク比0.73、95%信頼区間0.47〜1.13でした。
つまり鼻水が汚いかぜであっても、抗菌薬は有効とは言えないとされました。
なお、抗菌薬の有害作用はこちらでも確認され、リスク比1.46、95%信頼区間1.10〜1.94でした。
コクランレビューの感想
コクランレビューの結果は、抗菌薬がかぜにも急性化膿性鼻炎にも効かず、多くの人が抗生物質の副作用に悩まされていることを示唆しています。
Antibiotics for the common cold and acute purulent rhinitis(Cochrane Database. 2013, CD000247)
私の感想としても、コクランレビューの結論を支持します。
汚い鼻水があってもなくても、抗菌薬を処方すべきではないと思います。
このレビューでは細菌性肺炎や細菌性副鼻腔炎が混入している可能性があるにも関わらず、抗菌薬の優位性が認められないという事実は、やはりかぜには抗菌薬は無効ということなのでしょう。
ただ、一つだけ懸念を持っているのも事実です。
それは、このコクランレビューの対象となった研究が1950年から1980年の論文ばかりであり、古いということです。
先人の道を否定するわけではありませんが、やはり統計学的な手法や適切なデータセンターによる管理は現代のほうが優れていると私は思っています。
レビュー内にも触れられていますが、すべての研究がランダム化比較試験とはいえ、ランダム化の方法が明確ではありません。
特に化膿性鼻炎は有意差がないとはいえ、帰無仮説を肯定できるほどのパワーは感じられず、質の高いランダム化比較試験で再検討してほしい内容です。
補足:化膿性鼻炎と急性副鼻腔炎について
今回のコクランレビューでは、化膿性鼻炎を症状9日以内と限定しています。
症状が10日以上持続する場合は、抗菌薬が有益である可能性があり(Morris 2007)、臨床医は耐性の問題を考慮しつつ抗菌剤使用を検討するかもしれません。
Antibiotics for the common cold and acute purulent rhinitis(Cochrane Database. 2013, CD000247)
ちなみに、Morris 2007は撤回されています。
Antibiotics for persistent nasal discharge (rhinosinusitis) in children
そのため、色のついた鼻水が10日以上続くから抗菌薬を投与すべきとする明確なエビデンスはありません。
とはいっても、鼻水が10日以上続くと急性副鼻腔炎の診断基準と重なってきます。
アメリカ小児科学会のガイドラインでは、鼻水の色がついていようがついていまいが、鼻水が改善傾向を示すことなく10日以上遷延した場合は、急性副鼻腔炎の診断基準に該当します。
急性副鼻腔炎の診断基準
(A) 上気道炎に引き続き10日を超えて遷延して鼻漏(鼻腔から鼻汁が垂れて見える。性状は問わない)、または日中の咳嗽(夜間に悪化することがあってもいい)を認め、経過中に改善の傾向がみられない場合。
(B) 上気道炎がいったん軽快したのち、発熱、日中の咳嗽、鼻漏が増悪した場合。
(C) 39度以上の発熱と膿性鼻漏が3日以上持続した場合。
上気道炎のほとんどは9日以内に症状が消失します。
しかし、アメリカでは上気道炎の6-7%は10日以上鼻漏や咳嗽が続き、上記の基準(A)で副鼻腔炎と診断されます。
いっぽうで、鼻汁が10日以上続けばすぐに抗菌薬治療をすべきとは書かれていません。
通常は鼻汁吸引などの処置を3日間続け、それでも軽快傾向を認めない場合にのみ抗菌薬を使います。
ただし、4週間以内の抗菌薬投与歴がある場合や、喘息がある場合、中耳炎や肺炎の合併がある場合は抗菌薬療法行ったほうが良いという記載も同ガイドラインにあります。
ですが、一般的には鼻処置を優先的に行うべきであり、抗菌薬の処方は慎むべきだと私は思っています。
副鼻腔炎の診断・治療については、「小児科ファーストタッチ」に詳しく書きました。
実は副鼻腔炎専用の項目は作っていないのですが、遷延する咳嗽や頭痛の鑑別に重要ですので、頭痛の項目でかなり詳しく説明しています。
まとめ
- 鼻水が黄色や緑色であっても、抗菌薬が有効だというエビデンスはない。
- もし鼻水が改善傾向を示すことなく10日以上続く場合は急性副鼻腔炎の診断基準を満たすが、その場合でもまずすべきなのはしっかりとした鼻処置である。
- 私は、質の高いランダム化比較試験がさらに必要だと感じている。
Source: 笑顔が好き。
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