イラクやシリアなら戦争が起きて当然なのか
「私たちみたいな青い瞳の金髪の人々が攻撃されるなんて」 ウクライナ報道に見える“人種差別”ワシントン・ポスト(米国)
Text by Sarah Ellison and Travis M. Andrews中東ではない「文明化された国」で
ロシアによるウクライナ侵攻は世界を震撼させ、各国メディアはウクライナ一色になった。だがその報じ方に、「不快なトーン」が混じっていると指摘する声も上がっている。
それは、ウクライナをイラクやアフガニスタンなどの中東と比べたうえで、より「文明化された国」という文脈に落とし込もうとするものだ。
米「CBSニュース」のベテラン戦争特派員チャーリー・ダガタは2月25日、ウクライナの首都キエフからこうリポートした。
「ウクライナは、失礼ながら紛争が何十年も続くイラクやアフガニスタンとは違います。ここは比較的文明化した、比較的ヨーロッパ的な国なのです。慎重に言葉を選ぶ必要はありますが、ここはこんなことが起こるなんて想像できなかった場所なのです」
この発言は物議を醸し、ダガタは翌日、謝罪文を出した。「言葉の選択がお粗末」だったことを後悔している、と。
ウクライナの苦境を伝えるにあたり不快な比較をしている記者やコメンテーターは他にも多くいる。
キエフの駅からリポートした英「ITVニュース」の特派員ルーシー・ワトソンは、ウクライナの人々に「思いも寄らぬこと」が起きたと伝えた。「ここは第三世界の途上国ではありません。ここはヨーロッパなのです」
(後略)
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「私たちみたいな青い瞳の金髪の人々が攻撃されるなんて」 ウクライナ報道に見える“人種差別”同じように英「BBC」の番組では、ウクライナの元次長検事デビッド・サクヴァレリゼが、自国の被害を前に「青い目と金髪のヨーロッパ人が、子供たちが殺されているのです」と語った。
イギリス人で元欧州議会議員のダニエル・ハナンは、英紙「テレグラフ」に寄稿し、攻撃を受けているウクライナ人についてこう記した。
「彼らは私たちにそっくりだ。ゆえに、いま起きていることがたまらなく衝撃的だ。戦争とはもはや貧困にあえぐ遠く離れた場所に暮らす人々の身に降りかかるものではなく、どこにでも起こり得るのだ」
戦争報道に潜む「カジュアルなレイシズム」このような報道は「ヨーロッパの植民地主義言説におけるオリエンタリズム的な『文明化』の概念」に訴えるものだと指摘するのは、レバノンのアメリカン大学でマルチメディアジャーナリズムを研究するデニジャル・ジェジクだ。
「つまり、戦争は欧米世界の外、とりわけ中東でなら普通に起きることだと暗に言っているのです。そこでは、地政学的勢力の不均衡さや他国による介入が原因ではなく、文明化されていないから戦争が起きるのだという理論です」
欧米以外の場所で起きる紛争はほとんど報道されないと、ジェジクは言う。報じられたとしても、「西側諸国の国益にどう関わってくるか、西側の人々にどんな影響があるかに焦点が置かれる傾向にあります」。他方、今回のロシアによる侵略ではウクライナ人の窮状に焦点が置かれ、欧米の特派員らがこの戦争を自分に近いものとして見ている視点が強調されている。
「そのカジュアルなレイシズム(何げない人種差別)には驚くばかりです」と語るのは、シリア内戦を何度も現地取材してきたシリア系米国人ジャーナリストのラシャ・エラスだ。
ロシアのウクライナ侵攻が衝撃的なのは、「文字どおり世界大戦に近いことが起きているからで……その意味ではアメリカのアフガン侵攻やシリア内戦と違うのはわかります」とエラスは言う。「でもその違いは、一方が文明化していて、もう一方は文明化していないからではありません」
南カリフォルニア大学名誉教授(ジャーナリズム)のフィリップ・セイブは、戦争報道におけるこうしたダブルスタンダードには歴史があると話す。
「最も際立っていたのは1990年代です。バルカン半島で何万人もの白人が命を落としていた一方、ルワンダでは何十万人もの黒人が殺されていたのに、より多く報道されていたのはバルカンでした。欧米メディアは『私たちのような人々』の報道に引力が働くようです」
それでもセイブは、メディアの人材が多様化するにつれて、偏りは是正されていくと考えている。
「ゆっくりではありますが、改善されてきています。ゆっくりではありますが、メディア業界が多様化してきているからです」
ただ、そのスピードはあまりに遅く、ウクライナ危機には間に合わなかったようだ。
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Source: 身体軸ラボ シーズン2
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