ケトン体は『飢餓時だけに生成される非常エネルギー』なのか[13]

健康法

ケトン体は有効な薬物になりうる,特に心臓・腎臓にとって有効な薬となる可能性が明らかになってきました.
ただし,現時点では まだケトン体を応用した薬剤は開発中ですので,ケトン体を薬として用いるには SGLT2阻害薬によって,体内のケトン体合成を増やすしかありません.

しかし,もう一つの方法があります.それがケトン食(ケトジェニック食)です. 高脂肪・低炭水化物の食事を摂ることによって,人体を糖代謝から脂質代謝に切り替えて,ケトン体を主エネルギーに使うようにする方法です.

最近はケトジェニック食というと減量のためと思われることも多いですが,本来 ケトン食はてんかんや,糖代謝の先天的な障害(=GLUT1欠損症)の治療食としての歴史もあります. もちろん,ケトアシドーシスを起こさないよう注意深い監視は必要です.

てんかん

てんかんは古くから知られていました. 特にその特徴的な痙攣発作は聖書にも登場します.

群衆の一人が答えた 「先生、霊にとりつかれて言葉が話せない私の息子を、ここに連れて参りました. 霊がこの息子にとりつきますと,どこででも彼を引き倒します. そして息子は口からあわを吹き,歯をくいしばり,からだをこわばらせてしまいます」

聖書 マルコ福音書9

ただし,絶食すると てんかんの発作が起こりにくいことは広く経験的に知られていました.

そして 1921年 Wilderが,てんかん発作抑制には,今でいうケトン食が有効であると発表しています.

Wilder 1921;The Clinic Bulletin

ケトン食とは

ケトン食とは,炭水化物を極度に少なく(~10g/日)する食事です.

ケトン食の実際は,医療用の解説書に詳しいですが;

下記の【ケトン比】を指標として調理されます.

【ケトン比】= 【脂質量(g)】: 【蛋白質量(g) + 炭水化物量(g)】

ケトン食は,通常 ケトン比= 2.5~3.0:1 のものを指します.この比率から分かる通り,食事中に占める脂質のカロリー比率は 85~90%近くになります.
特にケトン食は 小児の難治性てんかんに有効なので,育ち盛りの子供がカロリー不足にならないように十分なカロリーを摂ります.また蛋白質も成長に必要ですから,必須量は摂ります.したがって カロリーの大部分は 脂質・たんぱく質だけで摂ることになり炭水化物は極限まで減らす食事です.

この数字だけを見ると,糖質制限食を長年実行している ぞるばもたじろぎますが,実際には 医療用のケトンフォーミュラ(ケトン食用 特殊粉ミルク )や 中鎖脂肪酸(MCT),生クリームなどを うまく使っており,下記の調理例写真を見ると 脂質90%の食事とは思えないほどです.

ケトン食治療入院|滋賀県ホームページ

当然ですが,ケトン食を開始すると,血中ケトン体の濃度は数mMまで上昇します.しかし,小児の難治性てんかんやGLUT1欠損症には めざましい効果がみられる場合があります.

[10歳女児 GLUT1欠損症 症例]
6歳頃までは正常だったが,8歳頃から意識減損.てんかんと診断されていたが,家族歴・髄液検査からGLUT1欠損症と診断.
入院し,ケトン比=2:1のケトン食を継続したところ,1週間で β-ヒドロキシ酪酸=3mM,総ケトン体=4mMにまで上昇.
退院後も自宅でケトン食を継続し,総ケトン体~1mMを維持したところ,症状が好転した.

第24・25回日本病態栄養学会シンポジウム 13-5

それにしても,なぜ てんかんにケトン食が有効なのでしょうか. ケトン食は どうやって てんかんの発作を抑制しているのでしょうか.

[14]に続く

Source: しらねのぞるばの暴言ブログ

コメント

タイトルとURLをコピーしました