書評「小児感染症診療マスト&ベスト」愛と哲学と過去現在未来。

過去を振り返り、未来に馳せ、そして現在を助ける。
「マスト&ベスト」は、そんな一冊でした。

今回は、「フローチャートで学ぶ! 小児感染症診療マスト&ベスト」の感想を書きます。

小児感染症診療に関連する80のフローチャート

本書の売りは、間違いなくフローチャートです。
思考の流れを巧みに視覚化できています。

このフローチャート、作るのすごく大変だったと思います。
というのは、見やすさと使いやすさは一部相関しつつ、一部相反するのです。
つまり、シンプルで見栄えの良いフローチャートは、見やすいので使いやすいのですが、あまりにもシンプルにしすぎてしまうと説明や条件分岐が省略されてしまい、使いにくくなるというジレンマがあります。

本書のフローチャートはこのバランスが取れています。
知識と経験がミックスされ、実際の症例から帰納的に抽出されたエッセンスがフローチャートとして析出したのでしょう。
まさに「愛と哲学」を感じます。

過去を振り返りながら、まず「フローチャート」を立体化する

本の読み方は人それぞれというのは十分承知しつつ、私が考えるおすすめの読み方を提案します。

まずはフローチャートを中心に、ざーっと読んでいきましょう。
このとき、自身の過去を省察しながら読むことをお勧めします。

たとえば「CHART25 膀胱尿管逆流症のある患者の感染症」を経験したことはありますよね。
そのとき、あなた自身はどんな思考をしたのか、どんな治療をしたのか、思い出してみましょう。

そのうえで、本書のフローチャートを追いかけてみます。
私が経験したケースでは、ショックバイタルではありませんでしたし、尿管ステントも腎瘻もありませんでした。
尿のグラム染色ではGNRでした。

フローチャートの最後に、治療について提案があります。
抗菌薬はCTXまたはCTRXを提案されました。

このように、今までに経験した救急外来・入院の症例を思い出して、本書のフローチャートを当てはめてみましょう。
フローの流れをイメージでき、平面だったフローチャートが立体的になったような気がしませんか?

フローをイメージ化・立体化することによって、著者の「愛と哲学」を感じ取れると思います。

未来に馳せる「仮説を立てるには?」

本書の多くが「○○と仮説」というタイトルになっています。
これが実に面白いです。
このタイトルになっている場合は、必ず「仮説を立てるには?」という解説で始まっています。

フローチャートを立体化しながら1週目を読み終えたら、次はこの「仮説を立てるには?」を中心に読んでいくことをお勧めします。
「仮説を立てるには?」は、その疾患を疑う最初のポイントだからです。
最初のポイントを知っておくことで、実臨床で「そういえば、この状況ってマスト&ベストに書いてあったな」と思い出せます。
「マスト&ベスト」が役に立ちます。

本書が役立つ未来を想像しながら、読んでいく。
これだけで、ワクワクしながら本を読めるような気がしますね。

たとえば、感染性心内膜炎を疑う、最初のポイントはなんでしょうか。
答えはCHART44にあります。
「仮説を立てるには?」を頭に入れておきましょう。
この「仮説を立てるには?」に合う患者が現れたとき、すぐにこのフローチャートを参照するためです。

そして感染性心内膜炎は、脳膿瘍を「仮説を立てるには?」に該当します。
CHART32の「仮説を立てるには?」も併せて頭に入れておきましょう。

疑うべき最初のポイントというのは、とても大切です。
千里の道も一歩からと言いますが、最初の一歩目が大事なんです。
「けいれんを見たら最初にすべきことは」みたいなファーストタッチが大事なように、物事は一番最初が一番大事

本書の「仮説を立てるには?」は、必ず未来で役立ちます。

現在を助ける「疾患の解説」

一週目で「フローチャート」を立体化し、二週目で「仮説を立てるには?」から最初の一歩目を学びました。

三週目は、疾患の解説です。
疾患の解説は、実際にその患者に遭遇したときに読めばよいように思います。
このパートが役立つのは、現在なのです。

こんなことも本書には書いてあるんだなあと思った項目を以下に挙げます。

CHART6 眼球結膜充血
CHART56 歯ブラシをくわえて転んだ
CHART58 血液検査でAST/ALT上昇がある
CHART62 おりものが増えた
CHART76 帝王切開後の発熱(母体に対する治療)
CHART80 母乳を間違えてしまった

感染症に対する想いが溢れていることが感じ取れます。
これも「愛と哲学」ですね。

「マスト&ベスト」は必ず役立つ一冊

小児科を語る上で、やはり感染症のウェイトが多く、感染症についてはどれだけ勉強してもしすぎることはないと思っています。

本書は小児科診療で必ず役立つことでしょう。

Source: 笑顔が好き。

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