「ステロイドの虎」から学ぶプレドニンの使いかた

その他ドクター

 

色々な面白い医学書を出版されている国松淳和先生。

今までいくつかの本を紹介してきた。

・蹄の音を聞いてシマウマを考える方法「ニッチなディジーズ」
・不定愁訴をみるために必要なこと「仮病の見抜き方」
・診断推論へのアンチテーゼ「病名がなくてもできること」
・愛情や思いやりは役立つか?「また来たくなる外来」
・わからないと言えることの価値「不明熱・不明炎症レジデントマニュアル」

 

今回紹介するのは新作「ステロイドの虎」。

これまでとは違ってマニュアル色が強い教科書になっている。

 

ステロイドの使い方には明確なエビデンスがないので、各々が適当に使っている部分がある。

明確なエビデンスがないため、微妙なさじ加減が重視されている。

 

明確な答えがない部分に対して、はっきりと「私はこうしている」と書くのは勇気のいることである。

そんなステロイドの使い方の「微妙なさじ加減」の部分がまとめられていて、非常に有用な本だった。

 

これまで読んだ教科書の中でステロイドの使い方が一番詳しく書いてあったのは「膠原病診療ノート」。

膠原病教科書の定番「膠原病診療ノート」【皮膚科医のオススメ教科書④】

今回紹介するのは、膠原病の教科書では一番有名だと思う「膠原病診療ノート」。

自分が最初に買ったときは第2版だったが、今は第3版になっている。

▼前回の記事▼

膠原病の教科書について

膠…

 

そのため今まで「膠原病診療ノート」の記載をベースに診療を行ってきたが、「ステロイドの虎」と対比しながら自分の使い方もまとめてみたい。

 

①投与量

 

プレドニンの投与量(1日量)は少、中、大の3つに分類される。

 

  • 少量(0.2~0.3 mg/kg/日):10~15㎎
  • 中等量(0.5mg/kg/日):20~30㎎
  • 大量(1mg/kg/日):40~60㎎

 

中等量~大量

個人的には大量を選択する皮膚疾患は重症薬疹と尋常性天疱瘡くらい。

その他の場合は中等量を使っている。

(水疱性類天疱瘡は中等量でだいたい行ける)

 

そして中等量を外来で処方するときは20mg/日にすることが多い。

理由は「外来で使えるのは20mg/日まで」と教わったことと、「20mg/日を超えると感染症発生率が増える」と膠原病診療ノートに書いてあるから。

・日和見感染を生じるという意味での免疫抑制は、プレドニン20mg/dayを超えると明瞭になる

・感染症発生率がほとんど無視できる20mg/dayが退院の基準

(膠原病診療ノート)

 

しかしよく考えて見るとこれは長期間使用している場合の話で、短期間であれば20mgにこだわる必要はないかもしれない。

 

少量

少量は使う量というよりは、長期投与する場合の減量の目安と考えている。

天疱瘡ガイドラインにも少量での寛解維持を目指すと書かれている。

治療の目標は,プレドニゾロン 0.2mg/kg/日または 10mg/日以下で臨床的に症状を認めない寛解が維持されることを目指す

(天疱瘡診療ガイドライン)

 

ただ慢性蕁麻疹に使用する場合は少量が推奨されている。

(中等量でガツンと抑えたほうがいいような気もするがどうだろうか)

症状が重篤な場合,または抗ヒスタミン薬に補助的治療薬を併用しても強い症状が続く場合は,プレドニゾロン換算量<0.2mg/kg/日のステロイド内服により症状を制御できることが多い

(蕁麻疹診療ガイドライン)

 

②不均等分割

 

プレドニンは1日1回投与よりも分割投与したほうが効果が高い。

・分割内服すると治療成績が良い

・ステロイドの分1内服を分割内服に変えるだけで、増量せずにコントロールできることもある

(膠原病診療ノート)

 

ただ夕方の内服は不眠を招くので、朝を多めにした不均等分割(朝3錠、昼2錠、夕1錠 のような)をするように自分は教わった。

 

しかし國松先生は不均等分割はしないらしい。

個人的なこだわりとして、不均等分割「5-3-2」のように朝に錠数を多くして1日の前半に傾斜をかけることはしない。患者が自宅での生活において錠数を正しく服用するなどを毎日こなせるかどうかというと疑問だからである。

(ステロイドの虎)

 

夜間の血中濃度が下がって効果が下がる可能性があるし、不眠になれば睡眠薬を投与すればいいじゃん。。という考え方。

朝方に寄せすぎると、昼、夕方以降のステロイド濃度は減り、少なくとも夜間における生物学的効果は日中のピークよりはグッと下がった状態を作ってしまう。

ステロイドによる睡眠障害の多くは、用量が多い間のことであり、その期間だけ睡眠薬で対応すればいいとも言える。

(ステロイドの虎)

 

確かにその通りで、不眠を恐れて効果が下がってしまえば元も子もない。

均等に分割するのがよさそうである。

 

③投与回数

 

膠原病診療ノートで推奨されている理想的な投与法は「8時間ごとの3分割」。

・初期プレドニン量の最大量は1-2mg/kg/day連日、分割内服分3、8時間毎が推奨されている。

・初期量が20-30mg/dayでも初めは分割内服とする。

(膠原病診療ノート)

 

ただ8時間ごとだと、8時、16時、24時と3回目の投与が深夜になるので、自分は朝昼夕の3分割にしていた。

 

しかし前述の夜間の血中濃度維持の点では、もしかすると朝昼夕の3分割よりも、朝夕の2分割のほうがよいのではないか。

実際、スティーブンス・ジョンソン症候群のガイドラインでは朝夕2分割が推奨されている。

ステロイド薬は十分に血中濃度を保つことにより持続的な抗炎症作用を発揮することが期待される.

ステロイドの投与量と種類による半減期の違いによって異なるが,プレドニゾロン大量投与の場合は原則として 1日2回に分けて投与する.

(スティーブンス・ジョンソン症候群診療ガイドライン)

 

というわけで朝昼夕ではなく、朝夕の均等2分割にしてみようと思う。

 

ちなみに減量していく過程では朝1回投与に変更する(コルチゾールの日周期に合わせて)。

・活動期は毎日分割内服。改善したら減量、1日1回内服(コルチゾールの日周期に合わせて朝8時)。

・朝1回内服への変更の目安は30-35mg/dayになったとき

(膠原病診療ノート)

 

④期間

 

ステロイドの投与期間は、どれくらいを目安にすればいいのだろうか。

考慮するポイントは2つ。

 

  1. 副腎抑制が起こるまでの期間
  2. 副作用が起こるまでの期間

 

副腎抑制

ステロイドを長期投与すると副腎抑制が起こり、急に止めると離脱症状が生じる可能性がある。

それでは副腎抑制が起こるまでの期間(漸減が必要になる期間)はどれくらいなのだろうか。

 

膠原病診療ノートでは中等量10日までなら漸減不要。

大量2~3日、中等量10日までなら、漸減せずすぐ中止できる

(膠原病診療ノート)

 

BMJの論文では2週間以内なら漸減不要。

・低リスク(漸減不要):2週間以内
・中リスク:5mg以上を2~4週
・高リスク:(コルチゾール測定)5mg以上を4週以上

BMJ. 2021 Jul 12;374:n1380. PMID: 34253540

 

up to date では3週間までなら漸減不要。

Short-term glucocorticoid therapy (up to three weeks), even if at a fairly high dose, can simply be stopped and need not be tapered.

up to date(Glucocorticoid withdrawal)

 

ということで概ね2~3週間までなら副腎抑制はなく、漸減せずに中止ができると考えられる。

自分は基本的に2週間以内に終了するようなプロトコールを組むようにしている。

 

副作用

膠原病診療ノートには、短期間の投与では大きな副作用は無いと書かれている。

ステロイドは短期投与なら、超大量でも副作用がほとんどない

(膠原病診療ノート)

 

しかし短期間が具体的にどれくらいなのかはよくわからない。

「副作用が生じるかどうかは副腎抑制が起きるかどうかで類推できる」という記載があるので、おそらく2~3週間くらいなのだろうと考えていた。

副作用が生じるかどうかは副腎抑制がおきるかどうかで類推できる

(膠原病診療ノート)

 

しかし今回、ステロイドの虎に2~3週間と明記されていた。

・ステロイドの副作用は、毎日投与していれば、開始2~3週間以降から出現し、そしてそれはほぼ回避し難い。

・2~3週間以内に投与が終了される場合はステロイドの副作用の影響を大きくはかぶりにくい。

(ステロイドの虎)

 

2~3週間で大きな副作用の可能性が出てくると考えてよいだろう。

となると、やはり2週間以内に終了するようなプロトコールを組むのがよさそうだ。

 

まとめ

 

今回はステロイドの使い方についてまとめてみた。

この他にも気になった点はステロイドの作用。

今まであまり意識していなかったのだが、ステロイドには「炎症を抑える」用途と「免疫を抑える」用途がある。

天疱瘡のような自己免疫疾患に対しては免疫を抑える用途で。

接触皮膚炎や重症薬疹には炎症を抑える用途で使用している。

このあたりを含めてステロイド治療の解像度が上がった気がしている。

 

▼國松先生の書評のまとめ▼

・蹄の音を聞いてシマウマを考える方法「ニッチなディジーズ」
・不定愁訴をみるために必要なこと「仮病の見抜き方」
・診断推論へのアンチテーゼ「病名がなくてもできること」
・愛情や思いやりは役立つか?「また来たくなる外来」
・わからないと言えることの価値「不明熱・不明炎症レジデントマニュアル」

 

Source: 皮膚科医の日常と趣味とキャリア

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