11β-HSD1阻害薬[2] ストレスで登場

健康法

11β-HSD1とは

11β-HSD1阻害薬とは,11β-ヒドロキシステロイド脱水素酵素I(11β–HydroxySteroid Dehydrogenase type I;以下 11β-HSD1)に作用して,その作用を阻害する薬です.11β-HSD1は,人体内の肝臓,脂肪組織,膵島細胞,骨格筋,心筋,生殖腺,炎症細胞,脳 等々,多くの組織・細胞に存在しています. こういう形をしています.

11β-HSD1 Dimer; Hosfield 2004

11β-HSD1の2量体の3D画像です. 立体視ができる方は 2量体の間の大きな空隙部がみえるでしょう.基質はここに取り込まれるようです.

11β-HSD1の作用

11β-HSD1酵素は小胞体の表面を作業場所としており,その動作は下図の通りです.

不活性型のコルチゾンを活性型のコルチゾールに変換します.コルチゾンのケト基()をOH基()に変えるので,これは還元反応です.したがって水素原子が必要になりますが,それは解糖系でも登場した 還元型NADH から奪い取ります.

一方 図にも示したように,上記の逆反応,すなわち 活性型のコルチゾールを不活性型のコルチゾンに戻すのが11β-HSD2です.

コルチゾールは,下垂体→視床下部→副腎皮質の指令にしたがって 副腎皮質で作られます(HPA軸)が,それ以外にも 不活性型のコルチゾンからも再生する経路があることになります. つまりコルチゾールが増加する経路は一つではないのです.

ではこうして作られた あるいは 再生されたコルチゾールは人体でどのような作用をしているのでしょうか.

コルチゾールの作用

コルチゾールとは『ストレスホルモン』という別名があります.ストレスがかかると分泌が増えるからです.

人体が生存の危機を感じた時に,とっさに対応してカツを入れる反応,すなわち すごい勢いで血糖値や血圧を上昇させます.血糖値の上昇は 糖新生をフル稼働させて行います.

コルチゾールの作用は精神面にも及びます. 眠気は吹き飛び,警戒心を強くし 時に攻撃的にさえなります.(これは,コルチゾールと同時に分泌されるアドレナリンなどの作用もあります)

これらの作用は人体に組み込まれたものなのですが,コルチゾールが過剰だと その副作用として,肥満・高血圧・糖尿病のリスクを高めます.

実際,大学で看護実践プログラムを学んでいる71人の健康な女性を対象に,12週間の授業+試験期間中の 体重,BMI,唾液中コルチゾールの分泌量を測定したところ,ほとんどの参加者は12週間の間に体重が増加し、唾液中コルチゾールの分泌量が上昇したのです.

また遺伝的原因で コルチゾールが常に過剰分泌されるクッシング病(下垂体性ACTH分泌亢進症)では,特徴的な 体幹部のみの肥満がみられます.

もちろんコルチゾールが人体に備わっているのは,有害な作用を及ぼすためではありません. 怪我・病気などで体に炎症が発生した時に(これもストレスなので)強力に炎症を鎮めます. これが本来の役目なのです. 実際 コルチゾールは ステロイド薬剤の主成分としても使われています.

さらに『ストレスにより行動は活発化するので若者には いい刺激となるが,年寄には認知機能の低下を生むだけだ』 (Dodd 2022)とも言われています. トホホ.

そこで,必要以上にコルチゾールが分泌されないように 11β-HSD1の作用を適度に阻害してやれば,不活性型のコルチゾンから活性型のコルチゾールに変換される量は減るはずだから,結果として肥満・高血圧・高血糖,すなわちメタボ症候群が抑制できるはずだ,これが11β-HSD1阻害薬を開発する目的です.

やっと入口にたどりつきました.

[続く]

Source: しらねのぞるばの暴言ブログ

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