【この記事は 第57回 『糖尿病学の進歩』を聴講した しらねのぞるばの 手元メモを基にした感想です. 聞きまちがい/見まちがいによる不正確な点があるかもしれませんが,ご容赦願います】
糖尿病に関する医学情報をまとめて講演する 第57回糖尿病学の進歩が開催中です.現地会場(=東京国際フォーラム)での対面講演は終了しましたが,オンラインでの講演視聴は3月31日まで可能です.
今回 もっとも注目したのは,このシンポジウムです.
2型糖尿病の経口薬について,下記6本の講演で 最新のトピックスが紹介されました.
- 2SY-5-1 メトホルミン ー 第一選択薬とすべきか
- 2SY-5-2 DPP-4阻害薬 ー エビデンスを整理して日本人での使い方を考える
- 2SY-5-3 SGLT2阻害薬 ー 日本人対象の臨床研究Updateと今後の課題
- 2SY-5-4 GLP-1受容体作動薬の位置付け
- 2SY-5-5 イメグリミンの血糖依存性インスリン分泌促進作用について~最適患者像を考える~
- 2SY-5-6 GIP/GLP-1受容体作動薬の可能性
2SY-5-1 メトホルミン
メトホルミンは欧米では 長らく糖尿病の第一選択薬でした. 過去形になっているのは,最新の ADA(米国糖尿病学会)のガイドラインで,心疾患リスクのある人には 最初からSGLT2阻害薬を投与するよう推奨されたからです.
欧米では 糖尿病=肥満=心血管死 なので,明確に心臓に不安のある人であれば,最初からSGLT2阻害薬を服用すべしという考えだからです. よって日本でもそういう人であれば,最初の投薬候補として考えていいでしょうが,肥満型糖尿病ではない人にはあてはまらないでしょう.しかし,心疾患リスクを持たず,肥満でもない場合は,このADA新ガイドラインでも メトホルミンは相変わらず第一選択薬です.
メトホルミンは 登場してから70年近くたつという古い薬でありながら,今なお 新しい薬理作用が発見されている実に不思議な薬です.
しかも非常に安価(250mg錠は 10.1円. つまり自己負担は 3円/錠)なこともあり,現在の日本でも むしろ使用量が増えていることが報告されました.
2SY-5-2 DPP-4阻害薬
食後すぐに腸管から分泌されるインクレチン(GIP,GLP-1)は,膵臓のβ細胞に働きかけて インスリン分泌を増強します.血糖値が上昇すると,膵臓β細胞はインスリンの分泌を開始しますが,その作用を増強するのがインクレチンです.つまりインクレチンは β細胞のターボチャージャです.
ところが,これらのインクレチンはDPP-4酵素によってわずか数分で分解されてしまいます.健常人ならこれでいいでしょう.食後直ちにインスリンが分泌されるからです. しかし,2型糖尿病では,食後に血糖値が上がり始めても そもそもインスリンの出足がよくありません. さらに2型糖尿病では インクレチンの分泌量が少なくなるだけでなく,インクレチンによるβ細胞刺激効果も弱くなっていると報告されています(Nauck 1986).そこでDPP-4酵素を妨害して,インクレチンの寿命を長くして,実質上のインクレチンの濃度を高くする,これがDPP-4阻害薬です.
この講演では,欧米白人に比べてアジア人(日本・韓国・中国)に対しては,DPP-4阻害薬の効き目が強いことが紹介されていました.
日本人は欧米白人に比べて インスリン分泌が弱々しいので,この結果は頷けるところです.
現在 日本で新規に糖尿病と診断された人のほぼ7割にはDPP-4阻害薬が処方されています. つまりDPP-4阻害薬は,実質的に日本における糖尿病第一選択薬となっています. 副作用も少なく 特段の禁忌もないので,たしかに使いやすい薬です.
ただし DPP-4阻害薬服用者に稀に出現する 類天疱瘡(全身に生ずる水疱) については注意が必要と解説されていました. といっても リスクの高いのは高齢・男性で,かつ特定の遺伝子(HLA-DQB1*03:01)を持っている人のようです.
[続く]
Source: しらねのぞるばの暴言ブログ
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