第57回 【糖尿病学の進歩】の感想-9 イメグリミンの症例

健康法

【この記事は 第57回 『糖尿病学の進歩』を聴講した しらねのぞるばの 手元メモを基にした感想です. 聞きまちがい/見まちがいによる不正確な点があるかもしれませんが,ご容赦願います】

第57回【糖尿病学の進歩】でのシンポジウム『2型糖尿病の薬物療法のUPDATE』の講演です.

2SY-5-5 イメグリミンの血糖依存性インスリン分泌促進作用について

この講演の副題は『~最適患者像を考える~』と付けられています. 実は 本題よりもこの副題の方に興味を抱いていました.

登壇したのは 自治医大附属さいたま医療センター 吉田昌史先生です. イメグリミンが発売されて以来,150症例ほどの投与実績があるとのことで期待していたのです.
ただし 講演のほとんどの内容は,イメグリミンのインスリン分泌増強メカニズムに関するものでした.

イメグリミンの血糖依存性インスリン分泌促進メカニズム

まず,イメグリミンとメトホルミンは骨格はそっくりだが,イメグリミンは 『新型のメトホルミン』ではない,と強調しました.

本ブログでもこの記事で;

イメグリミンとメトホルミンでは似ているところよりも,似ていないところの方が多いと紹介しました.
特にイメグリミンの『血糖値に依存してインスリン分泌を促進』はメトホルミンには存在しない作用です.

ではイメグリミンはどうやって『血糖値依存的にインスリン分泌を促進』しているのか.それは開発元のPoxel社からこのように提案されています.

Hallakou-Bozec 2021
Hallakou-Bozec 2021 Fig.7

『血糖値上昇を膵臓β細胞が感知して,カリウム(K+)チャネルを閉じて,これが….』という従来の定説(緑のルート)だけでなく,で示したNAD+(Nicotinamide Adenine Dinucleotide)生成を増強するルートが存在するだろうというのです.
そして,吉田先生の考えはこれだけでなく,さらに 緑のルート赤のルートとをつなぐルートもあるのではないかと提案していました.

ただ,もうこうなると 仮説の上に仮説ですから,何が何やらよくわからないというのが正直な感想です.

いずれであれ,重要なのは『イメグリミンがインスリン分泌を増強するのかどうか』という事実だけですが,これについては やはりPoxel社からこのように報告されています.

イメグリミンの血糖依存性インスリン分泌促進効果

Theurey 2022

2型糖尿病でイメグリミン(1500mg×2/日)を18週間服用した30人の糖負荷試験は,プラセボ(29人)対比でこうなりました.

Theurey 2022 Fig.3

18週までの途中経過が不明ですが,プラセボに比べて耐糖能が改善されています.

そして糖負荷試験からC-ペプチド 及び インスリン分泌指数を算出すると,この通りであり;

Theurey 2022 Fig.4

イメグリミンは血糖値に応じたインスリン分泌を促進するとのデータです.ただ これは被験者の平均BMIが約33ですので,肥満ではない人にどれくらいの効果として現れるかは未知数です.

イメグリミン投与症例

前記のTheurey 2022ではイメグリミンを 投与された人の糖負荷試験結果でしたが,以下は 実際にさいたま医療センターにてイメグリミンの投与を受けた症例です.
ただほとんどが投与開始後 の経過時間が短いので,これ以降の長期的効果はまだとりまとめ中とのことでした.

症例1

  • 72歳女性
  • 157cm 65kg BMI=26.4
  • 罹病期間 11年
  • HbA1c 7.4%
  • 空腹時血糖値 142mg/dl
  • C-ペプチド 1.59ng/ml

GLP-1受容体作動薬のセマグルチドに加えてインスリンの頻回注射をしていて なおHbA1cが7.4%ですから,罹病期間の長さと併せて かなり手ごわい糖尿病です. これにイメグリミンを追加投与したものの 効果はみられなかったようです.

症例2

  • 67歳女性
  • 162cm 48kg BMI=18.3
  • 罹病期間 18年
  • HbA1c 7.4%
  • 空腹時血糖値 92mg/dl
  • C-ペプチド 1.45ng/ml

やはりセマグルチドとメトホルミンで投薬治療中の人です. メトホルミンをイメグリミンに変更したところ,月を追うごとに HbA1cが悪化したので断念.

上記2例は,どちらもGLP-1受容体作動薬を長年 続けてきた人ですが,やはりGLP-1受容体作動薬とイメグリミンの相性は悪いようです.

症例3

  • 67歳女性
  • 149cm 41.6kg BMI=18.7
  • 罹病期間 5年
  • HbA1c 11.2%
  • 随時血糖値 302mg/dl
  • C-ペプチド 3.33ng/ml

DPP-4阻害薬と Basalインスリンで治療中の痩せ型の女性の例です. この例では イメグリミンを追加したところ,HbA1cは順調に低下し 4か月後には 6.5%にまで下がりました.


最適患者像を考える

以上の症例から,吉田先生の感想は イメグリミンはメトホルミンよりはむしろインクレチン薬に近い印象を受けたとのことです. また罹病期間の短い人,すなわち早期投与が効果的ではないかとのことでした.

[続く]

Source: しらねのぞるばの暴言ブログ

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