「20歳の時、東京ドームで5点ぐらい取ってもらったのに簡単に追いつかれた。なんでこうなるねんって……で、東京ドームホテルに泊まってたから、水道橋あたりやったと思うけど、40歳になった自分がホームレスになって、お金もない、ご飯も食べられへんっていう状況を1回、自分で想像してみたんです」
オールスターゲーム明けの後半5試合で2勝1敗、防御率2.17と相手チームや打者を「Dominant=圧倒」し始めているダルビッシュが、思わぬことを口にしたのは7月末のミルウォーキー遠征の時だった。
「そんな時に神様がいきなり現れて『おい、お前、20歳の時のことを覚えてるか? あの頃に戻りたいか? 1回だけチャンスやる。その代わり、できること全部やらへんかったら、またここに戻すぞ』って言われたら、誰でも絶対戻るでしょう?
で、僕はパッと目を開けて、たった今、神様のお陰で20歳の自分に戻って来たっていう体(てい)にしたんです。そしたら、もう未来が見えてるし、当時の僕はプライドも高かったから、『このまま終わるのはどうしても嫌や、ホンマにちゃんとやらなアカン』と」
行動は速かった。カタログにある全種類のサプリメントを取り寄せ、栄養学に没頭した。専門誌を読み漁り、専門家に問い合わせ、今まで以上に真剣にトレーニングに取り組んだ。
20代前半の彼が、チームのパ・リーグ連覇に大きく貢献し、最優秀選手賞と沢村賞のダブル受賞を果たしたのは偶然ではない。
「同時に考えたのは『俺、今までの人生一瞬やったな』ってこと。『ヤバイわ、これ、たぶん、気づいたら一瞬で40歳になってる。その次はすぐ60歳やぞ、一瞬やんけ!』って。時間ってたぶん、経ってみるとメチャクチャ速いし、人生の時間て意外と短いんじゃないかって思ったんです」(略)あの頃はブルペンでも引っ掛けたり抜けたりが多くて、周りも『どうなってんねん?』みたいな雰囲気があったけど、今は真っ直ぐも変化球もほぼ狙ったところに投げられるし、あの頃とはまったく違う。今までのキャリアの中で一度もなかったぐらいいい」自分のことについて語る時は慎重すぎるぐらい慎重な人が、自らそう言うのは珍しかった。
「100球ぐらい投げてても98マイル(≒時速157.71km)とか、出そうと思ったらいつでも出せる。そもそも日本では98マイルなんて出なかったし、フィジカル的にも今が一番いいと思う」
20歳のダルビッシュよりも凄い、32歳のダルビッシュ。彼の背中を押し続けてきた20歳の「教訓」は今、これから野球界を担っていく若い世代に向けられている。
「僕は20歳からだったけど、今の若い子たちが中学、高校のときから栄養とかトレーニングの勉強をしっかりやっていって、いろんなことにチャレンジしていけば、誰だって僕なんかより全然上に行ける可能性は秘めている」
おい、お前、1回だけチャンスやる。
このまま終わるのは嫌だろう?
地面を蹴りつけて、進もうぜ——。
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Source: 身体軸ラボ シーズン2
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