痩せ型糖尿病

健康法

もう一つの糖尿病スティグマ

「糖尿病」=「過食」=「肥満」=「だらしない生活」 と決めつけるスティグマに対して,ようやく 日本糖尿病学会やメディアも目を向けるようになってきました.この決めつけは非常に根深いもので(そもそもそれを助長してきたのは 学会ではないかと思うのですが),一朝一夕で解消されるものではないでしょう.このスティグマに悔しい思いをしてきた人は,まず1型糖尿病の人でしょう.いわゆる生活習慣とは無関係だからです.

しかし,もう一つのスティグマがあります.
『肥満ではない2型糖尿病の人』 つまり『痩せ型の糖尿病』です.
もちろん糖尿病が非常に悪化すれば著しい体重減少が起こりますが,ここで言う痩せ型とは そもそもずっと痩せていたのに糖尿病を発症した人のことです.

ところが,この記事にも書きましたように;

従来 糖尿病医学においては,2型糖尿病は『遺伝的素因に,過食と運動不足が重なって肥満したことが発症原因』とのみ説明されてきました.
つまり,痩せた状態で糖尿病発症などありえない,というわけです.

しかしながら,このデータを見ると;

日本: 大櫛陽一『メタボの罠』角川SSC新書(2007)
米国: Jerant A et al., Nutrition & Diabetes Vol.5.e152(2015)

たしかに 米国においては,糖尿病=肥満 と決めつけてもいいでしょう. ですが,日本の糖尿病患者の半分以上は肥満ではないし,BMIが20未満の痩せ型も8%ほどは存在しているのです.

痩せ型糖尿病の治療指針

この人達は 現在の糖尿病医療において,どう扱われているのでしょうか.

まず,日本糖尿病学会が,糖尿病専門医ではない 一般内科医向けに発行した解説資料『糖尿病 治療ガイド』の最新版を見ると,診断・治療の項目において,肥満については詳しい解説があるものの,肥満ではない,とりわけBMIが20未満の痩せ型の患者については何も書かれていません.

唯一記載が見られるのは,【E:境界型とメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の項において;】

境界型(糖尿病)を見出した時の取り扱い
 
境界型は,糖尿病に準ずる状態である.とくにIGT(注:耐糖能障害;空腹時血糖値は正常でも,食後又は糖負荷試験でのみ高血糖がみられるもの)は動脈硬化性疾患の合併の有無を評価するとともに,その危険因子を合併する場合はそれらに対して積極的に介入する. また3~6ヶ月に1回程度の間隔で代謝状態を評価する.

糖尿病治療ガイド 2022-2023 p.29

とあり,ここで【介入】とは 何を指すかといえば;

生活習慣の改善:肥満の解消(現体重の3%減を目指す). 食事量の制限,動物性脂質の制限,単純糖質の制限(とくに糖を含む清涼飲料水の制限),食物繊維摂取の促進,間食への配慮,運動の症例,飲酒習慣の是正,禁煙などの指導に努める.

糖尿病治療ガイド 2022-2023 p.29-30

とあります.つまり,境界型糖尿病=メタボ=肥満 と決めつけていて,それ以外はありえないという書き方なのです.
痩せすぎで,どうみても肥満からは程遠い 境界型の人が 現に目の前にいても,医師は『メタボを解消しろ』としか言えないのです.しかし,痩せているのですから,いくら何でも 体重を減らせ/食事を減らせとはさすがに言えないので,せいぜい『運動しろ』くらいでしょうか.
運動自体は悪いことではありませんが,痩せているのに過剰に運動すれば さらに痩せてしまうおそれがあります.

一般内科医向けの資料では 上記のように解説されていました.

では,専門医向けの資料である,下記2つの資料を見ると;

『糖尿病専門医研修ガイドブック 改訂第8版』
(C) 日本糖尿病学会
『糖尿病専診療ガイドライン 2019』
(C) 日本糖尿病学会

ほぼ 『治療ガイド』と同様の記載です. 一例をあげれば;

我が国における2型糖尿病の増加は,戦後の生活習慣の変化に起因している. 特にBOLD RED 食生活の欧米化が,内蔵脂肪肥満をきたし,インスリン抵抗性を主病態とする糖尿病が増加していることは,衆目の一致するところである. 糖尿病の予防には,肥満の是正が第一義的な意味を有する.そのためには,総エネルギーの適正化を中心とする生活習慣の是正が重要であり,体重の減少に伴って糖尿病の発症リスクは低減する.

糖尿病診療ガイドラン 2019 p.31

この通りで,そもそも 日本教とは相容れない 『食の欧米化』が肥満と糖尿病という結果を生んだという立場ですから,『痩せた糖尿病患者』については見て見ぬふりをしているかのようにみえます.

このような状況なので,専門医も一般内科医も,『痩せ型の糖尿病』については,これといった治療指針・治療情報を何も持ち合わせていないと思われます. したがって血糖値やHbA1cが上がってきたら 対症療法的に投薬を提案するぐらいでしょう.

海外では

なお,海外の文献もあたってみましたが,上図の通り,そもそも 『痩せ型糖尿病』自体が非常に稀ですし,それを取り上げた文献を見ても;

Lean Diabetes Mellitus

『幼少時の極端な貧困と栄養不良により,膵臓β細胞の発育が阻害されたことが原因』としか書かれていませんでした.

これは日本の状況とは異なる現象でしょう.

Source: しらねのぞるばの暴言ブログ

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