ユキナの物語・1

 

 

 

 

寒いこの季節には

数年前に書いた物語を思い出します。

 

 

先日のおうち個人セッションで

この物語をとても好きだと

おっしゃってくださった方いました。

 

 

普段のブログとは違いますが

3回に分けてアップすることにしましたので

良かったらお読みください。^^

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「何かを抱えながらも

素敵な明日を生きていたい」

 

 

ひたむきな

すべての人へ捧げます。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユキナの物語 

 

 

 

 

雪の舞い降りる季節に生まれた。

 

 

私の名前は、ユキナ。

 

 

 

大学を中退したフリーターの彼と。

 

 

1Kのアパートで一緒に暮らしているの。

 

 

「夕方には、仕事終わるから。それまで部屋でゆっくりくつろいでいて良いからね。」

 

 

 

 

まだベッドでまどろむ私に、暖かな毛布をそっとかけて。

 

 

 

彼は朝早くに、出かけて行った。

 

 

今年は、まだ雪は降っていないけど。

 

寒さも厳しい季節になった。

 

 

 

 

 

私は部屋で一人きり。彼の帰りを待つの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…なんてね。

 

 

 

 

 

目が覚めたら。

 

私は、こっそりお出かけするの。お出かけって言っても、お散歩程度のものだけどね。

 

 

彼はそのことに

 

気づいてるかもしれないけど。

 

 

でも、「寒さが厳しいから。部屋に居たら良いよ。」って言ってくれるの。いつもそうなの。優しいの。

 

 

 

 

 

 

彼と暮らし始めて、1年。

 

 

 

 

 

 

 

春は、一緒に桜を見に行った。川沿いに生える千本あろうかという桜は。見上げるほどに心が打たれた。

 

 

 

私の頭にひらりひらりと落ちてきた花びらを、彼は笑いながら取ってくれた。

 

 

さらさらと川に流れていく様は、悲しいくらいに美しかった。

 

 

ずっと一緒に、それを見ていた。彼は、とてもきれいだった。

 

 

 

 

 

 

夏は、お祭りに行った。私が金魚すくいに心惹かれすぎて、彼は少し困っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ちゃんと世話ができないから。金魚は、持って帰れないよ。」

 

 

 

私はちょっぴり残念だったけど。屋台のアユの塩焼きで、ご機嫌は直った。

 

 

 

最後の打ち上げ花火は、大きな音にびっくりしたけど。彼が背中を抱いてくれていたから。

 

 

 

安心して最後まで観られた。

 

 

 

帰り道の夜風が、あんなに幸せな気持ちで満たしてくれることを。私は初めて知った。

 

 

 

金魚すくいの代わりにした、スパーボールすくい。

 

 

 

色とりどりのそれを持ち帰っては、二人でね、子どものように遊んだの。

 

 

 

 

 

 

秋は、自転車で二人乗りをして山に紅葉を観に行った。山道を登るのは一苦労だったけど。

 

 

 

 

 

 

 

登りきると、展望台があって、鳥居があって、私たちは、お祈りをした。

 

 

 

彼は、なんてお祈りしたのかな。静かに閉じた瞼の長いまつげ。合わせた手の細長い指。

 

 

 

休憩所で温かい飲み物を飲んで、彼はお団子を食べていた。焼き鳥も売っていて良い匂いだった。

 

 

 

「食べたい?」彼は、1本買ってきてくれて、遠慮気味な私に、ちょっとだけ分けてくれた。

 

 

 

その後の。落ち葉の絨毯で寝っ転がった気持ち良さは。今でも忘れない。

 

 

帰り道。彼のパーカーのフードに、もみじが1枚。家に着くまで、そのままにしておいたの。

 

 

 

今年の冬は。

 

まだどこにも出かけていない。

 

 

 

彼は仕事が忙しく、それでも収入は少なく。中退した大学の学費を返すのに追われる日々だった。

 

 

 

私も、働いてお金が稼げれば良いのだけど。

 

 

 

それはできなかった。

 

 

 

 

 

「ごめんね。」

 

 

 

 

 

精一杯の気持ちを込めて、彼に伝える。

 

 

 

すると彼は、私を抱き寄せ、温め、おでこにキスをしてくれる。

 

 

 

「ユキナは、ただそばにいてくれるだけでいいんだ。ユキナがいてくれるだけで。俺は毎日が幸せ。」

 

 

 

そうして、たくさん笑いかけてくれる。いっぱいいっぱいハグしてくれる。

 

 

 

無償の愛情に、私は包まれている。

 

 

 

 

私も、彼を信頼し、とても愛している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が帰って来ない。

 

 

夕方、いつもならもう戻ってくる時間なのに。

 

 

 

私は、散歩に出かけても、彼が帰る時間には部屋に戻る。

 

 

 

でも、彼が帰って来ない。

 

 

心配になった私は、近所を探しに歩き回った。木枯らしが吹きすさぶ。枯れ葉がぶつかって来る。

 

遠くから聞こえるサイレンが、こっちに向かって来ていた。

 

 

視界の先に、人だかりが出来ている。

 

 

「なんだろう…。」

 

 

私はそこに近付き様子を伺う。「おい、人が倒れているぞ!」「救急車はまだなの?」

 

 

私は嫌な予感がして、人混みをかき分けて中に入った。

 

倒れていたのは、彼だった。

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Source: HSP片付けブロガーの「生きづらさ」が消える片付け

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