ACCORDとDCCTの差
ACCORDとDCCTは,ほぼ同じ実験コンセプトでした.
糖尿病であっても その血糖コントロールを正常人にできるだけ近づければ,合併症リスクもまた正常人並にさげられるはずだと予測していました. 実際どちらも,その時点での強化療法(=常に血糖値監視してインスリンを小刻みに注射する又は薬を投与する)により,効果的にHbA1cを下げることには成功しました.
しかし,結果は正反対でした. DCCTでは 網膜症・腎症,すなわち微小血管合併症を激減させることに成功したのに,ACCORDでは心疾患死亡率がかえって増えてしまいました.
それまでの糖尿病治療とは,
血糖値が高いのが糖尿病なのだから,血糖値を正常レベルにまで下げれば,あらゆる合併症は正常人と同レベルになるはず,したがってHbA1cを正常人並に下げればよい
この考えだけで突き進んできました.
しかし,ACCORD試験により,HbA1cが一見正常レベルであっても,それは低血糖によるものかもしれない.そして糖尿病患者の低血糖は,特に心疾患リスクの高い糖尿病患者の場合は,低血糖が命取りになることもあると教えてくれました.
さて そうなると 糖尿病の治療は難しくなりました.HbA1cの数字が仮に正常人並に低い値であったとしても,本当に正常と同じような血糖コントロールでそうなのか,それとも患者が頻繁に低血糖を起こしているから,血糖値の乱高下が平均されてHbA1cが低いだけなのか,それを見極めないといけません.
よって 連続血糖値測定器(CGM)が急速に普及することになりました.低血糖を確実に検出する方法はCGMしかないからです.
CGMで調べてみると
ACCORD試験の結果を受けて,一見良好なHbA1c(<7.0%)の人と,7.0%以上の人とに CGM(連続血糖値測定器)を装着してもらい,夜間に低血糖が発生していないかを調べた実験が行われました.
対象者は 下の表の通りです.
CGMを見れば明らかでした. HbA1cが低いグループの方では,無自覚であっても頻繁に低血糖を起こしている人が多かったのです. 特に夜間の低血糖は,誰も(=本人も)気づきません.
ACCORDの教訓
ACCORDの教訓は,
HbA1cばかりを注目して,どんな患者にも無差別にインスリンや薬をバンバン使えばいいというものではない
がわかったことでした.
では どうすればいいのか
- 高血糖が長期にわたり継続すると,網膜症(→失明)や腎症(→透析) などの微小血管合併症リスクが高くなる.
- かと言って,HbA1cだけを見て インスリンや薬で強引にHbAa1cを下げても低血糖(→心疾患)が発生しやすくなる.
その回答は,安定が一番ということでした.
血糖値は高からず,極端に低くもならず,さらに『激しく変動しないこと』,当たり前ですが,これが『正常人の血糖値パターン』なのです.
たしかにインスリンやSU剤などの薬物は,スポット的に血糖値を下げます.しかし薬で抑え込んだ血糖値は 薬の効果が切れれば上昇してきます.それを嫌って大量投与すれば,今度は低血糖が起こりやすくなります.
もちろん正常人でも,一日の血糖値はある程度は変動します. しかし,それは投薬による力づくの変動とは異なり,ジェットコースターのような急上昇/急降下とはなりません.
とすれば,『糖尿病患者が できるだけ正常人に近い血糖値パターンをめざす』とは,この図のどちら(茶色と紺色)を目標にすればいいのでしょうか?
ジェットコースターではなくてメリーゴーランドのようにゆったりしたものであるべきです.もちろん平均血糖値は低いにこしたことはないのですが,それは低血糖の危険がなければ,という条件付きでしょう.
ライフスタイル全般を見て
高血糖は放置できない,しかし 低血糖はもっと危険だという状況のもとで,ふたたび注目されるようになったのは,糖尿病治療の原点=ライフスタイルの全般にわたる改善です. つまり食事療法・運動療法,そして肥満の人の場合は減量です.そこで糖尿病治療の本流としての食事療法に再び目が向けられ始めました.
[31]に続く
Source: しらねのぞるばの暴言ブログ
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