日本糖尿病学会が5月に発行した『糖尿病治療ガイド 2020-2021』(右:以下【G-2020】)と,2014年に発行した『糖尿病治療ガイド 2014-2015』(左:以下【G-2014】)とで,食事療法の記載がどう変わったのかを比較しています.
エネルギー(カロリー)摂取量
【G-2014】と【G-2020】のどちらも,食事療法の第一にエネルギー(カロリー)摂取量を規定するとしています.この点では,両者は共にカロリー制限食しか認めていないことになります.ただし,そのカロリー摂取量を算出する方法については 大幅に改訂しています. 下記の比較表をみてください(スマホの方は非常に見にくいと思います.ごめんなさい).
まず目につくのは冒頭のタイトルです.
【G-2014】では『適正なエネルギー摂取量』としていましたが,【G-2020】では『適正な』という言葉をなくしています.この意図は『柔軟性』を強調したものでしょう.たしかに,右側の【G-2020】には,「柔軟に対処する」「適正体重の個別化」「柔軟に係数を設定する」などいった言葉が多く並ぶことからもわかるように,【G-2014】の『一律に決めた数字を 有無を言わさず全員に適用する』というトーンをかなり薄めようとしています.
この考えは用語にも表れていて,【G-2014】の『標準体重』は,【G-2020】では『目標体重』となっています.『標準体重』と呼ぶと,BM=22から算出された体重に,必ず全員が到達しなければならないことになります.しかし【G-2020】では「現体重と目標体重に乖離のある場合は,柔軟に対処する」とあるように,『標準』ではなく,『目標』なのだから,あまりにも目標が遠い場合には,患者に非現実的な減量を要求することはしないようにとも書いています.
更に 過去の設定カロリーが実測値と大きくかけ離れていたことを反省して,【G-2014】の『身体活動量』は,【G-2020】では『エネルギー係数』と言葉を変えたうえで,全般に設定カロリーが高くなるよう変更されています.【G-2014】の『身体活動量』では,「デスクワークが多い職業」(=これは誰が読んでもサラリーマンを指すと思うでしょう)は,「軽労作」でしたが,【G-2020】の[エネルギー係数の目安][普通の労作]に,わざわざ「通勤」という言葉を入れて,サラリーマンはこちらですよと誘導しています.
『デスクワーク主体』を『軽労作』から『普通の労作』に移せばそれでもよかったのに,と感じますが,それでは 間違いを認めたことになるので,こうせざるをえなかったと推測します.
ここまで見ただけでも,【G-2020】は【G-2014】に比較して,以下の変更点が明らかになっています.
- 【G-2014】では無条件に『すべての脂質を控えろ』としていたが,【G-2020】では『動物性脂質を控えろ』とした.
- 【G-2014】で非常に低く設定していた『適正カロリー』を,【G-2020】では実測値に近づけるため,全般に高くなるようにした.
- 【G-2014】では,現体重や年齢を無視して一律にBMI=22でなくてはならないとしていたが,【G-2020】では『高齢者は太目がいい』『現体重と目標体重が明らかに乖離している時には 無茶な減量を要求しない』となった.
修験者の修行マニュアルかと思うほど ストイックであった【G-2014】は,いくぶんか緩められ,かつ現実的な方向に変更されたことはわかります.
ところで,相変わらず 『炭水化物=60%が理想的』なのでしょうか?
[55]に続く
Source: しらねのぞるばの暴言ブログ
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