『2型糖尿病』は存在しない[9]反論しようにも

健康法

2018年にAhlqvist博士が発表した論文で,『従来の2型糖尿病と呼ばれている病気は,実は4種の相互に異なる別の病気が含まれている』という主張は,発表直後から論議を呼びました.それらは 発表論文に対するCorrespondense,つまり論文内容へのコメントという形式でしたが,コメントとはあくまでも『論評』に過ぎません.つまり考えを述べたものであって,『反証』まで提示したものではありませんでした.

実際Ahlqvist博士の論文に真正面から反対するのは非常に困難です.

反対するからには,博士と同様に Populationベースのデータ,つまりある地域・国の全人口を漏れなく調べ上げた糖尿病患者の詳細なデータベースが必要で,そういうデータベースを用いて解析した結果を提示しなければなりません. しかし,スウェーデンやエストニア以外の国で,完全に医療データがIT化されている国はないので,反論しようにも戦える材料がないからです.

日本のお寒い現状

これは日本の現状を見ればわかります. 日本の糖尿病有病者は1,000万人,糖尿病予備群も1,000万人などと報道されますがそれはすべて『推計』に過ぎません.

これらの推定の根拠になっているのは,厚労省の2つの調査です.

【1】国民健康・栄養調査

厚労省が毎年実施している 『国民健康・栄養調査』です.
そろそろ昨年の調査結果が発表される頃ですが,この記事を書いている時点で 最新の調査結果は2018年(平成30年)です.

調査方法は以下の通りですが,

  • 調査対象
    • 調査年の国民生活基礎調査において設定された単位区から、層化無作為抽出した300単位区内の世帯(約6,000世帯)及び世帯員(調査年11月1日現在で満1歳以上の者、約18,000人)。
  • 調査項目
    • 1)身体状況調査票
      • ア.身長、体重(満1歳以上)
      • イ.腹囲(満6歳以上)
      • ウ.血圧測定(満20歳以上)
      • エ.血液検査(満20歳以上)
      • オ.問診<服薬状況、糖尿病の治療の有無、運動>(満20歳以上)
    • 2)栄養摂取状況調査票
      • 満1歳以上の世帯員の食品摂取量、栄養素等摂取量、食事状況(欠食・外食等)、1日の身体活動量(歩数:満20歳以上)
    • 3)生活習慣調査票
      • 満20歳以上が対象。食生活、身体活動・運動、休養(睡眠)、飲酒、喫煙、歯の健康等に関する生活習慣全般を把握。

上記の通り 実際に調査に回答しているのは,日本の全5600万世帯,全人口 1億2650万人にたいして,6,000世帯/18,000人に過ぎません. 単に『糖尿病と診断された人数』『予備軍が疑われる人数』だけを推計するのであれば,統計的にはこれで十分であっても,『2型糖尿病』が本当に1種類なのかどうか,などという精緻な検証を行うには,データ数・調査項目共に まったく不足しています.

【2】患者調査

もう一つの厚労省 による調査です.こちらは3年に一度実施している『患者調査』です.

調査日を定めて,その日に全国の病院を訪れた外来患者 及び 入院患者の性別・年齢・病名などを報告するものです. ただし 対象は全国のすべての病院ではなくて,500床以上の病院はすべてですが,500床未満の病院は無作為抽出です. さらに その調査方法も

500床未満の病院の入院・外来の患者のうち生年月日の末尾が奇数の患者については全調査事項を調査することとし、生年月日の末尾が偶数の患者については「入院・外来の別」、「性別」、「出生年月日」のみを調査する。また、500~599床の病院の入院・外来患者については生年月日の末尾が1,3,5,7日の患者について、600床以上の病院については生年月日の末尾が3,5,7日の患者については全調査事項を調査することとし、それ以外の患者については「入院・外来の別」、「性別」、「出生年月日」のみを調査する。

という,一読しただけではにわかに理解できないような方法で,調査対象を選ぶことになっています. なぜこうなっているかといえば,1人の患者あたりの記入項目が多いので,その労力を軽減するためだそうです.

こちらの調査は,ある日 理由を問わず,病院に来た あるいは入院している患者数全体を推計するためのもので,前記の『国民健康・栄養調査』よりは大規模ですが,残念なことにこの調査では『糖尿病で通院・入院している患者の推定総数』だけしかわかりません(←令和2年調査では ~330万人).それ以上のデータ,たとえば 血糖値やHbA1cなど病状データはありません.


日本の現状はこの通りです.しかし,世界的にみれば これでもよく整備されている方です.

臨床試験を行うために,患者を募集するのでは,どうしても『試験参加条件に適合した患者』のデータしか得られません. そうではなくて,偏りのない『全人口』を対象とした調査は,あまりにも大規模になるので,サンプリングした統計的推計値しか出せません. どの国においてもこれは同じです.

生まれてから死亡まで,すべての国民の医療データが完全にIT化されているスウェーデンとは,いかに格差があるかがおわかりいただけたでしょうか.

[10]に続く

Source: しらねのぞるばの暴言ブログ

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