Ahlqvist博士の提案した『2型糖尿病は4つのそれぞれ異なる病気に分類されるべきだ』という提案は,当初 異論や反論が出たものの,それらはことごとく論破されて,しかもスウェーデン以外の多くの国・人種で検証した結果が続々と出そろうと,むしろ博士の新分類に普遍性と安定性があることが証明されるようになりました.
しかしながら,Ahlqvist博士の革新的な視点は まだ端緒についたばかりです. 現在 各国では,『2型糖尿病は一つではない』ことは既に当然の前提として,更に一歩進めた研究競争が始まっています.
たとえばこの報告は;
Ahlqvist分類による『5つの糖尿病』間で,癌・心疾患含めて全死亡率に差があるのかどうかを検討しています.
日本は周回遅れか
それに比べると,日本の糖尿病医学界の動きは 今一つです. 本来であれば,糖尿病に限らず,日本の医療水準は高く,臨床データは質・量共に豊富なのですから,資金力がモノを言う大規模臨床試験では後れをとっても,このようなデータ解析では有利なはずです.しかし,学会誌,日本糖尿病学会HP ,及び 先月開催された第63回年次学術集会のいずれを見ても,学会にこれといった動きはないようです.
日本人のCluster分析
そんな中で,ようやく1本の報告を見つけました.
Ahlqvist博士の Data-driven Cluster Analysisの手法にしたがって,日本人の糖尿病患者データを分析したものです. ただし,Ahlqvist論文とは以下の点で違いもあります.
後ろ向き解析である
スウェーデンのAhlqvist博士,そして ドイツのZaharia博士の解析は,全人口データ,又は登録した医療機関にかかったすべての糖尿病患者の発症(診断)時点から追跡した前向き解析でした. それに対して,この日本人の例は,必ずしも糖尿病発症(診断)時点のパラメータではありません. 現時点で糖尿病で通院している人の記録を過去に遡って調べたものです. なので 遅い人では,糖尿病と診断されてから8年も経った場合まで含まれています.
単一の医療施設である
スウェーデンでは,Scania県のすべての糖尿病患者が一人残らず対象となっていました. またドイツの例では,複数の医療機関に登録された全患者が対象でした.これらは,『漏れなくムラなく』集めたデータを対象にしています.
対してこの日本人の例では,単一の機関(福島大学)だけのデータです. 著者も述べていますが,大学病院に紹介された糖尿病患者ですから,そもそも合併症リスクが高い集団に偏っている可能性があります.
解析結果
解析結果は下記の通りです.これまでに紹介した他の国の例と併せて示します.(原文では SAID=1型糖尿病も含めて掲載されていますが,ここでは2型糖尿病の4グループだけを表示しています)
前提条件がかなり異なるにもかかわらず,日本人の場合でもやはりAhlqvist分類は有効でした.また SIRDがとびぬけたインスリン抵抗性とインスリン分泌能を同時に合わせもつなどといった各グループの特徴もそのまま再現されています. この中では 日本人のSIDDの割合が一番高いですが,これが前記の『データの偏り』によるものか,それともこれが日本人 独自の特徴なのかは,この例だけでは判断できないと思います.
[20]に続く
Source: しらねのぞるばの暴言ブログ
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