2021年 糖尿病治療は変わるか[4] 学会誌を見ると

健康法

日本糖尿病学会が発行している月刊学術誌『糖尿病』 第63巻 10号には,『糖尿病診療ガイドライン 2019』を今後どのように活用していくのかという特集が掲載されています.

特集 [糖尿病診療の指針:ガイドラインとの関わり]

残念ながら,学会会員でないと発行時点から 1年間は全文を読めません. したがって 目次と記事概要から内容を推測するしかありません.
特集では 序文+5本の記事が掲載されています. 以下その感想です.

序文 特集にあたって

各記事の一言紹介です.

1.糖尿病診療ガイドライン2019について

ガイドライン策定の手順・考え方を解説されたものです.基本的に 『糖尿病診療ガイドライン 2019』の原文の要約と推測されます.

2.大規模臨床試験・心血管安全性試験の現況

新理事長 植木浩二郎先生の執筆です.近年,EMPA-REG OUTCOME試験などで,SGLT2阻害薬の心疾患リスク低減効果が 一斉に報道されています.しかし,植木先生は,そもそも EMPA-REG OUTCOME試験は,SGLT2阻害薬の心疾患予防効果や治療効果を確認するために行われた臨床試験ではなく,FDAの指示に基づきSGLT2阻害薬の安全性確認試験であることを指摘しています.

もともとインスリン抵抗性改善薬の一つ,ロシグリタゾン(日本では未発売)が心筋梗塞を増加させたという報告があったため,FDAが急遽 すべての糖尿病 新薬に対して安全性確認試験を義務づけたことが発端です. EMPA-REG OUTCOME試験などは,『心疾患に悪影響はない』ことを証明するために行われたものなのです. そういう試験なので,当然被験者は心疾患リスクの高い人ばかりを選んで調べています. リスクの低い人で調べたら,いつまでも結果が出ないからです. 概要はここまでなのですが,おそらく 大規模試験の意義とその限界を整理することが,この記事の目的かと思われます.

3.臨床試験がガイドラインにもたらしたインパクト

2010年頃に 糖質制限食は危険だというメタ解析論文や雑誌記事を盛んに発表していた能登先生の記事です.その頃は『EBMにより,糖質制限食の危険性が示された』という論調だったのですが.この記事では;

EBMの真髄は,推奨内容を一律に実施することではなく個々の患者の特徴や嗜好に合わせた個別化医療を目指すものであること,EBMは患者に始まり患者に帰着することをあらためて強調したい.

と書かれています.
ブログ別館にも書きましたように,私もこのご意見には,もろ手をあげて賛成です.
しかし,この方は 2013年のPlos論文雑誌記事 などで,もっぱらLagiouのBMJ論文[※]を たくみにメタ解析のオブラートに包んで,『EBMは糖質制限の危険性を示している』と主張されていた人と同じ人なのでしょうか?

[※]この論文が 世界の研究者からどれほど軽蔑されたかは,こちらをお読みください.

4.日本の糖尿病診療ガイドライン2019と海外の糖尿病診療ガイドラインの比較

概要だけでは,どういう内容なのかまったく不明でした.おそらく 日欧米の糖尿病ガイドランでの,診断基準・血糖コントロール目標・薬剤選択基準などを詳述しているものと思われます.

5.糖尿病診療―どんな領域でエビデンスが不足しているか

序文で大杉先生が紹介されていた通り,このテーマで記事を書くのはもっとも困難でしょう.
文面からは 新ガイドラインの中で,特に食事療法がエビデンスが不足していること,そもそも食事療法で信頼性の高いエビデンスを得ることは非常に困難であることを 述べています.

本当にその通りだと思います. しかしそれなら『糖質制限食はエビデンスがないから危険だ』とした 2013年の学会提言は何だったのでしょうか. 食事療法で信頼性の高いエビデンスを得ることが不可能に近いというのであれば,

  • 一方では エビデンスがないことを理由に糖質制限食は危険だとして
  • 他方で エビデンスがないのにカロリー制限食は『すべての糖尿病患者が守らなければならない』

としてきた理由は何なのでしょうか.

[5]に続く

Source: しらねのぞるばの暴言ブログ

コメント

タイトルとURLをコピーしました