先ごろ英国では、新型コロナウイルス感染症における細菌性肺炎の原因菌として、歯周病菌を含む多くの口腔常在菌が見つかったとの研究報告がなされた。なおのこと油断は禁物であり、花田教授は続けて、
「歯周病は、単なる口腔内の病気ではありません。歯周病菌は三つのルートで全身に拡散し、健康に影響を及ぼしていきます。最も一般的なのは血管を通るルート。歯周ポケットに溜まる細菌の数は、歯周病菌を含め1グラムあたり1千億個にもなり、血管に侵入すると、これらの『歯原性細菌』は血管の老化を促進し、壁に付着して血管を腫れ上がらせ、虚血性疾患を引き起こします。さらには毛細血管を通って循環器まで到達し、わずか90秒で全身の器官へと回ってしまうのです」
歯周組織から出た細菌が最初に到達するのは心臓で、次が肺。そしてまた心臓に戻るルートをたどるのだが、
「それによって大動脈から全身の臓器に細菌がばらまかれます。腸管に生息する細菌も血管を通りますが、肝臓において分解されてしまうので、そこから先へはまず到達しません。ですが歯周病菌の場合、心臓を起点に脳を含む重要臓器すべてに達してしまいます」
その結果、認知症やうつ病などの精神疾患にも関係してくるという。
「血管全体の老化を招くため、動脈硬化とも大いに関わってきます。歯周病の人は健康な人に比べ、心筋梗塞を患うリスクが2倍に跳ね上がるという研究結果もあるのです。また脳卒中(脳梗塞や脳出血・くも膜下出血など)も、各国の研究から約2倍のリスクがあることが分かっています」
がんの場合、歯周病患者だとリスクは約1・3倍となり、とりわけすい臓がんは、一昨年に報告されたフィンランドの研究で2・3倍にまで高まることが判明しているという。のみならず腎臓や関節、子宮にも影響を及ぼす。それぞれ糖尿病性腎症や関節リウマチ、低出生体重児が産まれる可能性も高まるというのだ。
「全身に拡散する二つ目のルートは、唾液で直接、歯周病菌を飲み込んでしまう形で、大腸に達します。先に述べた血管のルートでも大腸に届きますから、腸を内外の両方から攻められるような状態です。これが進行すると、大腸がんを引き起こすリスクが高まります」
安倍前首相が退陣に追い込まれたことで先ごろクローズアップされた「潰瘍性大腸炎」についても、
「この潰瘍性大腸炎とは、多因性疾患。遺伝的ファクターや食習慣もあり、一つの原因では論じられませんが、歯周病がリスク因子となっている可能性も大いに考えられます」
そして三つ目のルートは、
「唾液と一緒に肺に吸い込む、いわゆる『誤嚥』です。口腔内の細菌が塊となって『バイオフィルム』という多糖体が形成され、これが気道に入り込んでしまうと、肺炎につながる恐れがあります。バイオフィルムには約700種の細菌がいるとされ、睡眠中は唾液の分泌が止まり、浄化作用が働かないので一晩で千倍ほどに増殖してしまう。睡眠中にも、気道から唾液を誤嚥してしまう『不顕性誤嚥』が起こっており、特に高齢者は就寝前に歯や舌を磨かなければ、危険が高まります」
以上の3ルートで歯周病菌が全身に影響することは、すでに世界の研究者らによって解明されているのだが、
「実際に採血して調べると、体内には歯周病菌よりも一般細菌の方が多い。つまり、いったん歯周病に罹って歯周組織に穴が開いてしまうと、あとは無数の菌が全身に流れ込んでいくわけです。『異所性感染』と言い、口腔内では病原性がなく大人しい細菌でも、他の臓器に届くと環境に適応できず、病原性を発揮して暴れ回ってしまうことがあるのです」
すべては歯周病に始まるというわけだ。
歯を磨かないと、血液中にLPSが流入するという研究結果もある。米国で平均25歳の若者50人に3週間歯磨きを止めさせ、上腕静脈から採血したところ、
「56%の人でLPSが検出され、その後、歯のクリーニングをして歯磨きを2週間続けると、元の状態に戻りました。またドイツでも、24歳の被験者37人から同様の結果が得られています。エンドトキシンは基本的に検出限界以下の数値なので、若者の静脈から検出されること自体、通常ではあり得ないことなのです」
まさしく口腔ケアの重要性を裏付ける結果である。
Source: 身体軸ラボ シーズン2
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