「2型糖尿病」と呼ばれているものは,実はそれぞれがまったく異なる4つの病気をひとからげにしているだけである,というAhlqvist博士の新説は,欧米の糖尿病医学界に広がりつつあります.
予備軍の段階ですでに違うのでは
Ahlqvist博士は,スウェーデン/Scania県であらたに糖尿病と診断されたすべての患者について,診断時点でのデータ,及びその後の糖尿病の転帰(=病状の進行・変化)データを Data-Driven Cluster分析したものでした.
1型糖尿病では,通常「この日に発症した」という時期がかなり明確に決められます.急激に血糖値が上昇し,自覚症状もすぐに出るからです(緩徐進行型=SPIDDを除いて).
ところが2型糖尿病の場合はあいまいです.食後血糖値や空腹時血糖値が上昇していても,それは緩やかなので,本人が気づいていなかったり,あるいは健康診断でそう指摘されても,痛くもかゆくもないので放置している人も多いからです. したがって,医師が『あなたは2型糖尿病ですね』と診断しても,それは『糖尿病が発症した日』ではありません.
2型糖尿病が,実は 4種類のそれぞれ異なる病気の集合体であるのなら,本当の発症時点,つまり糖尿病予備軍の段階で,すでにパターンの違いが既にあるのではないか,と考えるのは自然でしょう.
これを実際にドイツの R.Wagner博士らが詳細に調べました.
6種類の『予備軍』があった
その結果は前回記事の通りでした.この調査は,まだ糖尿病とはまったく診断されていない,ただ 家族に糖尿病の人がいるとか,肥満の程度などから『糖尿病のリスクが高い人』だけを追跡して,最初の状態と,その後 実際に糖尿病を発症するかどうか,そして糖尿病が発症した場合はその病状に特徴があるかどうかなどを詳細に長期追跡したものです.
これらの6グループの人達の特徴は それぞれ下記の通りでした.
もっとも注目されるのは,やはり(赤で示した) Cluster6でしょう.Cluster6の人たちは肥満で内臓脂肪の多いグループでした. これは Cluster5のグループと同じです.しかし,Cluster6は,糖負荷試験では正常又は軽い耐糖能障害なのに,Cluster5は ほとんどが耐糖能障害でした.ここだけを見れば Cluster5の方が糖尿病リスクが高いように思えます. ところが実際には Cluster6の方が糖尿病リスク,とりわけ 腎症のリスクが高かったのです.
『肥満型だが,糖尿病の症状は最初は軽い.しかし 腎症が速やかに悪化する』,これは まさにAhlqvist分類の SIRD(重度インスリン抵抗性糖尿病;Severe Insulin Resistance Diabetes)の特徴そのものです. またCluster6に属する人の遺伝子分析結果では,いわゆる『糖尿病に関する遺伝子』を持っている人が少なかった,これも 『SIRDの遺伝子の特徴は従来の糖尿病とはまったく異なっている』とも一致しています.
Wagner博士も,この重大な結果を強調しています.
なぜCluster6の腎症リスクは高いのか?
それは Cluster6の人の腎洞脂肪が多かったことで説明できると思います.腎洞(renal sinus)とは,名前の通り,腎臓の一番奥まったところにある空洞部です.
しかし,ここに内臓脂肪が多量に蓄積されると,周囲の腎臓組織が圧迫され,それが レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)を活性化します. RAASの活性化は、直ちに高血圧・インスリン抵抗性・動脈硬化症などを引き起こします.
つまり,Cluster6やSIRDでみられる強度のインスリン抵抗性は,腎臓が原因なのでしょう.膵臓は むしろとばっちりを受けて,インスリン抵抗性を何とかしようと,必死でインスリン分泌を増やしているだけなのです.Cluster6=SIRDは,実は腎臓病とみるべきなのに,現在の医療では『肥満型によくみられる程度の軽い糖尿病』と初期診断される可能性が大きいのです.
[5]に続く
Source: しらねのぞるばの暴言ブログ
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