第64回日本糖尿病学会 年次学術集会が昨日から始まりました.
会長特別企画1 インスリン発見から100年
昨日 午前は この企画を視聴しました. 22日までは ライブ開催が主体なので,その時間帯でどれか一つの講演を選択するしかありません.
インスリン発見から100年の特別企画ということで,インスリンの発見から実用化・現在の状況までを回顧する企画かと思ったのですが,そうではありませんでした.
この講演は インスリンの最新の研究成果と未来の発展,つまり次の100年に向けて,というメッセージかと思われます(インスリン100年の歴史を回顧する企画は 別途行われます)
【1】インスリンとその受容体との構造解明
トップバッターはメルボルン大学 M.C.Lawrence博士の講演でした.内容は ほぼこの文献(+最新の成果)に沿ったものでしたが,
何よりもインスリンが インスリン受容体と結合する様子を示す 3D CGが 実に美しいものでした.しかもこれは 単なる概念的なアニメではなくて,実際のインスリンと受容体の構造を解析した結果をベースにしています.
このCGを見ると,インスリン受容体がインスリンを捕捉するというよりは,インスリンダイマーが受容体に『噛みついて』いるように見えました.
すばらしい CGでしたが,欲をいえば バックにガンダムの音楽を流してくれれば もっと面白かったと思います.
【2】糖代謝恒常性とその破綻のトランスオミックス解析
トランスオミックス(Trans-Omics)については,この総説が詳しいです.
先天的肥満マウス(ob/ob)と野生型マウスでの糖代謝の違いを,遺伝子発現→転写因子→蛋白質→代謝物質という階層別にすべての登場人物について それらの登場割合及び相互の関連ルートを全追跡したものです. これだけで途方もない膨大さです.そしてその結果を見ると,想像以上に肥満と非肥満では代謝の様相が異なることがわかりました.
荒っぽく言えば,肥満状態では通常の糖代謝ルートが作動しない又は細っているため,ちょうど 高速道路が渋滞している時 やむなく一般道に降りてあちこち迂回経路を探しながら走るように効率の悪いルートをたどるようなイメージでした.このアナロジーと同様に,肥満状態では,糖代謝経路が 遅くかつ非効率になっていることがうかがわれます.
[3]幹細胞インプラントによる膵β細胞置換
有名な British Columbia大学 Kieffer博士の講演です.
インプラントというと,歯が有名ですが,ここでは膵臓肝細胞を極微細なFilmにして膵臓に移植し,β細胞の機能を復活させる,つまり糖尿病を直接的に『治してしまう』というアプローチです. しかも単なる概念論ではなくて,マウスの実験で,実際に3Dプリンタを用いて 幹細胞を載せたFilmを移植し,β細胞機能を復活させることに成功しています.
これだけでもすごいことですが,最新の成果では人間の1型糖尿病患者への皮下移植を実際に行い,1年間経過観察したところ血糖コントロールに改善がみられました(インスリン注射が不要になったわけではありません).
以上の3本の講演は,文献でもたどれなくはないですが,著者自身による解説ですから 非常にわかりやすいものでした.
[2]に続く
Source: しらねのぞるばの暴言ブログ
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