ひとりでも多く,一日でも早く

内科医

 今月末時点で,我が国も人口の約半分が新型コロナウイルスのワクチン接種を終えました.私も自院での接種と集団接種会場への出務等で微力ながら貢献させていただいています.

 さて,このワクチン接種をめぐっては賛否両論ありますが,私は,基本的には以下のように考えています(以下,コロナと書いたのは「新型コロナ」の略です).
 まず,このコロナ禍を終息させるにはどういう方法があるでしょうか?
その方法は大きく分けて3つだと思います.  
 ①特効薬ができること.
 ②多くの人々が罹患して集団免疫ができること
 ③ワクチン接種により集団免疫を作ること

 ①については,世界中で研究が進められていますが,もちろんまだ完成していません.現在の治療法は,既存の薬剤を試行錯誤しながら使用しているだけであり,インフルエンザにおけるタミフルのような抗ウィルス薬はまだないのです.
 ②ついてはどうでしょうか?
 これには人類の70%程度が罹患する必要があると言われていますが,いうまでもなくそれには多大なる犠牲を伴います.
 今年前半に恐るべき感染爆発を起こしたインドの感染者数が,全人口の約1割しかワクチン接種を終了していないにもかかわらず激減しましたが,国民の70%が抗体を獲得した可能性があるとのことです.しかしその結果人口13.6億人のうち3,300万人が罹患,40万人以上が死亡,これを人口1.2億人の日本に換算すると,約300万人が罹患し,約35,000人が死亡するということになります.    
 今の日本の状況は,その半分にも達していませんが,犠牲者を増やしてまで待てるでしょうか?
 そうすると,残る方法は必然的に③になるわけです.

◆ワクチンは本当に効果があるのか?
 日本では高齢者への優先接種が進み,8割近くの方が2回接種を終了しています.
 第5波の真っ只中にいる日本では8月末時点で毎日2万人前後の感染者が出ていますが,高齢者の比率は極めて少なくなっています.高齢者層は若年者層に比べて社会活動が少ないということを差し引いても,これはワクチンの効果と言わざるを得ないと思います.
 ワクチン接種後に抗体価が非接種者の1000倍以上に跳ね上がるのは当院での検査でも実感しています.また,感染しても抗体が出来ますが,ワクチン接種による抗体価の方が高く持続時間も長いことはすでに報告されています.

◆ワクチンは本当に安全なのか?
 どんな薬でもサプリメントでも100%安全で副作用のないものなどありません.私たちはいつもその効果と副作用とを天秤にかけて使うのであり,世に出た薬の多くはその効果が副作用をはるかに凌駕しているからこそ使えるようになっているわけで,ワクチンも例外ではありません.
 もちろん薬やワクチンの開発には5年とか10年という長いスパンで臨床試験をしっかり行うことが必要ですので,そういう意味では特例承認された今回のワクチンは,臨床試験や安全性の検討も十分とは言えないでしょう.
 しかしながら,今回のように人類の存亡にも関わる危機においては,そんなに長く待つわけにはいかないわけですから,言い方は悪いですが,やむを得ないわけです.
 このワクチンが今後5年,10年後に何らかの不都合な結果を我々にもたらさないか?という不安は拭えませんが,もちろんそんなことは誰にもわかりません.
 しかしながら,大事なことは,今まさに我々が直面している危機に向き合うことですから,乱暴な言い方をすれば,そんな先のことを今心配しても仕方ないのでは?と思うわけです.

◆ワクチンなど打たなくても,免疫能をあげるような生活をしたり,サプリや漢方や代替医療などを利用すればコロナに罹患しない,罹患しても軽症で済むのではないか?
 確かに基礎疾患のある人や高齢者は罹患率や死亡率が高いという事実からは,ある意味当てはまるかもしれませんし,ワクチン反対論者の方にはこういう考えの方もおられるようです.
 しかし若い人で健康,屈強な人や全く持病のない人でも多く罹患していますし,死亡例も多数見られます.
 武器も持たず鎧だけで敵陣に切り込めるくらいのウイルスなら,あっという間に重篤化してECMOさえ必要になったり,全世界で2.3億人もの人が罹患したことをどう説明するのか?ということです.

 そもそも免疫能というのは漠然とした概念で数値で測ることもできませんし,どれ程の免疫能があれば予防効果があるかなど,それこそエビデンスがないわけです.
 自分は風邪ひとつひいたことがないしインフルエンザのワクチンも打ったことがないが罹ったことはない,だから今回も大丈夫,という意見もあります.
 確かにそういう方は「免疫能」が強く,感染症にかかりにくい体質なのかもしれません.ワクチンを毎年打ってもしょっちゅうインフルエンザにかかる人もいます.
 しかし,コロナは風邪でもインフルエンザでもないので,罹患しないというのは希望的観測であり,これは「胃だけは丈夫」というようなあまり根拠のない自信に似てはいないでしょうか?
 また,ワクチンは自分が発症しないのみならず他人への感染を予防する目的もあるという視点も必要です.

◆ワクチンによる死亡例が報告されているがどうか?
 確かにワクチン接種して数日以内に死亡した例が報告されており,因果関係が否定できません.
 しかし高齢者や重い持病のある方は,もともとワクチンを打っていてもいなくても心筋梗塞などで突然死亡することもあるのに,それをマスメディアがただ単純に時系列で並べて示せばいかにも全て副反応のように見えますが,これは悪意のある印象操作ですし,そもそも因果関係を立証するにはきちんとした検証が必要です.

 私は,ワクチンに限らず,視聴率至上主義で何かにつけてセンセーショナルに不安ばかりを煽りたがる日本のマスメディアの報道姿勢には極めて問題があるといつも思っていますし,強い怒りさえ感じます.
 例えば副反応などデメリットばかりを強調すれば誰でも接種をためらうのは当然です.本当に国を挙げてコロナに対峙したいと考えるのであれば,ワクチンの効果が出ているということも含めて客観的なデータを使って丁寧に報道すべきであり,それが報道機関の使命だと思います.

 そして正確な情報を吟味した上でやはり接種を躊躇うのであれば,それは個人の自由ですから尊重されていいですし,アナフィラキシーの既往があることなどが理由で接種したくてもできない人もいますが,周囲の人が接種することにより守ってあげればいいと思います.

 世界の人口が20億人だった100年前,ワクチンはおろか薬もなく,4千万人もの犠牲者を出したスペイン風邪は,今でもインフルエンザとして残っていますが,ワクチンや特効薬という武器を獲得した我々人類はうまく付き合っています.

 コロナも,ワクチンが普及してある程度感染がコントロール出来れば,そして重症者に対するより有効な治療法や抗ウイルス薬が普及すれば,おそらくインフルエンザのように2類相当のウイルスに格下げされ,毎年ワクチンを1〜2回定期的に打つ,あるいは抗ウイルス薬を使う,というようなことになり,その時こそコロナ禍が終息したと言えるようになるのではないでしょうか.

 その時まで,もうひと踏ん張りです❗️


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Source: Dr.OHKADO’s Blog

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