第24・25回 日本病態栄養学会の感想[5] その定説は本当か その2

健康法

日本人のマグネシウム不足は本当か

日本人はマグネシウム摂取不足であると言われています.

日本人の食事摂取基準 2020年版 p.309によれば,日本人のマグネシウム摂取 推奨量は下記の通りです.

  • 成人男性:~300mg/日
  • 成人女性:~240mg/日

ところが 国民健康・栄養調査 令和元年版(令和 2,3年はコロナのため調査中止)によれば,日本人の実際のマグネシウム平均摂取量は 以下の通りであり,

  • 成人男性:~250mg/日
  • 成人女性:~200mg/日

このことから,平均的には日本人は慢性的にマグネシウム不足ではないかというわけです.
もともとマグネシウムは,多くの食品・食材に含まれており,通常は摂取不足にはならないはずですが,加工食品・精製食品では ミネラル含有量が少ないので,それらに偏っていると不足に陥りやすいようです.

ただし 『マグネシウム不足は 糖尿病リスクを高める』とはよく聞きますが,日本人を対象とした報告では、マグネシウム摂取と糖尿病発症の間には明確な関係は見られないようです.

マグネシウム不足の評価

健康な人体の血清中マグネシウム濃度は 1.8~2.6 mg/dl です(SRL社 基準値;検査機関により多少異なります).したがって,血液検査すれば,その人がマグネシウム不足かどうか判定できるのでしょうか?

答えはNOです.人体の血清中のマグネシウム濃度は、常に一定値に保たれており,たとえ相当マグネシウムが欠乏しても 血中のこの値は変動しません.
なぜならば,血液に含まれるマグネシウム量は人体内の総量の 1%以下に過ぎず,人体のマグネシウムの90%以上は骨・歯・筋肉・内臓組織に存在しており,血液中のマグネシウム濃度が低下すると,これらから ごく微量のマグネシウムが放出されるだけで 一定値を保てるからです.もしも血液中のマグネシウム濃度が低下するほど欠乏していたら,その人の体にはほとんどマグネシウムが存在しないことになります.

したがって ある人がマグネシウム不足かどうかを本当に確認しようとしたら,その人の死後に遺体を火葬してその灰の中のマグネシウム総量を秤量するしかありません. つまり 生きている人がマグネシウム不足かどうかを正確に判定できる方法はないのです. ただ食事のアンケートなどから,その人のマグネシウム摂取量を推定しているだけであって,実は『日本人はマグネシウム不足である』と断定できる明確な根拠はないのです.

マグネシウム不足を実測してみよう

なんとかマグネシウム不足を実測する方法はないものでしょうか?
それを追求した報告がありました.

一般口演 栄養アセスメント[1] O-102
潜在的なマグネシウム欠乏状態を評価するための指標の探索
静岡県立大学大学院 岡本ひなた 他

厳密に同じ食事を食べて,かつ水分摂取量も管理した状態を2週間継続して,その間1日おきに24時間蓄尿を採取してマグネシウムの排泄量がどう変化するかを調べたものです.試験期間中,16名の健康な20代男女被験者は同じ食事・同量の水分を摂り,多量の発汗を伴う運動などは禁止されました.

この期間中に被験者が摂った食事のマグネシウム含有量は,男性 340mg/日,女性 270mg/日と,推奨量以上でした.

そこで,もしも これらの被験者がマグネシウム不足状態であったのなら[※],尿中へのマグネシウム排出量は次第に増加して,どこかで飽和(=マグネシウム不足が解消された)するはずです.

[※] あらかじめ 全被験者への食事アンケートで,従来のマグネシウム摂取量は 推奨量を大きく下回っていたと推定されています.

試験結果から,試験開始日に比べて,試験7日目,及び試験終了時点の15日目において,男女とも尿中マグネシウム排泄量が増加していることが見出されました.言い換えれば,『十分なマグネシウムを含む食事を摂り続けたのに試験前半のマグネシウム排泄量は少なかった』=『それだけ 体内に吸収されるマグネシウムが多かった』=『マグネシウム不足であった』ことになります.被験者は試験前にはマグネシウム不足であったことが 間接的に証明されたわけです.

ただしマグネシウムは尿中だけでなく 便にも排出されるので,これだけでマグネシウムの不足状態を評価できたとまでは言えませんが,それを示唆する実験であったと思います.

また この実験からマグネシウム不足状態から充足状態に至るには,少なくとも1~2週間ほどはかかることがわかりました.十分なミネラル量を含む飲み物や食品を摂ったからといって1日や2日では 不足状態は解消されないようです.

この実験,調べる方も被験者も大変な労力だったでしょうが,こういった基本的なことを 手抜きの推定ではなく 実験できちんと調べることはきわめて重要です.栄養学の学会にはまことにふさわしい報告でした.

[6]に続く

Source: しらねのぞるばの暴言ブログ

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