治療薬としてのケトン体
ケトン体が,単なる代替エネルギーだけでなく,もちろん『脂肪の燃えカス』でもなく.生理活性も持つ ,しかも 心臓や腎臓には有用な作用を示すとなれば,ケトン体を治療手段として積極的に用いることは当然 期待されます.
実際 SGLT2阻害薬によって,人為的にケトン体を増加させることができるとわかったので,SGLT2阻害薬を糖尿病患者の心疾患や腎症進行の治療薬として用いる多数の臨床試験が行われました.
多数の試験結果をメタ解析したところ,ケトン体の心臓・腎臓への保護効果は一貫していました.
心血管疾患の全死亡率は,SGLT2阻害薬投与で低下していました. (OverAll ハザード比= 0.85).横軸のハザード比は対数目盛であることにご注意願います.
また腎症についても 腎症進行速度の低下など,明瞭な改善が見られました. (OverAll ハザード比= 0.62)
そこで 欧州では,SGLT2阻害薬を 糖尿病ではなくとも 心不全患者の治療薬として用いることが承認されました.
日本でも 慢性心不全治療薬として使えるよう 最近 承認されました.
ケトン体を直接投与
上記の例は SGLT2阻害薬投与によって肝臓でのケトン体産生を促進し,血中ケトン体濃度を増やそうという方法です. これはケトン体を増加させる手段としては間接的な方法です. しかし SGLT2阻害薬は,本来糖尿病薬として血糖の排泄を促進させる薬でしたが,同時に強力な利尿性もあるので,患者が脱水 → ケトアシドーシスを起こしやすくなります. 実際にもそういう症例が相次いでいます.
第65回 日本糖尿病学会 年次学術集会
一般口演 P-67-2
SGLT2 阻害薬内服中に生じた正常血糖および高血糖糖尿病ケトアシドーシスの臨床的特徴について
神戸市立医療センター中央市民病院糖尿病内分泌内科藤島雄幸,他
必要なのはSGLT2阻害薬ではなくケトン体なのですから,「ケトン体そのもの」 又は 「体内で速やかにケトン体に変換される物質」を直接投与する方法も考えられます.
特に期待されるのは腎症です.多くの腎症では,これといった効果的な治療法が存在しないため,現時点では 腎移植か あるいは消極的な対症療法しかないのですが,薬剤としてのケトン体はこの状況を打破できる可能性があります.
動物実験ですが,この可能性が実際に確認されています.
糖尿病マウスでは,腎臓の糸球体の細かいヒダ細胞(=ポドサイト)が崩れてしまっていますが[写真 中],体内でケトン体に変換される 1,3-ブタンジオール(1,3-butanediol)を投与した糖尿病マウスでは[写真 下] ,正常マウス[写真 上]に近い状態が保たれました.
ケトン体は,毒物どころか救世主になるかもしれないのです.
[13]に続く
Source: しらねのぞるばの暴言ブログ
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