「アトピー性皮膚炎を根本治療するために原因を知りたい」にどう答える?

「アトピー性皮膚炎を根本的に治したいです。原因はなんですか?」

外来では、こういう質問を時々受けます。
今回は、アトピー性皮膚炎の原因、そして根本治療について相談されたとき、私がどう答えているかを書きます。

質問の背景を理解する

まず、「アトピー性皮膚炎を根本的に治したい」という質問がなぜ出てきたのかを考えましょう。
私の経験上、アトピー性皮膚炎が軽症だったり、コントロール良好だったりするときは、「アトピー性皮膚炎を根本的に治したい」と質問されることはありません。
この質問が来るときは、前医で治療に難渋して、困り果て、疲れ果てていることが多いです。

「アトピーの原因を知りたい」という質問の背景

繰り返す湿疹。
ステロイドを塗ると一時的に良くなるけれど、すぐに悪化する。
塗っても塗っても良くならない。
ステロイドの副作用が怖い。
ゴールが見えない。

さまざまな不安が背景にあって、「アトピー性皮膚炎を根本的に治したい」という質問が出てきます。

まずは今までの治療経過や、治療内容をよく確認しましょう。
そして、アトピー性皮膚炎診療のゴールを共有しましょう。

ちなみに、アトピー性皮膚炎診療のゴールは、私は3段階あると思います。

アトピー性皮膚炎診療のゴール
  1. ステロイド外用薬を適切に使って、湿疹のないすべすべの皮膚を目指す。
  2. 保湿やプロアクティブ療法で、湿疹が再燃しない状態を維持する。
  3. やがてプロアクティブ療法を(場合によっては保湿も)終了できる。

今、子どもはどのゴールを目指しているのか、まずはそれを確認し、ゴールを共有しましょう。
(現実的には手や指だけがゴール1を目指しており、手や指以外は2を目指すということもありますが)

アトピー性皮膚炎の原因は? メインは「掻くこと」

治療経過、治療内容、ゴールを共有できれば、アトピー性皮膚炎の原因についても一緒に考えていきましょう。

アトピー性皮膚炎ガイドライン2021には病態生理についてもばっちり書いてあります。
無料で読めます。
本当に助かります。

イラスの上のほうに、5つの原因が書かれています。

アトピー性皮膚炎の原因
  1. 皮膚の表在細菌叢の異常
  2. 食物やダニなどの抗原
  3. 暑さ・寒さ・乾燥・汗などによる外的刺激
  4. 先天的・後天的な皮膚バリア障害
  5. 掻把(掻きむしること)

この中で、私がもっとも重要な原因だと考えているのは、④の一部である「後天的な皮膚バリア障害」と、⑤の「掻把」です。
皮膚を掻きむしることで、皮膚が傷つき、それが皮膚バリア障害となるわけですから、もっとも重要なのは⑤の「掻把」だと考えています。

逆に②の要素は、皮膚バリア障害が改善すれば食物もダニも皮内に侵入できませんので、あまり重視していない要素です。

①と③もなかなか介入できない要素です。
皮膚の黄色ブドウ球菌を減らそうと躍起になると、帰って皮膚を傷めることにもなります。
暑さ・寒さ・乾燥に配慮しようとも、エアコンと加湿器で対応するには限度があります。
汗をかいたらすぐにシャワーというのも、限度があります。

④の「先天的な皮膚バリア障害」は、アトピー性皮膚炎に家族集積性がある理由なのでしょうが、これも何か介入できるわけではないので、私はあまり重視していません。

私は「掻いて皮膚にダメージを与えることが、アトピー性皮膚炎のもっとも大きな原因です」とお答えしています。

「掻くことで、皮膚が傷つき、皮膚の下で炎症性のサイトカインという物質ができます。これによってリンパ球が刺激を受けて、炎症性の反応がさらに進行します。掻いて皮膚が傷つくことが、アトピー性皮膚炎をさらに悪化させる原因です」と説明します。

痒いから掻いてしまう

アトピー性皮膚炎が悪化する最大の原因を「掻くこと」と定めたなら、次に考えるべきことは明白です。
掻かなくすればいいのです。

といっても、痒ければ搔いてしまいます。

ですから、痒みをしっかり取り除くことが重要となります。
痒みが取れれば、子どもはそのうち掻かなくなります。
掻かなくなれば、皮膚が傷つくこともなく、炎症性のサイトカインも減ります。
それはやがて、アトピー体質の改善につながります。

痒みをしっかり取り除くために、ステロイド外用剤は使われます。
ステロイドはただの対症療法だと思われるかもしれません。
アトピー性皮膚炎の根本治療ではないと思われるかもしれません。

ですが、アトピー性皮膚炎が加速する原因が「痒くて掻くこと」であれば、その痒みを抑えるステロイド外用治療は「対症療法にして、根治療法である」と私は考えています。

掻けなくするというアイディアはどうか

ちなみに、掻かなくすることに併せて、掻けなくすることも考慮されるかもしれません。
たとえば、手にミトンをつけて、掻けなくすることは確かにできます。
でも、痒いのに掻けないのはかわいそうですし、手にミトンは子どもの自由な行動を制限しているので、やはりお勧めできません。

爪にワセリンを塗って、強くは掻けないようにするくらいが限界かなと思います。

「アトピー性皮膚炎を根本的に治したいです。原因はなんですか?」と聞かれたら

私はこう答えています。

アトピー性皮膚炎の原因を聞かれたら

アトピー性皮膚炎を悪化させる原因は一つではありません。
皮膚に住む細菌、皮膚につく食物・ダニ、暑さ・寒さ・乾燥・汗などによる外的刺激、先天的または後天的な皮膚バリア障害、そして掻きむしることが原因です。

この様々な原因の中で、もっともウェイトが大きいのが、掻きむしることです。
掻くことで、皮膚が傷つき、皮膚の下で炎症性のサイトカインという物質ができます。
これによってリンパ球が刺激を受けて、炎症性の反応がさらに進行します。

掻いて皮膚が傷つくことが、アトピー性皮膚炎をさらに悪化させるのです。

ちょっと長いですね。
でも、上手く説明すると「だから、ステロイドをしっかり塗るんですね」と理解が進みやすくなります。
そして、外用剤への意識が変わり、よりしっかりとした治療が継続できるようになり、アトピー性皮膚炎が寛解に向かいます。

Source: 笑顔が好き。

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