【この記事は 第65回日本糖尿病学会 年次学術集会に参加したしらねのぞるばの 手元メモを基にした感想です. 聞き間違い/見間違いによる不正確な点があるかもしれませんが,ご容赦願います】
これも 今回の学会 シンポジウムで紹介されていたトピックスです.
S25-5 運動バイオマーカーとテキスタイル型ウェアラブルデバイスを用いた身体活動量の見える化に向けた取り組み
岩部真人/東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科
この講演の中で,岩部先生は
- 糖尿病に運動療法が有効なことは数々の研究で示されている.
- にもかかわらず 運動療法を実際に実行している患者は少ない.
- この乖離の原因の一つに,運動量を客観的・定量的に評価できる技術が不十分なことがある
多くの人は 『何を言うか, 万歩計や腕時計型の活動度計で一日のカロリー消費が測れるではないか』 と思うでしょうね.私もそう思いました.
そこで こういう実験が行われたそうです.
この実験では,その時点で日本で『総エネルギー消費が測定可能』及び『研究用途に使用可能』として販売されていた下記の12種の活動度計の性能を測定しています.
参加者は21歳から50歳までの健康な成人19名(男性9,女性9)で,肥満ではなく,通常の日常生活に支障のない人です.全員に上記の12種の活動度計をすべて『全部のせ』で同時に着用してもらいました.
全部身に着けるとこういうことになります. すべてメーカー指定通りの装着です.この格好で歩いていたら,すごい健康マニアと思われるでしょうねw
19人の被験者は,それぞれ一人ずつ ベッド・トイレ・運動器具を備えた完全密閉の代謝測定室で24時間生活してもらいました.室内生活中は あらかじめ指定されたメニューにしたがって,食事,テレビの視聴,トレッドミルによるウォーキングなどの運動,デスクワークなど,できるだけ典型的な日常生活を送ってもらいました.そして被験者が呼気から発生した二酸化炭素の総量から,消費エネルギーを正確に測定しています.この結果と,12種の活動度計に表示された『消費エネルギー』を比較しています.結果はこうでした.
精密な代謝測定による 2093kcalと比較して,機種により大きな差があることに驚きます. 最低値と最高値では 約 500kcalもの差があります.どの機種がいいとか悪いとかという以前に,これほどの差があってはどれを信じたらいいのかわかりません.もっとも正解に近い値を出した機種でも 他の条件でこうなるとは保証されず,結局 これらの簡易測定器で 日常の運動量=消費カロリーを見積もるのは限界がある,これが 岩部先生の解説でした.
なぜこうなるのでしょうか?
それは現在の活動度計の測定原理が原因です. これらの簡易型は 装着している人の動作(=体の動き)を加速度センサーで検出し,その『加速度の変化』=『体が動いた』=『カロリー消費した』 と計算しているからです.
したがって,体がほぼ静止していれば,立っていても座っていてもカロリー消費は同じと計測されます. また私が 20kgのリュックを背負って山道を登っても,手ぶらで神社の石段を上っても,登る速度が同じなら,カロリー消費は同じと計測されます. つまり,現在の活動度計は『身体負荷』を計測していないのです.したがってエアロビクスやダンスのように激しく体を動かせば高カロリー消費とカウントされる一方で,重い負荷のかかる運動をゆっくりやってもカロリー消費は少ないと計測されます.
これは私も実感していています.
この季節の芝生のメンテは重労働です. 何度も立ったりしゃがんだりして雑草を抜き,さらに芝刈り機(これ,結構重いのです)を振り回して芝を刈り取って,大量の芝をゴミ袋に詰め,ズッシリと重い袋をゴミ集積場まで運ぶ,これの繰り返しです. もう全身汗だくになります.しかし,腰につけた活動度計では なんと約100kcal,つまりほぼ3千歩ほどゆったりと散歩したのと同じカロリー消費だそうです.
食事のカロリー見積りは ほとんどあてになりません. それに加えて カロリー消費も正確に見積もれないとなると,結局カロリーの出入りから体重増減を予測するなど ほぼ不可能でしょう.
[続く]
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Source: しらねのぞるばの暴言ブログ
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