なにかあったらどうするんだ症候群

 新型コロナの第7波もようやく終焉を迎えつつあり,発熱外来で訪れる患者さんの陽性率もかなり低くなりました.インフルエンザもたまに陽性が出ますが,昨年よりは多いとは言えコロナ禍前のような流行には程遠い印象です.

 さて,ようやく重い腰を上げた政府は,ゴールデンウィーク明けからこの新型コロナウィルスの感染症分類を2類から5類に格下げすることに決定,またマスクの着用も今月3月半ばからほぼ大幅に緩和する方針を打ち出しました.

 賛否両論はあるでしょうが,私個人としては,ようやくこの時が来たか,と喜ばしく思います.

 マスクに関して厚労省の示したその要旨は,ざっと以下の通りです.

 マスクの着用は原則不要,着用は個人の判断に委ねられるが,以下の様な場面はマスクが推奨される.
・医療機関や高齢者施設などへ訪問する時,混雑した電車やバスに乗車する時.
・有症状の人,検査で陽性となった人,同居家族に陽性の人がいる時に,通院などやむを得ない外出時.
・重症リスクの高い人が流行時に混雑した場所に行く時.
・医療機関や高齢者施設などの従事者の勤務中.事業者が感染対策上等により,利用者又は従業員にマスクの着用を求めることは許容.

 しかし予想はしていたものの,案の定,国民の間ではマスク着用の是非をめぐって困惑の声が拡がっているとのことです.
 
 たとえば学校などでは,卒業式や入学式にマスクをどうすればいいのか,とか入試が近いので親としては心配だから子どもはまだマスクをするべきだ,とか,もしも感染したら誰が責任を取るのか,とか喧々諤々の意見が出て教師も父兄も困惑しているというのです.
 学校側も一部のモンスターペアレントからの批判を恐れて及び腰のようですし,例によって不安を煽ることにしか興味のないマスコミは,毎度ながらマイナスのイメージばかりの報道を垂れ流しています.

 政府がはっきりとした方針を示してくれないからだ,という人がいますが,上記方針にそれほど目くじら立てるほどの問題があるとは思えません.

 要は,感染予防が必要と感じればお互いが義務ではないが自主的に着用する,医療機関,交通機関,店などではそこのルールに従う,そして何より,マスクをしない人,させない人に対して誹謗中傷はしない.それだけのことだ思います.それとも,マスクの着脱の判断さえ自分では出来ないとでもいうのでしょうか?

 ただ,ルールとして決められているならば従うのが筋だと思います.
 あのホリエモンが,マスク着用を求めた飲食店や飛行機のCAを SNSで辛辣に批判していますが,この行動は身勝手と言わざるを得ません.店や航空会社が決めたルールであるわけですから,それに従うのが常識であって,たとえば自分は靴は脱ぐ習慣がないからと言って訪問先で居住者に逆らって土足で上がることは許されないのと同じことですし,嫌ならばその店や航空会社を利用しなければいいだけなのです.

 日本人の行動規範の大きな根幹をなすものに,何よりも他人に迷惑をかけない,和を尊び周囲に従属的に行動する,ということがあります.
 コロナ禍においては,奇しくもこの規範の負の面が露呈したということでしょう.マスクひとつにしても,感染防止のためにマスクをするというよりは,鼻から下のメークに時間をかけなくて済むからなどという女性の声もありますし,ちょうど花粉症の季節でもあるという理由もあるでしょうが,多くの場合はやはり,周囲の批判の目に晒されるのを恐れて我慢してでも外せなくなってしまっているということのようです.

 そしてもうひとつ,アスリートの為末大さんが面白いことを言っていましたが,日本人は今,「何かあったらどうするんだ症候群」に罹患しているとのこと.最近の日本人は何か新しいことを行おうとしても結末を心配ばかりして思い切った決断が出来ない,予想外の結末になると厳しく批判される,なので失敗が許されない空気があってイノベーションも起こりにくい,という極めて厄介な「病気」です.
 コロナ禍になってからますますこの症候群が悪化し,マスクひとつ外すのさえ,その後のことばかり心配して容易にできないのだと思います.

 決断力のない某首相が「検討使」として揶揄されていますが,まさに彼も「何かあったらどうするんだ症候群」の疑い濃厚ですし,かと言って私たち国民とてマスクの件を考えただけでも偉そうなことは言えません.

 今,ウクライナでは,ロシアによる卑劣な侵攻により連日のように多くの犠牲者が出ていて,なんの罪もない多くの人々がいつ終わるともしれぬ戦禍に怯える過酷な日々が続いていますし,混沌とした世界情勢は,一歩間違えれば第三次世界大戦に突入するかもしれないとさえ言われるほど極めて不安定になっています.

 なのにこんな時に,マスクの着脱云々だけで呆れるほど不毛な議論をしている国など,世界中のどこにあるでしょう.まさに平和ボケここに極まれりではないでしょうか?


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Source: Dr.OHKADO’s Blog

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