誰も、乳がんになりたくてなったわけじゃない。

もう、かなり前のこと――

その日は、
1年に1度の全身検査の日だった

CT検査やら骨シンチやら
マンモグラフィやらで、
ほぼ一日、病院に缶詰めになる

殊に骨シンチは時間がかかる

撮影時間もそうだが、
骨に薬剤が回るまで
2時間前後の待ち時間があるのだ

  ※骨シンチ(骨シンチグラフィ)
    全身の骨のレントゲンで、
    骨に転移がないか調べる検査

そのため検査の日は、
まず骨シンチの注射をする

その日は、
初めて当たる外科の看護師さん

右腕の静脈から薬を入れながら
こんな質問をしてきた

「今日、お仕事は?」

病院に行くのは、平日の昼間

多くの人は仕事をしている時間帯だ

検査のため、
わざわざ休むひとも少なくない

きっと私もそう思われたのだろう

「仕事、していないんです」

こんな身体じゃ仕事もできない

がんであることを隠しながら
職に就いたところで、
こんな狭い街

どこで誰が見ているか...

それに噂が広がるのも早い

かといって、面接で“がん”と言えば、
採用されるかどうか...

「あ、そうなんだ。じゃあ、主婦?」

と、看護師さんは続ける

“主婦”――

こんな身体じゃ、
結婚できるかどうかもわからない

「いえ、独身です」

「えー。それ、いいなぁ」

あのね、私、がんなの

独身で、仕事もしないで
遊んでいるわけじゃないの

今、がんの治療しているの

つらい副作用と闘っているの

再発の不安と闘っているの

人生の先も見えないの

それなのに、
「それ、いいなぁ」って...

看護師さんが
がん患者にいう言葉なのかな...

誰も
がんになりたくてなったわけじゃない

あれから10年以上経つが、
未だに忘れられない出来事だ

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Source: りかこの乳がん体験記

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