第66回日本糖尿病学会の感想[5] 2型糖尿病の『型』

健康法

【この記事は 第66回 日本糖尿病学会年次学術集会を聴講した しらねのぞるばの 手元メモを基にした感想です. 聞きまちがい/見まちがいによる不正確な点があるかもしれませんが,ご容赦願います】

一般口演セッション49は,健康診断データを解析した報告を集めたものでした.

日本は,地域又は職場での集団健康診断が行われる世界でも珍しい国です.
しかも企業において従業員の健康診断を行うことを 雇用主に法律(=労働安全衛生法)で義務付けており,違反すれば罰則が課せられます.

米国にもHealth Careという考えはありますが,それはあくまでも個人の問題であるとされています.

この日本独自の集団健康診断は『意味がない』とか『役に立っていない』という意見があることは承知していますが,数万~数十万人もの大人数について,同じ尺度で測定したデータが得られるわけで,これほどの大規模データになると,疫学研究の『数の威力』が発揮されます.

このセッションでは,そのような大規模健康診断のデータを活用して糖尿病発症リスクを検討した報告が5件出されました.

このうち 私の興味をひいたものが2件ありましたが,その一つがこれです.

1-49-4 階層型クラスター分析によって得られたサブグループに対する糖尿病発症リスクの検討

現在の糖尿病の病型分類は下図の通りとなっていますが;

2型糖尿病とは『インスリン分泌低下を主体とするものと,インスリン抵抗性が主体で,それにインスリンの相対的不足を伴うものなどがある』と書かれていて,いかにも2型糖尿病はインスリンが出なくなっている病気であるかのように表現を工夫しています.

しかし,インスリン抵抗性のある人は,正常人よりもむしろインスリン分泌が多いことは珍しくありません. つまりインスリンの少なすぎる人インスリン分泌が過剰な人とが『同じ病気』だと定義しているのです.これはどう考えてもおかしいでしょう.

血圧の高い人と低い人が同じ病気だと言ったらオツムを疑われます. ところが 2型糖尿病ではそれがまかりとおっているのです.このおかしな定義のために,上表の通り 2型糖尿病だけは,病気に至る『成因』が空白になっています.書けるわけがないですね.

この矛盾を解決すべく,スウエーデンのAhlqvist博士が,Data Driven CLuster分析という手法で,新たに糖尿病と診断されたスウエーデン13,000人 名のデータを解析したところ,【2型糖尿病】という単一の病気は存在せず,1型も含めて糖尿病は 下記の5つの『相互に異なる病気』であると結論しました.

それによれば,従来2型糖尿病と呼ばれていたものは,インスリン分泌不全のもの ,逆に肥満によるインスリン抵抗性のものなどの4つに分かれました.高血圧症と低血圧症が異なる病気であるのと同様に,これら4つは相互にまったく異なる病気なのです.たとえばどの合併症が発症しやすいかはそれぞれに異なっていました

Ahlqvist博士の目的は,このように分類することだけにとどまりません.

『病気が異なるのだから,それぞれに最適の治療法を軽症の内に開始すれば,合併症の発症・重症化を予防できる』

これが目的だったのです.

この口演 1-49-4では,Ahlqvist博士が用いた『Data Driven CLuster分析』ではなく,『階層化クラスター分析』(*)という手法で,健康診断を受診した下記の健常者886人の検査データと その後の糖尿病病発症の有無を解析したところ,

  • 平均年齢: 53.8歳
  • 平均BMI: 22.5
  • 平均HbA1c: 5.64%
  • 平均 HOMA2-IR: 0.9
  • 平均 HOMA2-β: 96.9

Cluster1~Cluster4の,4つの相互に異なるクラスター(=塊)に分かれることが判明しました. 4つのClusterの内,CLuster3,4の人は糖尿病を発症しませんでした.一方Cluster1の人は肥満/インスリン抵抗性の糖尿病発症リスクが高く,Cluster2の人はインスリン分泌不全性の糖尿病リスクの高い人でした.

(*) 階層化クラスター分析:
健康診断結果数値を人間が判断して 似たもの同士に分類する方法です.これに対してData Driven CLuster分析は『すべてをデータに語らせる』,つまり人間の判定を一切排して,すべてのデータ間の『似ている度合い』を計算して分類します.膨大な計算となるのでスーパーコンピュータが必要となります

そして発症した人の経過をデータをさかのぼって調べたところ,Cluster1で糖尿病を発症した人は,まずHOMA2-βの低下,すなわちインスリン分泌能の低下から始まること,逆にCluster2の人は,まず HOMA2-IR=インスリン抵抗性の上昇が起こり,その後HOMA2-βの低下が続いて発症する傾向が明らかになりました.また 4つのClusterの内,もっとも糖尿病発症率が高かったのは Cluster2の人でした.

【2型糖尿病】とおおざっぱにくくっているだけでは,糖尿病が発症しやすいのかそうでないのかの予測や,どの合併症がいつごろ起こるかなど,何も予測できません.

嫌味な言い方ですが,

『糖尿病が悪化するのを待って,その対処法を都度考えるのですか?』

このような研究はもっと進展してほしいものです.

[続く]

Source: しらねのぞるばの暴言ブログ

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