ノーサイドゲーム

内科医

  
   先ごろ行われたラグビーのワールドカップでは,日本チームの活躍はもちろん,世界中から集まった強豪国の白熱したプレーに日本中が熱狂しました.

   私も含めて,今までラグビーとアメフトの違いさえよく知らなかった多くの人たちまでがにわかファンになったようです.難しいルールもあって全てを理解するのは無理にしろ,トライとコンバージョンキックで7点,ペナルティキックで3点という基本的な点の取り方を知っているだけでも十分楽しめます.

   ラグビーに限らず,鍛え上げた身体と技を競うスポーツというものが,何故にこれほどまでに人々を魅了するのか?その理由の1つは,おそらく大半の人間が「理不尽な世界」に生きているからではないかと思います.

   この世の中,どこを見渡しても理不尽と不条理に満ち満ちています.
   努力すれば報われる,頑張ればなんとかなるとは言うけれど,実際は努力しても頑張ってもどうにもならないことの方が多い.要領のいい者,ずる賢い者が上手く立ち回り,正直者,立場の弱い者ばかりが馬鹿をみる.正義は勝つなんてウソだと思わせるようなことばかり.
   世の中そういうものだとはわかっていても,そして歯がゆさと悔しさを感じても自分ではどうすることも出来ない.水戸黄門や大岡越前のような人がいて悪者を懲らしめてくれれば溜飲が下がる思いがするでしょうけど,現実はそう甘くはなく,勧善懲悪なんて夢のまた夢,悪代官たちが幅を利かせているわけです.

   その点,スポーツは単純明快,強ければ勝つ,弱ければ負ける,ただそれだけなのです.
   もちろん実力だけでなく,アウェーかホームかや,審判の公平性や,天候やその時のコンディション等々も影響するでしょうし,勝負は時の運ということもあるでしょう.それでも概ね,より練習したもの,より努力したもの,よりチームワークの良いものが勝利を手にすることが多いという意味で,フェアなのです.

   そしてそのことになんのブレもないから,負けた方も勝者を讃えることができる,そう,試合後はまさに「ノーサイド」であり,憎しみ合うなどということもない(はずなの)です.日本チームが南アフリカ戦で負けた時も試合後にはお互いの健闘を讃えあい,観客たちからも惜しみない拍手が送られていました.

   特にラグビーは,点の取り方も明確ですから見ている方もわかりやすいですし,そして屈強な男たちがぶつかり合う迫力と,チームワークを駆使してただただひたすらゴールに向かうひたむきさが手に取るようにわかるからこそ,より一層感動するのだと思います.

   ところでここ数年,日曜日の午後9時から某民放で池井戸潤原作のドラマが何本も放映されており,私も毎回楽しんで観ていますが,くしくもワールドカップ直前にやっていたのがラグビーをテーマにした作品,「ノーサイドゲーム 」でした.
 廃部寸前の弱小社会人ラグビーチームが様々な逆境に出会いながらもどん底から這い上がり,ついにリーグ優勝を勝ちとる姿を描いたもので,スポーツドラマによくあるパターンと言ってしまえばそれまでですが,池井戸作品らしく,そこに巨大組織を巡るめくるめく人間模様や人々の心の葛藤などを絡ませて手に汗握る展開になっていて,大ヒットした「下町ロケット」や「陸王」に負けず劣らず,素晴らしく感動的な作品でした.

   もちろん,実社会ではドラマのようなハッピーエンドになることは少ないでしようが,だからこそ,困難を乗り越えて這い上がっていく主人公に,実社会で翻弄されている自分の姿を重ね合わせて,明日への活力をもらえるのです.

   さて,来年はいよいよ東京オリンピック,今回のラグビーワールドカップ同様,トップアスリートたちの鍛え抜かれたプレーや数々のドラマに,こんな時代だからこそ,また日本国中が魅了され,勇気づけられて欲しいと思います.


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Source: Dr.OHKADO’s Blog

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