怒涛の1カ月

 9月に入って夜には鈴虫の音色も聞こえるようになったというのに,日中はまだ真夏のように暑い日が続いています.これも地球温暖化の影響なのでしょうか,今後が思いやられます.

 さてこの8月はおおかど家にとっての一大イベントの月でした.

 もう半世紀近く明石に住んでいる,今年93歳,88歳になる私の父母は,私や弟が独立して家を出てからは2人で元気に暮らしていました.
 2人とも3年前くらいまでは他の高齢者と比較しても非常に元気でしたが,母親は2年前の年末に転倒による骨盤骨折を起こして入院したのをきっかけに少しずつフレイルが進み,他にも種々の疾患が出現,また時を同じくして父親も徐々にフレイルが進んでしまいました.

 特にここ最近は脚力体力の急激な低下やひどい倦怠感,その上物忘れなども見られるようになり,通院や買い物などの外出はおろか,普通の日常生活にさえも支障をきたすようになり,私たち夫婦や加古川に住む弟夫婦も頻繁に訪れざるを得ない状態になっていました.
 訪問看護や訪問リハ,ヘルパーサービス等も利用していましたが,自分たちの生活もある私たちもそうそう頻繁に訪れるわけにもいかず,早晩このまま2人だけで自立した生活が出来なくなるのは誰の目にも明らかでした.

 私たちは以前から介護付き有料老人ホーム等への入居も提案していましたが,長年住み慣れた自宅を離れる決心はつき難いようで,何より明石近隣には父母の気に入るような施設もあまりありませんでした.

 しかし,夏前になりさらに状況が悪化,食事摂取もままならないほど衰弱してしまい,父母もさすがに状況を理解してとうとう入居に賛同してくれました.

 神戸市内にまで候補を広げて何軒か物色した結果,幸運にも広さ,料金その他の条件がほぼ父母の希望に沿うような2人部屋が1室だけ空いている施設が見つかりました.
 しかも我が家からも車で気軽に行ける範囲で,駅やショッピングセンターなども近く大変便利なところとあって,それこそ神の助けとしか言いようがありませんでした.
 本来ならば,本人たちにまず見学に行ってもらうのが筋でしたが,とてもそのような状態でさえなく,全て任せると言ってくれたため,ほぼ事後承諾的に決めてしまいました.

 かくしてまさに急転直下の経緯でこの終の住処へ移動したのがほんの1ヵ月ほど前.
 そこからは,入居に伴う種々煩雑な手続き,入居金の振り込み,実家の片付け,荷物や家具の搬入など,様々なことでまさに怒涛の1ヶ月でしたが,ホームのスタッフの皆さんは大変親切な上,何事も迅速的確に対応してくださいました.
 父母もほぼ満足しているようで,9月の初めの日曜日に様子を見に行きましたが,入居時に比較してかなり元気になっており,私たちもほっとしています.
 あの時,偶然このホームが空いてなかったと思うとぞっとするばかりです.

 医学の進歩により平均寿命が劇的に伸びたものの,核家族化と少子高齢化社会となったわが国において,人生の終末期を真剣に考えることは,私たち誰もが避けることのできない時代になりました.

 今やわが国では「地域包括ケアシステム」という旗印のもと,医師,看護師,ケアマネ,介護士,薬剤師,歯科医,理学療法士など多職種が包括的に関わってまさにチーム医療で高齢者を支えることに力が注がれていますし,仕事で多くの高齢者の医療介護に関わっている私も,その大きな恩恵に預っています.

 ただそうは言ってもただ一つ言えるのは,どんなに周囲の援助があっても,やはり最も負担がかかるのは直接関わる家族であるこということです.
 育ててくれた親を最期まで面倒みたいという気持ちは誰しもあるでしょうが,現実はそう簡単ではなく,介護のために結婚や出産を諦めざるを得なかったり,離職せざるを得なかったり,自分たちの身を削っている例は枚挙にいとまがありませんし,これは今社会問題になっているヤングケアラーにも当てはまります.

 私たちも今回の件で,このことを身をもって体験しました.
 住み慣れた我が家で最期を迎えるというのは理想的であり誰しもが望むところかもしれませんが,そのために若い介護者の人生まで狂わせるようなことがあっては決してならないと思いますし,何よりもそれは社会の大きな損失だと思います.
 人生の最期,子供達など介護者の負担が大きいようであれば,誰もが気軽に,また何よりも庶民に手の届く範囲の金額で,住み慣れた地域で容易に質の良い施設に入れるようにすること,そしてそれが当たり前の風潮になるように社会全体の意識を醸成することも必要ではないか?というのが私の意見です.


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Source: Dr.OHKADO’s Blog

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