聖書の創造説や,それを科学にみせかけたインテリジェント・デザイン説(ID説) を信じて,ダーウィンの生物進化論を否定する人は,何も無知蒙昧が原因でそうしている人ばかりではありません.
実際 ID説を強力に提唱している Michael Behe博士 は当代一流の生化学者です.Behe博士は 若い頃に アメリカ国立衛生研究所(NIH:National Institutes of Health) でDNAの構造に関する研究を開始し,当時はこういう論文も発表していました.内容はID説や聖書などとは全く無関係で,DNAのメチル化がその構造にどういう影響を及ぼすかを調べたものです.
1985年以降は Lehigh大学(ペンシルバニア州)の生物学教授となり,
精力的にDNAに関する多数の論文を発表してきました.
この時代の論文には,聖書はもちろん,ID説を示唆するような表現は いっさいみられません.
ところが 2004年に発表したこの論文では,遺伝子重複が進化に寄与しているのではないかと検討していますが;
実は この論文の原稿段階では,『このようなことが起こるのはゼロに等しい確率であり,そこには何らかの知的デザインが関与している』などという記載があったのです.しかしそれらは査読者により すべてReject(拒絶)されたので,最終的に掲載されたこの論文からは削除されています.
しかし,Behe博士は 著書『ダーウィンのブラックボックス』(1996)において,削除された部分をすべて記載(*)しています.つまりこの年までに ID説の信念を抱くようになったのでしょう.
(*) なお,ネット情報では,『Behe博士は,進化は偶然では起こり得ないことを証明し,それは科学論文として発表された』と書いているものがありますが,それは間違いです. そのような記述は すべて拒絶され削除されたのです.
何が博士を そうさせたか
1927年(昭和2年)にヒットした悲しい映画『何が彼女をそうさせたか』です.
生化学者として 輝かしい業績と名声を得ていた Behe博士は,なぜ ID説に傾倒していったのでしょうか. Behe博士は,現在でもLehigh大学教授です.しかし,Lehigh大学は,このような公式見解を表明しています.
Department position on evolution and “intelligent design”
The faculty in the Department of Biological Sciences is committed to the highest standards of scientific integrity and academic function. This commitment carries with it unwavering support for academic freedom and the free exchange of ideas. It also demands the utmost respect for the scientific method, integrity in the conduct of research, and recognition that the validity of any scientific model comes only as a result of rational hypothesis testing, sound experimentation, and findings that can be replicated by others.
The department faculty, then, are unequivocal in their support of evolutionary theory, which has its roots in the seminal work of Charles Darwin and has been supported by findings accumulated over 140 years. The sole dissenter from this position, Prof. Michael Behe, is a well-known proponent of “intelligent design.” While we respect Prof. Behe’s right to express his views, they are his alone and are in no way endorsed by the department. It is our collective position that intelligent design has no basis in science, has not been tested experimentally, and should not be regarded as scientific.進化論と “インテリジェント・デザイン “に関する学科の見解
本大学の生物科学科の教員は,最高水準の科学的誠実さと学問的機能を提供するとコミットします.このコミットメントは,学問の自由と自由な意見交換に対する揺るぎない支持を伴うものです.また,科学的方法を最大限に尊重し,研究実施における誠実さ,いかなる科学的モデルの妥当性も,合理的な仮説検証,健全な実験,そして他者にも再現可能な研究結果の結果としてのみもたらされるという認識も要求されるものです.
つまり,本学科の教授陣は,チャールズ・ダーウィンの偉大な業績にルーツを持ち,140年以上にわたって蓄積された知見に支えられてきた進化論を明確に支持しています.この立場に唯一異を唱えるMichael Behe教授は,「インテリジェント・デザイン」(ID説)の提唱者として知られています.私たちはBehe教授が自己の見解を表明する権利は尊重しますが,それは彼個人の見解にすぎず,本学科が支持するものではありません.インテリジェント・デザインは科学的根拠がなく,実験的に検証されておらず,科学とはみなされないというのが私たちの見解です.
『Behe教授の主張は非科学的だ』と大学の公式ページに書かれてしまっているのです.
Behe博士の論文は 2010年1月のこの論文を最後に,まともな科学論文誌からは 一切締め出されています.博士がID説の論文を投稿しても,即座にReject(拒絶)されます. Behe博士は科学者の世界では葬られてしまいました.
非の打ち所のない生化学者としての道を歩んできたのに,いったい 何がBehe教授をそうさせたのでしょうか?
[続く]
Source: しらねのぞるばの暴言ブログ
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