「君たちはどう生きるか」とは何だったのか?ジブリレビュー⑯

その他ドクター

 

宮崎駿監督の最新作「君たちはどう生きるか」。

世間の評価は賛否両論である。

 

多い意見は「意味がわからない」というもの。

しかし意味がわからないのは今に始まったことではない。

 

制作しながらストーリーを考えるのが宮崎監督のスタイル。

そのためほとんどの作品でシナリオは破綻してしまっている。

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しかし…

 

ストーリーを楽しむのではなく、制作の意図などを知って納得するのが、自分のジブリ作品の楽しみかたである。

しかし今回は事前情報がまったくない状態。

制作側からのコメントがなく楽しむための情報が不足していた。

 

公開からだいぶ時間が経ち、ようやく制作の裏側が見えてきたので、今回は君たちはどう生きるかについて考えてみたい。

 

君たちはどう生きるかのテーマ

 

公式ガイドブックで公開された本作の企画書。そこにこの映画のテーマが書かれている。

それはエディプスコンプレックス。

エディプスコンプレックスの罠にとらわれた少年は闇深い世界をさまよい、死せる母をとりもどすためにたたかい成長し、ついに死せる母と生ける母を取り返し生還する物語

 

エディプスコンプレックスとは、少年が無意識のうちに父を憎み、母に恋愛に似た感情を抱く傾向のこと。

 

ではなぜこのテーマを描くのか。

それはこれが宮崎監督自身のコンプレックスだからである。

 

母親との関係

まず幼少期からの母親との関係の葛藤。

宮崎監督が6歳のときに母は脊髄結核を患い、それから10年近くを寝たきりで生活していた。

そのため母に世話してもらった記憶が殆どないそうだ。

 

十分に母親の愛を感じることが出来ないまま育ち、また母親を失うかもしれないという不安の中で過ごしたと思われる。

 

父親との関係

そして父親との関係の葛藤。

宮崎監督の父親は「宮崎航空機製作所」の実質的な社長を務めていたという。

戦時経済のもとで事業を拡大させ、宮崎家は裕福な暮らしをしていた。

 

宮崎監督はそんな父親に対する嫌悪感と、戦争で儲けた金で生活している自分に対する罪悪感を抱えていたようだ。

 

コンプレックスを描く

 

これまでの作品にも両親をモデルとしたキャラクターは登場していた。

しかし直接的にテーマとして扱うことは避けていたようだ。

自分にとって致命的に大事な部分を隠してアニメーションを作ってきた、そういう自覚はあります。

 

しかし今回は少年時代の自分を主人公にして、コンプレックスと正面から向き合う。

このままだと何か大事な事を言わないまま終わってしまうんじゃないかっていう…

でも…、そこで…やるのかなって

 

そしていかにして克服するかを描くことにした。

ただ自分の回顧談を作りたいと思っているわけではなくて、この罠からどうやって主人公が抜け出してくるか…が自分たちのテーマだと、いや課題だと思っています

 

つまり「君たちはどう生きるか」は宮崎監督が自分のコンプレックスを克服するために作ったプライベートフィルムなのである。

 

物語のラスト、宮崎監督の分身である主人公・真人は母親を取り戻し、そして決別する。

また父親は決して好人物ではないが、息子の救出のため日本刀で武装し塔に向かっていくなど、彼なりに家族を大切にしている人物として描かれている。

これをみると宮崎監督のコンプレックスは無事に克服されているように見える。

 

もう一つのテーマ

 

ただこの映画は当初の通り両親を描いただけのものではない。

もうひとつの大きなテーマは映画の製作中に亡くなった高畑勲監督である。

高畑監督は宮崎監督をアニメの世界へと誘った師匠であり、ともに作品を作ってきたライバルでもある。

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NHKのドキュメンタリー「ジブリと宮﨑駿の2399日」をみると、宮崎監督はなかなか死を受け入れられなかったようだ。

 

そこで自分の気持ちに整理をつけるため、映画の中で高畑監督を描く。

作品に登場する重要なキャラクターである「大叔父」のモデルは高畑監督である。

 

それは一筋縄ではいかず、筆が進まない宮崎監督。

しかし物語のラストでは、プロデューサーの鈴木敏夫をモデルにしたアオサギと協力し、高畑監督と無事に決別することができた。

 

とはいえ、それでも完全には受け入れられていないように見える。

 

作品の中だけではこのテーマは消化できなかったようだ。

 

まとめ

 

君たちはどう生きるかは、宮崎監督の人生の集大成の作品である。

しかし監督の過去や周囲の人間関係を知らないと十分に楽しめないハイコンテクストな映画になっている。

考察しがいがあるのは間違いなく、ネット上では考察合戦が繰り広げられているが、好きな作品かと言われると微妙なところ。

とはいえ80代でこれだけの映画を作った凄まじさは語り継がれていくだろう。

 

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Source: 皮膚科医の日常と趣味とキャリア

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