糖尿病の精密数理モデル[9]

健康法

数理モデルの限界

グローバル監査法人PWC社が開発した 糖尿病発症予測プログラムBodylogicalは,その名の通り,人体(Body)全体をシミュレーションする とてつもなく膨大なモデルです.

現代医学では.患者個人をどれほど詳細に検査しても,現時点での健康状態・病状は把握できても『予想』はできません.それは 上記 PWC社のBodylogicalの紹介記事でも述べている通り,現代医学では 相関性だけで判断しているからです.

相関性だけで言えることは『相関性がみられた』と,ただそれだけです.因果関係を証明したわけではありません.したがって『だからこうなる』とは一言も言えないのです.

一方シミュレーシションではあっても,理論と結論に至る経路は一応明らかにしているわけですから,『こうなるはずだ』とは言えます(当たるとは限りませんが).

両者は似ているように見えて決定的に違います.

たしかにこのシミュレーションプログラムは,数々の仮定を盛り込みつつも 糖尿病患者の過去のバイオマーカー(体重,血糖値,HbA1c,インスリン値など)を入力して,その人にピッタリ合ったCalibraion(較正)を行うことにより,その後の状態を予測できることを示しました.

ではこれで糖尿病の数理モデルは完成したのでしょうか?

私はそうは思いません. 何よりPWC社自身もそこまでは言明していません.それどころか,PWC社は その論文において,現時点では まだこの数理モデルに Limitationが存在することを認めています.

Limitationとは

この記事にも書きましたように,学術論文において,Limitationとは,論文著者自らが,論文内容に対して批判的吟味を表明することです. すなわち,『この研究で導き出した結論の内容は,もっとデータを多くとった場合には変わるかもしれない』『このデータをこのように解釈したが,それは別の考えでも説明できるかもしれない』などと,自分の論文にもかかわらず 自らアラ探しをしてみせるのです.

こうすると論文の価値を自ら引き下げている行為に映るかもしれません.しかし,それは逆です.科学的・客観的であれば,どこを見ても非の打ちどころがない完璧な実験などというものはめったにあるものではなく,批判・再検討の余地のあるものの方がむしろ当然です. したがって,著者自らが『こういう批判がありえることは よくわかっているのだ.決して迂闊に見落としているのではない』と表明することは,そのような批判が存在しうることは意識しながら論旨を組み立ててきたわけで,それは著者がより信頼を得られる行為です.無知ではないことの証明でもあります.

一つの発見があれば,新たな壁が立ちはだかり,その壁を打破すれば さらに新たな壁が....この繰り返しが科学 Scienceなのですから.

エセ科学にLimitationはない

これに対して,『本研究により,完璧な糖尿病治療法が確立された. この方法により 誰のどんな糖尿病でも治せる』などと主張し,Limitationは一切存在しないという論文があれば,それはエセ科学であることを自白しているようなものです.

多数の論文の都合のいいところだけを引用して(Cherry Picking),『この通り,私の説は 既に世界的に証明されている』などとやるのも同じくエセ科学ですね.

だからエセ科学は無敵なのでしょうw

(C) mono777 さん

それでもまだ未完成

ですので,もちろん PWC社が開発したBodylogicalにも多くのLimitationがあります. 論文中で著者自身が表明しているものだけでなく,私が気づいたものも含めて 以下の通りです.

BMI=27未満には適用できない

DPP試験の対象者は BMI≧24でしたが,PWCモデルでは,その内 BMI>27の人のデータだけを採用しています.
BM=27という 中途半端なところに適用限界を設けたのは,おそらく 実データとの対比で,BM=27を下回る人が少なすぎたか,又はBMI27未満を含めると,Fittingがうまくいかず値が収束しなかったのでしょう.つまりPWCモデルは典型的な肥満型糖尿病にのみうまく適用できるようです.逆に言えば いわゆる痩せ型糖尿病は,肥満型糖尿病とは全然別の病気であることの間接的な証明にもなっています.

グルカゴンなどをモデルに組み込んでいない

グルカゴンだけでなく,すべてのインスリン拮抗ホルモンは現時点のPWCモデルには組み込まれていません. 単に『血糖値が低下した時の反射的拮抗作用』と抽象的に定義されているだけです.
これは手を抜いたのではなく,やむをえないでしょうね.DPP試験の時代には信頼できるグルカゴンの測定法は存在せず,したがってデータ自体 存在しないからです.

インクレチンもモデルに組み込んでいない

これも時代背景ですね.しかし,特に日本人の痩せ型糖尿病では,インクレチンの存在を無視できないでしょう.

ニューラル ネットワークは手付かず

血糖値は インスリンやグルカゴンなどのホルモン,そして 筋肉・肝臓などでのグルコース 消費・産生 だけで決まるわけではありません. 最近の研究では,脳中枢から全身に張り巡らされた 神経網=Neural Networkも大きな比重を占めていると理解されてきました. これをシミュレーションに組み込むには,その動作をプログラムでどう表現するか,という難関が存在します.


この通りPWCモデルはまだまだ未完成ですが,逆に『将来の伸びしろ』は十分あるとも言えます.
では 今後 どう発展していくのでしょうか.

[続く]

Source: しらねのぞるばの暴言ブログ

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