年の瀬雑感 ~若い人たちへ~

内科医

 年の瀬が押し迫ってきました.

 今年は長引く猛暑が終わるやいなや秋をすっ飛ばして急に厳冬となり,同時にインフルエンザなどの呼吸器感染症が激増,今月終盤はクリニック前の廊下に検査待ちの患者さんが連日長い列を作っていましたが,スタッフもよく頑張ってくれて,本日,何とか今年最後の診療を終えました.

 先月末には中央区医師会の秋の定時総会をホテルオークラ神戸にて行い,春の総会に続いて議長を務めました.総会の後は多くの来賓も交えて忘年会,また有志で二次会にも繰り出し,他の先生方たちと親交を深めました.

 今月半ばには恒例のクリニックの忘年会,そして合気道の忘年会があり,本当にリラックスした,楽しいひとときを過ごせました.
 合気道は今月の昇段審査でなんとか五段をいただくことができ,25年もの間続けてきてよかった,と心より感じました.

 今年は6月には父親が逝去,そして翌7月には2人目の孫の誕生,と我が家にとってビッグイベントが続きました.先のblogにも書いた通り父親の死後の手続きは想像以上に大変で,弟夫婦たちと4人で東奔西走,来年2月にはいよいよ住人のいなくなった実家を解体売却することも決定,ようやく終わりが見えてきて安堵に浸っています.

 さて,人生には何年かごとに大きな節目があると思いますが,今年はそのひとつだったとも言えます.

 私にとって人生最初の節目は大学に入学して岐阜で初めて一人暮らしを始めた時でした.それまで親の庇護のもとに不自由なく暮らしていた私にとっては,精神的に大きく成長させてくれた時代となりました.

 次なる節目は30歳を超えて米国に留学した2年間,そして帰国後に研修医待遇に戻って東京女子医大に飛び込んだ時でした.

 その後の大きな節目といえば,やはり50歳直前についに開業に踏み切った時でしょうか,ついに一国一城の主となり,何かと苦労もありましたが15年以上,何とか今日まで無事やってきました.

 しかしそれらの節目の中でも,私の人生観に大きく影響したのは,なんと言っても米国への留学でした.

 医局という狭い世界でのくだらない(といっては叱られますが)人間関係や争いにうんざりしていた私にとって,この2年間での経験はその後の人生にとてつもない影響をもたらしました.

 広大な国土に世界中から人種を問わずあらゆる人間が集まり,日本では出会ったこともないようなとんでもなく優秀な人間,視野の大きな人間,常識にとらわれない発想をする人間で溢れていました.彼らと接していると,世界とはいかに広いか,そして自分はそれまでいかに井の中の蛙だったかということを思い知らされました.

 もちろん人種差別も根強く残っていました.それでもそれを肌身で感じたことは勉強になり,そして世界の人々と堂々と渡り合うには,とにかく英語力,そして自分の中にブレない軸が出来ていることが必須であると痛感させられました.

 村社会が基本になっている島国の日本では,何をするにも他人の目を気にしがちですが,米国では他人の意見や行動について周囲の人間がとやかく詮索することはしない,それはその人が自分で決めることであり,もちろん責任も自分が持つという個人主義に貫かれていました.
 わたしにはそれがあっていると思いましたし,帰国してからの自分の行動規範にもなり,自分の人生に覚悟とでもいうべきものが出来ました.

 もちろん米国流の個人主義にも欠点はありますし,世界中から称賛されている日本人の「和を尊ぶ」精神は社会の秩序を保つ上では大きな役割を果たしていることは論をまちません.
 一方それは諸刃の剣で,ややもすると強い同調圧力が働き,優秀な人,尖った人を排除してしまう風潮を招いてしまっているのは,特にここ最近の我が国の状況を見れば明らかです.

 私が帰国後に卒後10年にもなって研修医待遇で東京女子医大に移ることを話した時も,日本であれば十中八九,無謀だと言われたでしょうし,帰国後も周囲からそんな批判を多く聞きました.それは親切心から来たアドバイスかもしれませんが,大半は余計なお世話であり,思い切った選択をした私に対する妬み僻みだったかもしれません.
 一方米国では,誰ひとりとしてネガティブなことは言われませんでした.皆が,「Aki,don’t worry, you can do it!」と言って明るくエールを送ってくれました.

 とにかく自分の人生は自分でしか決められない,失敗を恐れずチャレンジする方が,失敗を恐れて何もしない方よりよほどはるかに得るものが多いのだということを,当時の決断を思い出して実感しています.

 若い人たちには,人生の若いうちに,たとえ半年,いや1ヶ月でもいいから外国に行って見聞を広める,そして外から日本を眺めることをして欲しいと思います.

 当時と異なり今やインターネットでいくらでもリアルタイムな情報が世界中から入る今の時代,わざわざ海外に行く必要はないという意見もあります.
 もちろん情報を集めるだけならそれで十分かもしれません.
 けれども,実際に身知らぬ外国に住んでしか得られない肌身の感覚とでもいうべきものが重要なのであり,その経験こそが人生の大きな糧になるのです.

 当院でも,若い人たちが,学校や転勤やワーホリで初めて外国に行くので英文の診断書や証明書を書いてほしいと,緊張した,それでも希望の眼差しで来院されます.
 私には彼らが見知らぬ外国で無事過ごせるように祈るような気持ちで診断書を書いていますし,健康面で何か心配なことがあれば連絡して来れるようにLINEやメールの連絡先を教えることもあります.

 私は自分の生まれ育った日本という国が好きですし,日本人であることに誇りを持っています.
 ただ,それだからこそ,若い人たちには,外に出てこの国とその有り様を良い部分も悪い部分も含めて客観的に見てほしい,そしてこの国の将来を力強く担ってほしいと思います.


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Source: Dr.OHKADO’s Blog

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