宙ぶらりんになっていた 前回記事の続きです.
昨年11月19日に,一般内科医向けの『糖尿病治療ガイド 2024』(以下「2024版」)が,日本糖尿病学会から発行されました. 前回の発行(以下「2022版」)が 2022年4月15日ですから,2年半ぶりの改訂です.
残念ながら,『2型糖尿病の発症は食べすぎと運動不足によるものだから,本人の責任である』と受け取られかねないこの表現は,今回の「2024版」でも 従前通り踏襲されておりました.
(2型糖尿病は)インスリン分泌の低下やインスリン抵抗性をきたす複数の遺伝因子に過食(とくに高脂肪食),運動不足などの環境因子が加わってインスリン作用不足を生じて発症する.
糖尿病治療ガイド 2024 p.7
『過食(とくに高脂肪食),運動不足などの環境因子が加わってインスリン作用不足を生じて発症する』のだから,逆に言えば 『過食(とくに高脂肪食),運動不足などの環境因子が加わらなければ発症しない』とも読めるわけで,これが『2型糖尿病=自己管理のできない人』のイメージを作りあげてきたのだと思います.
食事療法
それでは,今回の「2024版」で,食事療法はどのように解説されているのでしょうか?
「2022版」と「2024版」とを word to wordで比較すると,全般に大きな変更はありません.どちらも 第4章『食事療法』において,[A]食事療法の進め方 [1]エネルギー摂取量までの項目はまったく同文です.しかし [2]栄養素の構成 の項目には少し変更された箇所があります.
第4章 『食事療法』 [A] 食事療法の進め方 [2]栄養素の構成
「2022版」
患者の病態・治療や嗜好を考慮し,また体重や血圧,検査所見などを参考に栄養素の構成を決定する.
「2024版」
糖尿病の予防・管理のための望ましいエネルギー産生栄養素比率について,これを設定する明確なエビデンスはない.患者の身体活動量・依存疾患,年齢,嗜好性などの応じて適宜,柔軟に対処する.
まず,私が医師だったら「2022版」の表現には 頭をかかえます.「体重や血圧,検査所見」がわかれば P/F/C比率を算出できる方程式でもあるのでしょうか? ここに書いてあることだけで,「栄養素の構成を決定しろ」と言われても どだい無理な要求です.
この点,「2024版」では,冒頭に『P/F/C比率の明確なエビデンスはない』と宣言しているので,基準がないことだけはわかります. しかしその後に続く「患者の身体活動量・依存疾患,年齢,嗜好性などの応じて適宜,柔軟に対処する」は,「2022版」よりもさらに曖昧模糊とした表現です. この文章で 「なるほど そうか」と納得できる医師はいないでしょう.具体的にどう決めればいいのかは何も述べていないからです.
これでは何も書いていないのと同じなので,「2022版」でも「2024版」でも この文章が続きます.
一般的には,初期設定として指示エネルギー量の 40~60%を炭水化物から摂取し,さらに食物繊維が豊富な食物を選択する. タンパク質は20%までとして,残りを脂質とするが,25%を越える場合は,飽和脂肪酸を減じるなど脂肪酸組成に配慮する.
糖尿病治療ガイド 2024 p.39
「一般的には」と断ったのは,エビデンスは存在しないことへのexcuseでしょう.
ただし この表現を,古い『糖尿病治療ガイド 2006-2007』と比較すると;
一般的には指示エネルギー量の 55~60%を炭水化物,蛋白質は標準体重1kg当たり成人の場合には1.0~1.2g(1日約50~80g)として,残りを脂質でとる
糖尿病治療ガイド 2006-2007 p.35
とあるので,この18年間で かなり低糖質側に許容範囲を広げたとは言えます.
2024年版です
そして,お気づきでしょうか? これまで「糖尿病治療ガイド」は,必ず 発行時点から以降2年度分を対象にしていました.
ところが今回は「糖尿病治療ガイド 2024-2025」ではなくて,「糖尿病治療ガイド 2024」なのです.2024年度と言えば,あと3ヶ月も残っていません.
つまり,この「2024版」は本年3月末日までが『有効期限』であって,それ以降は存在しなくなります. このことは 本年4月以降に,「糖尿病治療ガイド 2025」か,又は 「糖尿病治療ガイド 2025-2026」が発行されるであろうことを予告しているわけです. たった数ヶ月の寿命しかないのに この「2024版」を発行したのは,『2024年度は治療ガイドが存在しなかった』という事態を回避するためだったのでしょう.
「2024版」を細かく見ると,誤植があったり,用語が統一されていなかったりと,かなり慌てて出版したことが見てとれます.次の改訂版はどうなるのでしょうか. お楽しみに.
【完】
Source: しらねのぞるばの暴言ブログ
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