メトホルミンを食前に服用すれば食後の血糖値上昇を抑えられるのではないか,という報告です.
欧州糖尿病学会が発行する医学誌 Diabetologiaに昨年 掲載されました.
ただし,この文献を読むと『食前に』という意味合いが予想とは異なるものでした.というよりも,『糖質(グルコース=ブドウ糖)の吸収に,メトホルミンがどのように影響するのか』を厳密なモデル実験で解析していたからです.
糖尿病の薬効試験や食事療法の研究において,常に悩ましいのは,『食事の内容と血糖値との関係は,非常に個人差が大きく,かつ再現性もよくない』という問題です.同じものを食べても,人によって違う結果になるだけでなく,同じ人が同じ食事を同じ時間にとっても,昨日と今日ではまるで異なる結果になることは珍しくないからです.
そこで上記の研究では,『食事の消化・吸収』という擾乱要素(=結果の解釈をややこしくする要因)を一切排除した試験で行っています.
具体的にはこの図の通りです.
被験者に口から長いシリコンチューブを呑み込んでもらい,チューブ先端が胃を出て十二指腸の入り口にまで届くようにしています. そして すべての投薬と「食事」は,このチューブ経由で行っています.つまり胃袋をバイパスしているのです.
被験者は16人(男性:14名,女性:2名). 全員オーストラリアの2型糖尿病の白人です . 平均年齢は 69.9歳で,糖尿病罹病期間は平均10.4年. 平均BMIは 28.7で,白人としては肥満ではありません.平均HbA1cは 6.6%という軽度の糖尿病ですね. もちろん糖尿病以外に胃・腸疾患などを有していない人を選定してあります.また,全員 これまでメトホルミンだけを服用してきました. つまり この試験で初めてメトホルミンを試したのではありません.
実験の具体的手順はこの通りです.
1週間以上の間隔をあけて,上記の4つの処置を全員が受けました.実験は朝の8:00に空腹状態で行いました. 念のため前日の19:00に,オーストラリア/McCainフーズ社の『ビーフ・ラザーニア(590kcal)』だけの夕食を摂り,それ以降は水以外の飲食は一切禁止としています.
被験者は,まずシリコンチューブを十二指腸の手前に到達するまで呑み込みます. このチューブを通じて,ゼロ時間の前 -60分,-30分,そして ゼロ分に メトホルミン溶液(1,000mg)又は単なる生理食塩水を注入します. そしてゼロ時間からは,グルコース(ブドウ糖)溶液を 毎分 3kcalの速度で,60分かけて注入します.糖質180kcal相当の食事を摂ったことになります.
処置1から処置3は,それぞれメトホルミンを注入するタイミングが異なります.処置4は,メトホルミンをまったく注入しない対照群です. さらにどの被験者が 今 どの処置を受けているのかは,試験を実施する医師にも,被験者本人も知らされていません(=Double-Blind;二重盲検試験).
非常に厳密な試験を行ったことがおわかりいただけると思います.
16人全員が処置1~処置4のすべてを受験した結果をまとめると,実に驚くべき,そして『きれいな』結果が出ました.
[続く]
Source: しらねのぞるばの暴言ブログ
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