山根 病院では、院内感染を防ぐためにどういう対処をすべきだった?
根路銘 病院の窓を全部開け放ち、扇風機でも使って室内の空気を外に排出し、ウイルスを追い出せばよかった。窓を開けて「鬼は外!」が最良の方策だったんです。空気中に長時間浮遊し「空気感染」するインフルエンザウイルスと違い、コロナウイルスは「飛沫核感染」しかしない。しかもコロナウイルスは、空気中で1~2メートルも飛べば死滅します。
2003年、SARSが大きな流行を見せたベトナム・ハノイの病院では、病院の窓という窓を開け放ち、扇風機で室内の空気を外へ送り出し、SARSウイルスを空へ放つという思い切った方策をとりました。これによりベトナムは流行終結宣言を出せたんです。実に敬服すべき措置でした。
SARSを克服できなかったA病院と克服したB病院の対応の違いとして、「A病院は空調のある狭い病室に感染者を閉じ込めていたが、B病院のSARS隔離病棟は高い天井と天井扇風機を備えた大きく広々とした部屋で、通風のために窓を大きく開いておくよう指示をしていた」と記録しているんです。これまでのウイルスによる呼吸器感染症では、病院が感染拡大の元となったケースが少なくないという教訓も忘れてはいけません。
(略)根路銘 それは間違いです。クルーズ船をウイルス培養装置にしてはいけません。感染者を閉鎖空間に閉じ込めておくのでは、武漢の病院やSARSの時のベトナムのA病院と同じにならないかと心配です。ウイルスの多くは、外殻(エンベロープ)に覆われたボール状で、外側にトゲ(スパイクタンパク質)をたくさん備えています。コロナウイルスでは、トゲのタンパク質が健康な細胞の表面の受容体(レセプター)にとりつき、そこから細胞内に侵入します。ひとたび侵入したあとは、増殖するためRNA(生命設計図)を駆使して細胞内の材料で自らのコピーを大量に生産、それらが細胞の外に出てさらなる増殖へと拡大を続けます。
ところがコロナウイルスの「トゲ」は脆弱で、空気中では脱げてしまうんですよ。そのため、咳や痰で排出した飛沫に含まれるコロナウイルスは、1メートルも飛べば死滅してしまうわけです。
私は以前、コロナウイルスのトゲの正常な整然とした姿をとらえようと、電子顕微鏡での撮影を試みたものの、とても苦労した経験があるんです。きれいに精製したコロナウイルスを電子顕微鏡で見たところ、エンベロープは大部分がまる裸になり、トゲが欠失していたからです。
あのトゲは、ウイルスが備える攻撃用の武器ですが、コロナウイルスではとても壊れやすい。
私が、ベトナムのB病院の教訓に学び、「空気中に出たウイルスは窓を開け放って外へ追い出せ」と言っているのは、そういう敵の弱点をつけということです。クルーズ船も窓をできるだけ開けることですよ。
Source: 身体軸ラボ シーズン2
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