前回記事では,糖尿病患者と健常人とでは,腸内細菌の様相がかなり異なることを紹介しました.
特に注目されるのは,欧州と中国で独立に行われた調査で,人種はまったく異なるにもかかわらず;
- 短鎖脂肪酸(酪酸)を産生する菌が,糖尿病では少ない
- 通常 正常な腸内ではもっとも豊富なF. prauznitzii菌が,糖尿病の人では少ない
と共通していたことです.ただし,調査対象に投薬者が含まれていたので,その影響があったのかまでは不明です.
ところで 前回のシリーズでは,
腸にはメトホルミン [1][2][3][4][5][6][7][8]
肝臓・血管に吸収されなかったメトホルミンは,無為に体外に捨てられていたのではなく,実は腸壁に長時間留まって血糖値を下げる働きをしている
このことが,最近 世界の学界の注目を集めていることを紹介しました.そうだとすれば;
メトホルミンは腸内細菌に影響するのか
まず影響しないわけがなかろう,というのが 第一印象ですね. 実際そこに着目した報告が最近 多くなっています.
対象者
調査対象者は,南米 コロンビア共和国の都市住民です. 基本データは以下の通り.
糖尿病の対象者は,当然ですが 糖尿病でメトホルミンを服用している人は,薬はそれだけとは限りません.この報文の補足データ を見ると,インスリンや,スタチン,降圧薬が多いです. また 糖尿病だが メトホルミンを服用していない人を見ると,一切 服用薬なしという人が14人中4人います. さらに糖尿病ではない人(対象群)でも84人中60人はまったく薬を服用していませんでしたが,24人は薬(主にスタチン,降圧薬)を服用していました.したがって,この研究は 服薬の影響を完全には回避できていません.
結果
細菌の系統樹分類
原文には 『検出された 各腸内細菌のDNAを16sリボゾームRNA法で分類し,これを Unifracにより系統の近いものをMappingした』とありますが,細菌学に無知の私には何のことやら.しかし調べてみると『16sリボゾームRNA遺伝子配列』決定については,信州大学 川上由行先生の完璧な説明がありました.
『バクテリアの“16sリボゾームRNA”って, なに???』
これでも難解ですが,つまりは細胞DNAの『分子時計』を利用して,細菌の時系列進化情報が得られる,つまりどの細菌がどの祖先から分かれて進化したのかという『系統樹』情報が得られる方法のようです.
系統樹といえば
系統樹と言えば,細菌だけでなくウイルスにも系統樹はあります.最近 大騒ぎになっている 新型コロナウイルスは下のように;
以前流行したSARSやMERSウイルスとは,親戚関係です. ただし図の通り,新型コロナウイルスはSARSとはいとこのような『近縁』ですが,MERSとはひい爺さんが共通くらいの『遠い親戚』にあたります.
糖尿病における腸内細菌の分類結果
そこで,複数の細菌が 系統樹において,どれくらい近いかor遠いかを表したのが下の図です.検出された腸内細菌のゲノムを調べて,それぞれを 細菌系統樹に配置した時,互いにどれくらい離れているのかを表したものです.
腸内の細菌がバラエティーに富んでいれば大きな放射円になります. 反対に特定の系統の細菌ばかりであれば,小さなかたまりになってしまいます.
まず注目されるのは,糖尿病でない人(ND;青)に比べて,糖尿病だがメトホルミンを服用していない人(T2D-Met-;赤)は,明らかに腸内細菌の種類が少ない,つまり多様性が失われています.それに対してメトホルミンを服用している人 (T2D-Met+;黄)は,細菌の種類が増えていることがわかります. ただし,その形はNDと同じではありません.したがって,メトホルミン服用でおなかの調子が悪くなる人は,こういうところに原因があるのかもしれません.
[3]に続く
Source: しらねのぞるばの暴言ブログ
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