「連日の報道で、親も子供もストレスで大変ですとマスコミが取り上げています。だから、ストレス発散のために、外出したいという気持ちもわかります。爆発的な感染拡大に若い人たちに危機感はないのは当然かもしれません。若い人は感染しても比較的軽症ですむとの報道があるからです。しかし現実は違います。若い人でも、重症化して一定数以上は死亡するのです。現実を見つめてください。
もし、自分の知り合いの人がコロナ感染症で亡くなられたらきっと哀しいはずです。そして、亡くなった人にうつしたあなたが、入院せずに軽度ですんでも本当に喜べるでしょうか。不用意に動き回るということは、その可能性を増やしてしまうことなのです。今は我慢する時なのだということを、ぜひ理解してください。出来るだけ冷静に、そして自分を大切に、そして周囲の人を大切に考えてください」
新しく、未知の新型コロナウイルスには「本当の専門家がいません。本当は誰もわからないのです」という前提があり、それゆえ「過去の類似のウイルスの経験のみですべてを語ろうとする危うさがあります」として、こう指摘する。
「専門家でもないコメンテーターが、まるでエンターテインメントのように同じような主張を繰り返しているテレビ報道があります。視聴者の不安に寄り添うコメンテーターは、聞いていても視聴者の心情に心地よく響くものです。不安や苛立ちかが多い時こそ、慎重に考えてください」
県医師会が重要視するのは、「実際の診療現場の実情に即した意見かどうか」だ。
「正しい考えが、市民や県民に反映されないと不安だけが広まってしまいます。危機感だけあおり、感情的に的外れのお話を展開しているその時に、国籍を持たず、国境を持たないウイルスは密やかに感染を拡大しているのです。
第一線で活躍している医師は、現場対応に追われてテレビに出ている時間はありません。出演している医療関係者も長時間メディアに出てくる時間があれば、出来るだけ早く第一線の医療現場に戻ってきて、今現場で戦っている医療従事者と一緒に奮闘すべきだろうと思います」
「テレビなどのメディアに登場する人は、本当のPCR検査の実情を知っているのでしょうか」
報道でも繰り返されるテーマの1つに、「PCR検査」の拡大論がある。車に乗ったまま検体を採取する「ドライブスルー方式」での検査を導入する自治体も出てきている。ただ、こうした検査にも課題はある。
「医療関係者は、もうすでに感染のストレスの中で連日戦っています。その中で、PCR検査を何が何でも数多くするべきだという人がいます。しかしながら、新型コロナウイルスのPCR
検査の感度(編注:感染者に陽性の検査結果が出る割合)は高くて70%程度です。つまり、30%以上の人は感染しているのに『陰性』と判定され、『偽陰性』となります。検査をすり抜けた感染者が必ずいることを、決して忘れないでください。
さっさとドライブスルー方式の検査をすればよいという人がいます。その手技の途中で、手袋や保護服を一つひとつ交換しているのでしょうか。もし複数の患者さんへ対応すると、二次感染の可能性も考えなければなりません。
正確で次の検査の人に二次感染の危険性が及ばないようにするには、一人の患者さんの検査が終わったら、すべてのマスク・ゴーグル・保護服などを、検査した本人も慎重に外側を触れないように脱いで、破棄処分しなければなりません。マスク・保護服など必須装備が絶対的に不足する中、どうすればよいのでしょうか。次の患者さんに感染させないようにするために、消毒や交換のため、30
分以上1 時間近く必要となります」
現場にはこうした壁がある。県医師会は「テレビなどのメディアに登場する人は、本当のPCR検査の実情を知っているのでしょうか。そして、専門家という人は実際にやったことがあるのでしょうか」と問いかける。胸部レントゲン検査やCT 検査においても同様に指摘している。
「胸部レントゲン検査やCT
検査を、もっと積極的にしないのは怠慢だという人がいます。もし、疑われるとした患者さんを撮影したとすると、次の別の患者さんを検査する予定となっても、その人が二次感染しないように、部屋全体を換気するとともに装置をアルコール消毒しなければなりません。その作業は30
分以上、1
時間近く必要となります。アルコールが不足する中、どうすればいいのでしょうか。メディアなどで主張する専門家やコメンテーターは、そのようなことを考えたことがあるでしょうか」
「もう少し、もう少し我慢して下さい」
感染が拡大すれば、重症者も増え、医療機関のベッドは瞬く間に埋まる。それでも「今までと同じように医療は維持しなければならないのです」。そこで取り得る医療体制をこう伝えている。
「軽症の人は、自宅や宿泊施設に移って静養や療養してもらい、少しでも新型コロナ感染症の人のために、病院のベッドを空けるなどの素早い行動が必要です。そして、新型コロナ感染者の治療が終わり、社会復帰しても良いというときこそ、素早くPCR検査をやって確認し、ベッドを開けなければなりません。そのためにも、少しでも時間が必要なのです。医療機関に時間をください。コロナ感染者の増加を、少しでも緩やかなカーブにしなければ、医療は崩壊します」
過酷を極める医療現場の実情、そして差別や偏見がある現実もつづっている。それは、医療従事者本人に限った話ではない。
「今この時も医療関係者は、コロナ感染の恐怖の中で戦っています。戦っている医療機関の医師や看護師や事務職員にも、子供や孫、そして親はいます。その愛する人たちに、うつすかもしれないという恐怖の内で、医療職という使命の中で戦っています。そして自分の子供が、バイキンと言われ、いじめにあうかもしれないという、悲しみとも戦っています」
「実際に病院の中で重症の患者さんの治療を毎日繰り返し繰り返し治療にあたり、家に帰っても人工呼吸器の音が耳から離れず、懸命にしている立ち向かっている医師や看護師の人たちのことを想像してください。そんな恐怖といら立ちと、そしてストレスの毎日の中で生活しています」
そのうえで読者に、現場への理解と、感染拡大防止の協力を呼び掛けた。
「わかってください。知ってください。理解してください。感染が拡大すれば、誰もが感染者になります。そのとき、偏見や差別を受けたらどんな思いをするのか、一人ひとりが賢明に考えて、不確かな情報に惑わされて、人を決して傷つけないように、正しい情報に基づいた冷静な行動をするようにしてほしいのです。まして、地域の医療機関の活動が差別意識で妨げられるようなことは、決してあってはならないことでしょう」
「もう少し、もう少し我慢して下さい。四週間、何か月いや一年以上になるかもしれません。病と闘って生きていたいと、つらい治療と闘っている患者さんもいます。生きていることだけでも幸せなのだと、ぜひ、ぜひ思ってください。安易に外出して、密集、密閉、密接のところには絶対行かないでください。あなたの行動が、新しい患者さんを作ってしまうかもしれません」
「お願いします。私たち医療従事者も、ストレスや恐怖に我慢して戦っています。お願いします。皆さんはぜひ、我慢と闘って、我慢してください。戦いは、長くてつらいかもしれませんが、みんなで手を取り合っていきましょう」
宮川政昭副会長が語る、発信の理由
この「お願い」を編集した宮川政昭副会長はJ-CASTニュースの取材に、発信に込めた思いを語った。「もう少し優しい言葉で書きたいと思っていましたが、現場のことを思うと、強めの言葉で訴えざるを得ませんでした」。これまで神奈川の地で起きてきたことと、それに対するメディア報道の2点が、メッセージの大きな契機となっている。
「神奈川県はクルーズ船『ダイヤモンド・プリンセス号』が停泊した地であり、初期段階から新型コロナウイルスの対応を迫られていました。新型コロナの性格や対処法など、情報が非常に少ない中で対応しなければなりませんでした。クルーズ船には『JMAT(日本医師会災害医療チーム)』も出動し、県医師会員も隊員として数多く出動して対応しました。
3600人という乗員乗客に対応する時、メディアのコメンテーターからは『下船させればいいじゃないか。なぜクルーズ船に閉じ込めておくんだ』という一方的な論もありました。でも、何千人単位を完璧に移動させ、収容し、隔離できる医療施設や宿泊施設はどこにあったのでしょうか。そんな難題に対案を出しながら、批判した報道は当時見られませんでした。
『神奈川県は何をしているんだ。ゾーンを分けるべき。船内で感染が広がる』と叱られました。ただ、船内は航行中に乗員乗客が動き回っていましたから、当初ゾーンをはっきり分けることは無意味でした。感染者と非感染者とに分け、消毒を徹底し、ゾーニンクしても、無症状の潜伏期の患者がいたら、もうすでに感染性を有していますから、まさにイタチごっことなり、非常に困難な作業を迫られていました。
その後、相模原市にもさまざまな問題が起こりました。相模原の病院(編注:新型コロナウイルスによる国内初の死亡者が一時入院。その後看護師の感染も判明していた)に、差別の言動が寄せられたのです。そこに勤める女性看護師は、子どもが『バイ菌』扱いされたり、子どもの保育園から『登園しないで』と言われたり、家族が会社から『出勤するな』と言われたりしました。病院への問い合わせでは電話口で叱咤され、涙を流す事務職員もいるほどでした。病院の前のバス停に『バスを停めるな』と乗客から言われました。
医療従事者からの苦労の報告を聞くたびに、私たちもつらい思いを募らせていったのです。県医師会には相模原の先生方もたくさんおり、地域医療を支えています。今後、軽症者は病院からホテルや自宅に移ることになります。ホテルに健康管理に出動する医療スタッフも、それを支える従業員の方々も同じような思いをされる可能性があります。何とかならないかと思いました。それが、発信を始めた理由の1つです」
「もう1つは、新型コロナウイルスの報道、特にテレビのワイドショーの論調があまりにも一方的だったためです。児玉源太郎の『諸君は昨日の専門家だったかもしれん。しかし、明日の専門家ではない』という言葉があります。この新しい未知のウイルスに、本当の専門家はいないのかもしれません。すべてのことは本当に誰もわからないのかもしれません。過去の類似のウイルスの経験で対応するしかないのは当然ですが、それのみですべてを語ろうとするのは危ういことです。それなのに、その後間違っていたとわかった事柄も訂正せずに、別の話をし続けるようなことがありました。そして専門家でもないコメンテーターが、まるでエンターテインメントのように、同じような感情的に主張を繰り返していたのです。
実際に、コメントの内容が現場状況と異なっていることが往々にしてありました。コメンテーターの方々は実際の現場に足を運んでお話をしているのかと疑問を持ちました。レポーターの画面受けする取材をもとに、ただ遠くから見て、野次馬と同じように発言しているだけのようでした。
医療現場で本当に起きていることを誰かが伝えないと、医療者も患者も多くの人々も、戸惑ってしまうのではないかと懸念しました。画面で伝えられたことに私たちも一般の視聴者のように過敏に反応し、現場に戻って視聴者と同じような反応していた自分たちを、他の医療者にたしなめられるという事態に気が付き、反省したことがきっかけの一つでした。
ですから、県医師会の皆様に『今の状況を教えてくれないか』と呼びかけ、情報を集め、県医師会の『コロナ通信』が始まりました。情報が間違いないことを確認し、まとめなければならないために、時間がかかってしまいました。私たちも発信し始めるのが遅かったと反省しています。もう1か月ほど早ければ良かったと思っています。
そのうちメディア側で情報発信の方向性を修正してくれるのではないかと願ってもいました。ずいぶん現場の声を取り上げてくれましたが、一部では同じことが続きました。これでは医療崩壊と同時に、医療者の精神的な医療崩壊が始まってしまうかもしれないと懸念しました」
「窓ガラス越しに子どもと手を合わせただけで、また現場に戻っていく」
県内各地の医師会員に協力を仰ぎ、現場のヒアリングを丁寧に進め、情報を集約し、「お願い」を公開した。集まった現場の声はあまりにも切実だった。
「どの医療従事者にも家族もいますし恋人もいます。現場で医療行為をした後、どんなに体を清潔にして、感染しないように心がけても、一抹の不安は残ります。今でも聞きます。『家に帰っても自分の子どもが感染しないか心配です』と。だから、窓ガラス越しに子どもと手を合わせただけで、そしておどけた姿を見せて子供が笑ってくれた喜び、また現場に戻っていく。『スマホでは子供のなまの反応を確かめられない』と医療者は語りました。もちろん家族に会って、子供の顔を見て、一緒に温かい物を食べる医療者もいます。それでも『ぎゅっと抱きしめることはできなかった』という声が寄せられます。そういう医療従事者が実際にいるのです。本当に切実です。
JMATでクルーズ船に入った人が、防護服などで完全防備した状態で動くと、1日動き続けることは難しかったと振り返る。装備で息がしづらく、半日で苦しくなります。クリーンな所に行ってやっとマスクを緩められます。それでもまた現場に帰っていきます。実際に脱落しそうになった医師もいます。そんな時、同僚に『ごめんなさい』と謝るんです。一瞬の気の緩みで間違いを起こすかもしれないというギリギリの緊張感の中で対応していました。
医療従事者は『3密(密閉・密集・密接)』を避けられません。通常の日常診療では、患者さんと日々接し、聴診器で胸の音を聞き、腹痛があれば触診します。こまめに消毒したり、マスクをきつめに締めたり、できる限りの感染対策は当然尽くします。ですが、そのための医療物資も本当に足りません。マスクが足りません。アルコールも足りません。そして緊急時に使用する防護服(服とフェイスシールド)もありません。
そういう情報が集まってきました。本当のことを皆さん知ってもらわないといけないと思いました。もし医療従事者が戦線離脱してしまったら、医療のパワーが落ちます。現場の実情を伝えられれば、読んでくださった皆さんと医療者、みんなの連帯感が出てくるのではないかと思いました。そのことで、新型コロナウイルスと闘っていくことができるのではないかと思いました」
一部の報道は「不安をあおって終わります」
新規で未知の新型コロナウイルスには「本当の専門家」がいない。「医療現場では、SARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)など類似するウイルスの経験をもとに闘って、そして目の前の新しい発見に軌道修正して、また闘いを挑んでいます」と話す宮川氏。これまでの報道について「メディアでは、そんなウイルスについての情報発信も徐々に変化しています。最近はさまざまなことが新型コロナウイルスのことが判明し、専門家として以前より冷静な語り口になり、少しずつ軌道修正がなされてきました」と振り返り、こう語る。
「もちろん現場の医療者の対応を批評してもらって構いません。人間というものは完全ではなく、間違ったこともするからです。ですが、常に検証してほしいのです。毎日同じことを主張するのではなく、先日の発言は、改めて確認したところ間違いがありましたとか、そんなことがあれば現場の医療者は戸惑わなくて済みます。
医療現場では、こうじゃないか、分かったそう考えてみよう、いや違った申し訳ない、じゃあこうしてみないかと、試行錯誤の毎日です。誰も知らないウイルスです。現場はそうやって動いています。それでないと確実に前に進むことができません。それを知ってほしい。メディアの方々も言いっぱなしで終わらないでいてくれたらありがたいと思います」
報道が「不安をあおる」。これはネット上でも度々議論の的になる。人々が不安をあおられた結果、社会や医療の場で何が起きるのか。神奈川県医師会も戸惑いと動揺している医療現場を心配する。
「『微熱が続いています。新型コロナにかかっていませんか?』。そう言って受診される患者さんが何人もいます。『大丈夫です。落ち着いてお薬を飲んで、また気になることがあったら来てください』となだめて、やっと気を取り戻します。それでも『検査できないんですか?』と泣いて帰る患者さんもいます。不安で不安で仕方がなくなっているのです。
一部の報道は『危険なウイルスですね』『感染がどんどん広がっています』『あなたの近くにも感染者がいるかもしれない』と不安をあおって終わります。『もう少し落ち着きましょう。不安に思うかもしれませんが冷静に考えてください。どうすればいいか一歩立ち止まって考えましょう。報道する私たちも一緒に考えます』という言葉もほしかったと思います。
現場に対してもそうです。『なぜさっさと検査しないんだ』『全然対応が追いついていない』。クタクタになっている医療現場の人間を後ろから叩くようなことを言ってどうするのでしょうか。どの現場も大きな荷物を背負っています。報道がさらに荷物を背負わせるようなことをしたらどうなるのでしょうか。社会全体が大変な思いをすることの無いように、現場が背負っている荷物を、少しでも軽くする言動が増えてほしいと思うのです。できない原因があります。現場の人間だけでは解決できないことがあるので、その壁を一緒に壊してほしいのです。物資の壁。制度の壁。縦割り行政の壁。医療者だけでは社会の壁を打ち破れないのです。それは報道の人はすでに知っているはずです」
「対応の仕方を伝える提案型の報道が望まれるのでは」
外出自粛要請を受け、現在は「家にいよう」と呼びかける動きも広がっている。だが、今度はこんな報道が見られるようになった。「多くの場所で人が減りましたが、こちらの商店街はこの人だかりです」「駅では今も、こんなに多くの人が仕事に向かっています」。こうした伝え方に神奈川県医師会も疑問を呈す。
「日用品や食料品は皆さん買いに出ます。会社の事情でテレワークできない社員は仕方なく出社しないといけない。生活のために自粛したくても仕事を休めない人もいます。ソーシャル・ディスタンシングが叫ばれても、それができない仕事もあります。保健所、役所、警察や消防、コンビニやスーパー、クリニックや病院、電気やガスや水道、宅配便など、他にも私たちの生活を守るために、それぞれの『現場』で働いている人たちが大勢います。多くは『不要不急』でない人が、不安を抱えながら動かざるを得ないのでしょう。
商店街の様子を報じるなら、『人だかりがある』ことを強調するのでなく、『食べ物がなくなるわけではないから2~3日分買えばいい。家族全員で買い物に出る必要もない。落ち着いて』と、人々が冷静になれるように語ってほしいのです。『老夫婦が手をつなぎ歩いている』のを見て、一緒に外に出なくてもいいだろうと非難できません。認知症をみる老々介護はそれを許さないのです。
加えて、『外出時は最低限どうリスク管理すればいいか』が重要です。『3密は避けて』だけでなく、どうすれば避けられるか。避けられないなら、どうすれば少しでも減らせるか。コメンテーターが提言していけばいい。ただダメではなく、非難するのではなく、対案を明示しなければなりません。もし明らかに対策がないのであれば、本気になって一緒に嘆くしかないのではないでしょう。
テレビの事情も分かります。視聴率を上げるため、あえて危険そうな場所を取り上げるのだと思います。ただ危機感をあおるような報道内容でいいのかどうか。社会貢献を詠うスポンサーの企業イメージが心配です。
危険性を強調すれば不安が募りますが、『軽症であれば大丈夫』と逆に居直る人もいます。両極端です。その際どさが視聴者受けが良いからでしょうか。1人が何かを言ったら『それは言い過ぎかもしれませんよ』とか、『その点はもう少し強調してもいいですね』と、建設的な議論を積み上げていけば、もっと良い世の中になると思うのです。発生した現象を取り上げるだけではなく、『この場合どうすればいいか』と、対応の仕方を伝える提案型の報道が望まれるのではないでしょうか」
「ウォークイン方式の検査を試し始めています」
医療の場では、情報を日々アップデートしながら新たな対応の手を打っている。PCR検査については、神奈川県医師会では課題を検証し、検査体制の構築を進めているという。
「私たちも、できることならPCR検査をもっとやりたい。本当に検査が必要な患者さんはたくさんいます。私も保健所に電話して、なかなか受け付けてもらえなかったことがあります。しかし保健所も本当に人数が少ない。その中でフル稼働して働いてくれています。でも、出来ない現状は打ち破りたいと思っています。
ドライブスルー方式にしても、防護服など物資の問題、1日あたりの処理能力の問題や、精度を維持できるかという問題もあります。検査技師の人数だって必要です。こう考えると、ただ『ドライブスルー検査を導入します』と言っても、何百人という人数を毎日検査し続けることは難しいのです。どこかに壁があることを把握しながら、検査体制をつくらないといけません。各地で行われるようになってきたドライブスルー方式のPCR検査は、諸外国のように来た人を全員検査するわけではなく、正確で慎重な検査体制の中で行われています。そして、実際には事前の問診の上に必要な人が判定されて、検査が行われます。『検査を受けて安心したい』『陰性の証明書が欲しい』という病原体の非存在証明を求める要望にすべて叶えるようにはなっていません。
そして、ウォークイン方式の検査を試し始めています。検査の手技をする人は、PPE(個人用防護具)を装着しなくてもよいのです。シールドボックスを作り、壁を隔て、マスクをして、手袋をして採取の手技を行い、手袋は破棄交換します。これであれば、スピートが上がります。そして、検査を実施している衛生研究所だけでなく、民間の力も借りることで、実施数を増やすことができるようになります。
しかしながら、現状に甘んじている訳ではありません。課題を検証し、新しい検査体制を早急に進めています」
「怖くさせているのは、人間です」
医療現場に身を置き、医療現場の声を聞き続けるうちにわかったことは、新型コロナウイルスの「怖さ」についてであり、それは「『得体が知れないウイルスである』という当たり前のことなのです」と宮川氏は話す。
新型コロナウイルス感染症は、感染者の80%は軽症か無症状だが、20%は重症化し、数%の人は死に至ってしまう。高齢者や基礎疾患をもつ人、免疫の低下した人の死亡率は高くなる。こうした特徴のため、軽症者が重症化リスクのある人に感染を広めてしまうおそれがある。「感染から発症までは5~14日ほどかかります。その間に他の人に感染させているかもしれず、私たちを『意識なき加害者』にしてしまうのです」と、その「怖さ」を語る。
「若いから大丈夫という甘い考えを打ち砕く現実が迫っています。新型コロナウイルス感染症の、約7割が50代以下なのですが、死者の8割超が70代以上だったことが危機感を薄めてしまっています。若い人とて決して無敵ではありません。若い人でも何週間も入院させられたり、なかには重症になったり亡くなったりする人もいます。乳幼児も3%発症し、そのうち10%は重症化し、人工呼吸器を装着しなければなりません。しかも乳児に多いのです。得体が知れないウイルスは、あらゆる可能性を秘めた将来のある若い人の人生を奪うのです」
加えて宮川氏が指摘した「怖さ」は、人間がもたらす混乱だ。
「今の日本は諸外国に比べ、死者数を大きく増やしてはいません。これは、医療者が現場で日々戦っているからです。専門家会議メンバーはじめ多くの専門家が、日本に適した対策を考え、進めているからです。死者増加をどうにか食い止めているからこそ、みんなでもう少し頑張らなければいけません。
もちろん、この方法が最適なのかということは後になって厳しい目で検証しなければなりませんが、現在の状況は、そのようなことに時間をとっていいわけではないでしょう。それなのに、色々な立場の人がこぞって自分の思い付きを競うように連呼しています。まるで人気取りのように。現実にすぐできないことをアピールして、それがいかに現場を混乱させているのかを理解していただけるとありがたいのです。もっと、現場の声に真撃に耳を傾けてください。お願いします。そのようなことをメディアも含めてしている最中でも医療現場では、少しでも多くの人を救おうと働き続ける医療者がいるのです。なるべく時間を浪費しないでください。一緒に集中して取り組んでください。
新型コロナウイルスは、感染症を引き起こし、人間を死に至らしめます。そのことはとても恐ろしいことです。しかしながら、デマも、買い占めも、差別も、誹謗中傷も、不安をあおることも、人間の恐怖心が生み出していることです。怖いことは感染の恐怖から、不安や不満が蓄積し、不当な差別や、不毛な対立が生まれてしまうことです。最も怖いのはコロナではなく、人間のこころです」
どう行動すべきか。考えるきっかけになれれば
最後に宮川氏は、県医師会の「コロナ通信」について、医療崩壊を防ぎ、この苦難を乗り越える一助になるかもしれないと、願っている。
「色々な言葉に恐怖や不安を覚えた方も多いと思います。『医療崩壊』はその1つです。新型コロナウイルス感染症の患者さんを1人でも多く助けるため我々は尽力していますが、一部の外国のように患者さんが病院の廊下に溢れかえる状態になってしまえば、年齢や持病の有無などで高度医療の提供を断念する『命の選択』を行わなければならなくなります。
今まで当たり前に行われていた地域での医療提供が受けられなくなります。交通事故にあった時、心筋梗塞や脳梗塞を起こした時、心不全が悪化した時、ガンが悪化した時、医療が崩壊していると救命できなくなります。お子さんを授かったときでも、安心できる医療環境で出産を迎えられることも危ぶまれるかもしれません。
新型コロナウイルスの感染者が増えれば増えるほど、感染症で命を落とす患者さんが増えるだけでなく、いつもなら助かるはずだった患者さんも命を落とすことになるのです。医療崩壊を防ぐためには、とにかく感染者を増やさないことに尽きます。
そのために、どう行動すべきか。私たちの発信が、少しでもそれを考えるきっかけになれればいいと思います。
これからは、もっといろいろな立場の方々から意見を募ることで、お互いのことをより尊重しあえると思います。そうして助け合えればいい。さまざまな情報を地道に収集し、編集していったら、良い『ガイド』ができるのではないかと思います。医学の専門的なガイドではありません。大事なのは『私たちはどう生きていけばいいのか』です。日々を暮らすための術を、みんなで積み上げていければいいなと思っています」
(J-CASTニュース編集部 青木正典)
備忘録として転載しました。
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Source: 身体軸ラボ シーズン2
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